第138話 チンチラ、マンチラの実況
強がヒッキーの家の呼び鈴を押した時、「中に入って」とインターホン越しに答えた女性。彼女は何者だったのか?
ヒッキーの部屋の前。強とチョコがドアに耳をつけて盗み聞きを試みている。
部屋の中からくう子とヒッキーの話し声が聞こえる。
「如何でござるか。拙者のチンチラは?」
「あらカワイイわね。ちょっと触ってもいい?」
「もちろんでござる」
「あれっ、イッちゃった」
「触られる事に慣れてないのでびっくりしたのでござる」
「じゃあ今度は私がマンチラを見せるね。ちょっと後ろを向いてて」
「了解でござる」
チョコと強、全集中して聞き耳を立てている。
「いいよ。こっち向いて」
「これがマンチラ。綺麗でござるな。くう子、お願いがあるのでござるが」
「何、ヒッキー?」
「もうちょっと広げてよく見せてくださらんか?」
「えっ、恥ずかしいよ。ちょっとだけだよ」
次の瞬間、ドアがバタンと開きチョコと強がドタンと倒れこみながら入ってくる。
「あれ、チョコちゃんと強君……ねえヒッキー、呼んでいたなら教えてくれれば良かったのに」
とくう子。
鉄研部長のカツアゲ事件で居合わせた事もあり、当然くう子は強の事は前から知っている。チョコもくう子、ヒッキー、兼尾貢のプロモーションビデオで撮影などを勤めたのでくう子とは既知の仲だ。
チョコと強はなんとかこの場を取りつくろおうとする。
「よ、よう。ヒッキー、くう子ちゃん。ちょっとこの辺を通りかかったもんだからお邪魔するぜ」
「座布団がズレてるね。直してあげるよ」
「素敵なティーカップだな。マタドナルドのハッピセットでゲットしたのか?」
「強。せめて『古伊万里ですか?』くらい言いなよ」
「『濃い鞠』って何だよ? ……えーと、あの、その……そうだ! ニューヨークの司法試験に落ちても、俺を雇ってくれるか、ヒッキー?」
苦し紛れに時事ネタを言ってしまう強。
「合格なんて計算は不可能だよね!」
とチョコはひねりを利かせたジョークを言う。ヒッキーにはウケたらしく手を叩いて笑うがくう子はきょとんとしている。ネタを振った張本人の強は十秒くらい経ってからやっとチョコのジョークを理解して笑う。
「そうか。『さん』付けしてるのか」
そこに三角頭巾を目深に被ったヒッキーの母親が入って来る。
「いらっしゃい、お菓子をどうぞ」
「ありがとうございますお母さん」
と言いつつさりげなくお菓子の内容をチェックするくう子。
「それでさあくう子、一つ聞きたいんだけど」
とチョコ。
「なんでも訊いて!」
「肝心のマンチラはどうなったのよ?」
「どう? 私のマンチラ似合うでしょ?」
くう子はポーズを取る。フード状の薄手の布を頭から肩にかけて被っている。
「それがマンチラか」
「金返せ! だよね、強」
「私は時々ちゅくば市の教会に行くんだけど、土地柄スペイン系の信者さんも来るのよ。それでこのマンチラを見かけて気に入っちゃったんだ」
そう言ってくう子は、顔にかかるマンチラの布を少し広げて見せる。
「拙者のチンチラも可愛いでござるよ」
彼はネズミに似た可愛いチンチラを抱いている。
「チンチラはあたしも知っていた。だけどマンチラは意表を突かれたわ」
とヒッキーの母親。
「(あれ、口調が違う)」
と訝しがるヒッキー。真実を確かめねば。
「母上。母上の背はどうしてそんなに高いのでござるか?」
ヒッキーの母親は三角頭巾を目深に被り表情を隠したままで答える。
「それはお前を遠くからでも見つけられる為だよ」
「母上の声は急に若返った感じがするのでござるが」
「新斗、嬉しい事を言ってくれるねぇ。今度お駄賃をあげようね」
母親の頭巾がずれて髪飾りが目に付くヒッキー。
「母上、どうして頭に手裏剣の髪飾りをしているのでござるか?」
「それはね、新斗……お前の局部を切り取って喰っちまう為だよ!」
母親は目深に被っていた頭巾を脱ぎ捨てる。説明するのもアレだが当然正体はくのいち。
「うわぁ、出たーっ!」
「ぐおーっ!」
と大袈裟なパフォーマンスをするくのいち。
「メカくのいちの襲来だーっ!」
「誰がメカくのいちよ!」
逃げ惑うヒッキー。くう子はそれを楽しそうに見つめている。
三角頭巾のくのいちを見て、強もメカくのいちこと機械メイドを思い出す。
「(やっぱあいつは性格が良かったよな)」
「くう子を尾行する強」のイラストは「みてみん ガーディアンデビルズ」のサイトに。




