第144話 今回の放映は海外のサーバーを経由してネット配信のみ
くのいちが絶体絶命のピンチだ! 強は間に合うのか? ……いや、このお話は賢明な読者の予想を裏切らない。
椅子に縛られているくのいちは、
「(これは抵抗しても無駄なのでは?)」
と思ってしまう。……初めての相手は切磋琢磨? しかも無理矢理? 確かに琢磨は女性にも人気があり、頭もキレる。校長も琢磨の優秀さにはいつも感心している……だけど琢磨には何か違う物をいつも感じていた。強いて言えば心の交流が乏しい。自分の心の痛み、苦しみ、喜びを分かち合えない。どこか異世界の人間の様な違和感がある。
「(携帯アーミーのメガネっ子とはなんちゃって三塁打、あいつとはダイブの世界で二塁打もどきだったけど、あたしもついにホームランか)」
などと自虐的に考えるくのいち。
「こんな時、あいつが助けに来てくれたらなぁ」
と小声で呟いてみる。
強は、
『お前がピンチの時には速攻で助けに行くに決まってんだろ』
とこの前のダイブで言っていた。でもあたしがミルクの浄化モードの攻撃を受けている時、あいつは来てくれたけど結局間に合わなかったんだよね……
とにかくこの作品は仲間の助けが来ない、来るのが遅い。辺りを見回しても携帯アーミーはいない。部室の監視カメラが異常を察知してからこの部室に誰かが来るまではまだ時間がかかりそうだ。しかもこんな場面、他の男には見られたくない。……だけどここは恥ずかしくても大声で助けを呼ぶべきか? でもたとえ誰かが来ても、琢磨とミルクが本気を出したら阻止できる奴なんてあいつ以外にいるのか? ミルクは現実世界では戦闘能力とは無縁の様に振る舞っているけど、あの子はどうしても必要な時は何かしてくる……
そんな事を考えていると琢磨の手がくのいちの胸元に伸びる。
くのいちは覚悟を決めて言う。
「ねえ、この包帯ほどいてくれない? 逃げたりはしないわ。制服は自分で脱ぐ。汚れたり破けたりしたら嫌だから。手裏剣も外した方がいいよね? とってくれるかなあ?」
怯えた素振りは見せず、毅然と振る舞うのがせめてもの矜持(プライド)と思った。
「脱がなくてもそのままでできるよ〜」
「(そのままってどういう事? あたし椅子に縛られているんだよ? もしかして椅子がロボットみたいに変形するの?あたしの知らない変態チックな事をされちゃうの? 今回の放映は海外のサーバーを経由してネット配信での視聴のみなの?)」
ミルクはくのいちの首にタオルを巻いてキュッと締める。
「(これは……特殊部隊の暗殺方法?)」
「じゃあ次はドレープだよ〜」
「(どレイプ? どんなレイプなのよ! 奴隷みたいにやられちゃうの?)」
「くのちゃ〜ん、ちょっと動かないでね〜」
「うーっ」
「ほら、力を入れているとうまくいかないよ〜。リラックス、リラックス〜」
「おかあさーん……」
ミルクはくのいちの前髪にチョキンとハサミを入れる。そしてブローして手鏡をくのいちに見せる。
「申し訳ありません、くのいちさん。最近僕はあなたの前髪が気になって気になって仕方がなかったのです。失礼とは思ったのですが、散髪させていただきました」
「くのちゃんの前髪〜、眉毛と重なっていたから巨大な眉毛に見えて面白かったんだけどね〜」
ミルクはくのいちの首のドレープとタオルを外す。琢磨の包帯がするすると解ける。ミルクは部屋の鍵を開け、ほうきとちりとりで掃除をする。
「三発やらせていただけないでしょうかって……散髪……」
くのいちは全身の力がへなへなと抜ける。
「(恐怖新聞の読者になったみたい。寿命が百日縮まった)」
「これでいい感じになったよ〜」
そこに強が入って来る。
「ちぃーっす」
「あ、強君。ちょうどいい所へ」
「強―! やっぱ来てくれたんだー! ねぇ、ちょっと後ろ向いててくれる?」
「どうした、急に」
「いいから」
強が後ろを向く。くのいちは脚を高く振り上げる。
「遅い!」
とくのいちは言って強の頭のてっぺんにかかと落としを振り下ろす。たんこぶができる。
「うわっ、なんだよ一体? 頭が悪くなったらどうするんだ」
「今日のくのちゃんどうかな〜?」
「痛い」
「えぇ、えぇ、そうですとも。どうせ私はイタい女ですよ。昨日は折角変装して完璧にヒッキーの家に潜り込んだのにチンチラもマンチラも見られなかったし、松戸彩子の占いは当たらないし、今日はとんでもない勘違いをして大恥かいたし」
覚悟を決めたくのいちの脳内想像イラストは「みてみん ガーディアンデビルズ」のサイトで。




