第143話 くのいち、やらせろ
「告白される」という暗示にかかってしまったくのいち。あてもなく三年生の廊下を歩いていると、とんでもない告白が待っていた。
翌日の学校。くのいちは一学年上の三年生の教室のある廊下周辺をあてもなくウロウロしていた。
「(あ〜最近何かイライラする。タイミング良くいじめでもしているカモはいないかしら? ボコボコにしてやりたいのに)」
彼女は獲物を求める肉食動物の様に周囲を見回る。するとおあつらえ向きに一人の不良がくのいちに近づいて来る。
「よう、くのいち。一人か? 相変わらずいい女だなぁ。暇してんなら一発やらせろよ」
くのいちは左足を大きく振り上げ、問答無用で得意のかかと落としを不良の脳天に放つ。強には『モーションがデカ過ぎる』とダメ出しされた技だが、この不良には綺麗に決まった。気持ち良さそうに倒れる不良。何事も無かったかの様に通り過ぎるくのいち。
「(これが占いの成果なの? 『好きな人から告白される』のとはエラい違いじゃない。後で彩子にクレームを入れなくちゃ)」
周りを見回すと小さく拍手喝采する女子と怯えた様にくのいちを見つめる男子生徒達。
「パンツ、水色のシマシマだったよな」
と囁く男子生徒もいるが、
「しっ! 子供を作れない体にされるぞ」
と他の生徒にたしなめられている。
くのいちが女子生徒達にVサインを送ると、
「キャー!」
「やっぱカッコいい!」
と小さく歓声が上がる。
「(ちょっとスッキリはしたけど、告白されるなんて夢物語ね。『一発やらせろ』は告白じゃないよね。今日もし携帯アーミーのメガネっ子が告白してきたら『今日あたし生理中なの』って言って断ろう)」
くのいちは三年生の廊下を通り抜け、ガーディアンデビルズの部室に入る。部屋には琢磨とミルクがいる。
「くのちゃん、待ってたよ〜」
「くのいちさん、ちょっとお話があるのですが。腰掛けてもらえますか?」
「(椅子に座り) 何よ、改まって?」
琢磨はモジモジしながら言う。
「最近のあなたを見ていると、こう、なんか、何と言えばいいのでしょうか、その……」
「あんたらしくない。はっきりと簡潔に言って」
「あなたを見ているとムラムラしてしまって、我慢が出来なくなってしまうのです。僕はどうしたらいいのでしょう?」
「え?」
「三発やらせていただけないでしょうか?」
「はい」
この場合アクセントは『は』ではなく『い』にあった。藪から棒な展開にくのいちは『?』をつけるのを忘れる。正しくは『はい?』だ。すると突然琢磨の包帯が飛んで来る。
「しまった!」
くのいちの体はグルグル巻きにされ、椅子に固定される。ミルクは部室の両隅にあるドアをカチャンとロックする。くのいちの頭の中はパニックになる。
「(何よこれ! 一発じゃなくて三発? これって告白なの? 若い男の子って三発も一度にできるの?)」
「私レベルのマスタークラスになると三日で一発が限度なのであった」
とのナレーションが入る。
「(第一、ミルクも見てるんだよ!……いやダメだ。あの子は『身体検査しよ〜』とか言って、ヤンキーを精神的にも肉体的にも手なづけている。あたしにも絶対に何かしてくる。隣の部屋に厚さ0.02mmのゴムと一緒に変な器具を隠し持っているかもしれない!)」
「観念なさ〜い。何にでも初めての事ってあるよ〜」
不思議な笑みを浮かべるミルクと琢磨。
「そうか、これはクーデターなのね。確かにあたしはガーディアンデビルズのリーダーの称号をほしいままにして、校長からのお手当も大分イロをつけてもらっている。でもあなた達が望むならそれを分け与える事もできるわ。欲しいのはお金? 名誉?」
「なんか死亡フラグ立っちゃったね〜」
ミルクの屈託の無い笑顔を見て、くのいちは何とも言えない恐怖を感じる。
『紅茶を召し上がれ』
などと言いつつ、失禁の恥ずかしめを加えながら虫も殺さない様な素振りで顔面の皮膚を剥いでいく魔女。足元からは炎が上がり体全体をじわじわと焼き尽くす。すぐには殺さない。死ぬ事は許されず苦痛は何度でも繰り返される。ダイブの世界の痛みは疑似的な物だが、くのいちの記憶にはミルクの浄化モードは鮮烈に焼きついている。
くのいちのかかと落としは「みてみん ガーディアンデビルズ」のサイトで。




