第140話 そんなに友達って必要?
くのいちは愛と勇気だけが友達なのだ。それに携帯AIのおsiri ちゃんだっている。おsiri ちゃんならどんなにえっちなセリフも強の声真似で読み上げてくれるぞ。しかもマッサージ機能付きだ!
そこにくのいちの携帯に着信音が鳴る。彼女は我に帰る。
「あれ、松戸彩子からLINEだ……えっと『ヤッホー、今日は演劇の小道具を買いにバンガロービレッジに来たよ。もうすぐ演劇甲子園の全国大会だから頑張ってまーす』か。写メも送ってきた」
写真はショッピングモール内で写したと思われる彩子。胸元が大きめに開いたブラウスでポーズを取っている。自撮りではない様子。モールは他の客も大勢いる様子。
「かっこいいじゃん彩子。連れに撮ってもらったの?」
と返信するくのいち。
するとすぐに彩子から返事が来る。
「お買い物したから、暇そうな店員さんに頼んで撮ってもらったよ」
「1人でお買い物なんだね」
とこれはLINEの返信文ではなく、思わずくのいちの口から出た言葉。
『これでチャットを終わりにするのはちょっと短すぎる』と考えるくのいち。
「こういうのは早めに返信した方がいいんだよね」
そう言って、くのいちはチョコ、強、ヒッキー、くう子を背景に自撮りをしようと微笑む。
(くう子は鉄研部長のカツアゲ事件で、くのいちや強と面識がある)
するとチョコがそれを制止する。
「彩子ちゃんは一人で買い物に来ているみたいだし、くのいちがみんなで楽しそうに自撮りした写真なんか送っちゃダメだよ」
「えっ、なんで?」
「『あたしは友達と楽しくやってます』って自慢してるみたいじゃん」
「そんなつもり無いし。第一、あたしそうまでして友達と一緒にいたいなんて思わないし」
「We are not alone 運動の最中なのよ。リーダーなんだから一人でいる生徒達をいたわってあげなよ」
「(流石だチョコ)」
と頷く強。携帯アーミーを武力ではなく人間力で束ねているだけの事はある。見た目は園服を着た幼児体型の幼稚園児だが。
一方、くのいちは納得がいかない様子。
「友達、友達ってさぁ。結構仲良さそうにしている奴だって裏では陰口言っていたり、失敗を陰で喜んだり、困っている時も見ないふりしたりするよね。友達って呼べる奴って少ないんじゃない?」
「くのいちは『あの子友達いないよね』とか陰で言われるのが嫌ではないのでござるか?」
「あたしそういうのは聞こえない体質だから」
くのいちは都合の悪い事があると、
「聞こえなーい!」
と言って耳を塞いでしまうのを強は何度か目撃した事がある。
「そんなに友達って必要? 例えばさぁ、ジャイアンに友達っている? いないでしょ?」
「ついにジャイアンと認めたか」
「ハート様は? ディオは? クッパ大王は?」
「ボスキャラばっかだなあ」
「じゃあネズミ男や出来杉君や星飛雄馬や矢吹丈や銭形警部は? ほら、みんな友達が居なくても命に別状無いじゃない?」
「各方面から苦情が来るので、今のは聞かなかった事にしよう」
そこにヒッキーの母親が食事を運んでくる。
「さあさあ、ご飯できたから食べてってね。体にいいものを用意したから」
くのいちが即座に立ち上がりヒッキーの母親に近寄ろうとする。それを見てチョコがくう子に目配せをする。
「お母さーん、私達も手伝いまーす」
「あら、気が利くわね。じゃあ、お箸とおつゆ、運んでくれるかしら?」
「わぁ、美味しそうなおつゆですね。こっちから先に運びます」
とくう子。
「生しらすですか? 珍しいですね」
とくのいちも料理を運びながら言う。
「さあみんな、沢山食べてね」
「いただきま〜す」
皆のウキウキした様子とは裏腹に、くのいちは顔を引きつらせている。
「(うわっ、汁よりも遥かに具の量が多い味噌汁。具はキャベツに昆布、ジャガイモに春菊か。どれも絶望的に味噌汁に合わない。おsiriちゃんだってこのチョイスはきっと避けるわ……そして生しらす。茨城の名産だから死んでも悪口は言わないけど、あたしはしらすはちゃんと茹でた方が好きかな。そして焼き魚はイワシ。今では高級魚とかはやされているけど、あの茶色い部分の苦味が耐えられない)」
くのいちは納豆を一口、口に入れる。
「(うわっ、何これ! 納豆に……お酢が入っている! わらづとに六ヶ月間放置プレイを施した物体みたい!)」
くのいちの心の叫びをよそにドヤ顔のヒッキーの母親。
「どうだい? どれも体にいいおかずばかりだろう?」
「そうですね」
とチョコは愛想笑いを浮かべて返事をし、くのいちに言う。
「ねぇくのいち。背景に誰も居ないところで自撮りして彩子ちゃんにLINEしてあげたら? きっと喜ぶよ」
「そう……かもね」
くのいちはやつれた表情で自撮りをする。
『彩子ちゃん、メッセージありがとう。ショッピングモールだと好きな食べ物とか食べられていいよね。あたしも行きたいなぁ』
と打ち込んで写真と共に彩子にLINEする。
そのメッセージをショッピングモールで受け取った彩子はにっこりと微笑む。
『私の占い、当たるよ、きっと。くのいちは告白されるよ』
と彩子はくのいちに返信する。
くのいち以外のメンバーは普通にヒッキーの母親の料理を食べている。
くう子は、
「ケチャップとマヨネーズありますか?」
と尋ねて、イワシ、しらす、味噌汁、納豆にまで赤と黄色のラインを描きながらかけまくる。そして、
「美味しいね」
と言いながらパクパクと食べる。
くのいちは以前南の島に旅行した時の事を思い出す……中華レストランで野菜炒めを注文し、全く味がしないのでケチャップとマヨネーズを沢山かけて無理矢理飢えをしのいだっけ……
フランクフルトをしゃぶっているくのいちのイラストは「みてみん ガーディアンデビルズ」のサイトで。




