第145話 『好きな人から告白される』とは何ぞや?
彩子の暗示にかかり、悶々と考え込むくのいち。
「(頭のたんこぶを撫でながら) おいくのいち」
「何よ。私は謝らないわよ」
「お前、今日は髪型がキマッテるな。美容院に行ったのか?」
「貞操の危機を賭して校内美容院のクエストをくぐり抜けたところよ」
「なんかよくわかんねえが、ちょっと付き合ってくれるか?」
「え? あたし達付き合うの?」
言った瞬間、
「(あっ、あたしまた痛い勘違いした!)」
とくのいちは思う。『好きな人から告白される』という彩子の占いの暗示に自分がはまり込んでいる様に感じた。幸い強はこれをスルー。
「チョコから連絡が入った。今日中に松戸彩子のいる教室に顔を出して欲しいんだと。急ぎじゃないみたいだが。俺一人で行くよりお前と二人の方がいいだろ? 彩子ちゃんとお前、LINE友達になったんだよな?」
そう言われてくのいちは太ももの内側に装着している携帯を手にする。
画面を開くと、チョコから『彩子に会いに行け』というメッセージが何回か入っている。しかしあの状況では全く気づかなかった。
ミルクがくのいちを見つめている。『ここは素直に強に従え』と念を送っている様だった。
「あたしで良ければ付き合うよ」
と笑顔で答えるくのいち。強もほっとした様子。くのいちの強烈なかかと落としを喰らってもすぐに回復する強に一同は改めて感心している。
「ごゆっくり〜」
ミルクの声を背に部室を離れる二人。
部室に残ったのは琢磨とミルク。
「やはりくのいちさんは縛り易い」
と小声で独り言を言う琢磨。
「えっ、琢磨さん何か言った〜?」
と少し怪訝な顔で彼を見つめるミルク。
「な、なんでもないよミルクちゃん」
琢磨の予行演習は無事に終了した様である。
「(よしっ、あとは大義名分を残すのみだ!)」
あぁ、ミルクは琢磨にめでたくも縛られてしまうのか、部室で。
強と並んで廊下を歩きながら一人悶々と考え込むくのいち。
「(丁度良かった。松戸彩子に占いが当たらない事を一言くらい文句言ってやるわ。……でもよく考えてみると『好きな人から告白される』ってどうにでも解釈できる言葉よね。あたしはてっきり、意中の男から『好きです、付き合って下さい』って言われるのかと思っていた。だけど『あたしが好きな人』からの告白とは限らない。『あたしの事を一方的に好いている人』からの告白かもしれない。そうすると、『お前いい女だな、一発やらせろ』というあの不良のセリフも『(あたしの事を)好きな人からの告白』と解釈できなくもない)」
くのいちの考え事は続く。
「(もっと言うと『告白される』ってのも愛の告白とは限らない。琢磨があたしの事を好きかどうかは知らないけど『散髪やらせていただけないでしょうか』ってのも一種の告白よね。占いって漠然とした表現の方が考え様によっては『当たっている』と判断されやすいわね)」
恋愛の事になると頭がどんどん回転していくくのいち。
「(血液型占いでも『A型の人は真面目。他の人に気を使う優しさがある。熱しにくいが冷めにくい』とか言われると、例え自分がその血液型じゃなくても何となく当たっている様に感じる。というのも不真面目で他人に気を使えない傍若無人な人間で熱し易く冷めやすい、なんて人はかなり少数派だろうから)」
くのいちの太ももの内側に装着してある携帯のAI『おsiri ちゃん』が、
「かなりの少数派ハケーン(笑)!」
と呟く。
「ちなみにくのいちの血液型はB型なのであった」
とナレーションが入る。
「(こんな理屈はともかく、強はどうなんだろうか? 占い通りの展開はないのだろうか?)」
くのいちは理屈では否定しつつもすっかり占いの暗示にはまっている様であった。でなければ次の様なセリフは出なかっただろう。
「ねえ強。あんたあたしに告白する事ない?」




