第135話 ラッキースケベの神はヒッキーに微笑む
クリスタルメイズのバトル攻略法を伝授するヒッキー。プログラム通りにヒッキーに負けたくう子はとんでもない注文をつける。
くう子はお辞儀のポーズを取り、直後にヒッキーに頭上から斬りかかる。三回、四回と新聞紙の剣が振り下ろされる。
ヒッキーはくう子の攻撃を防御しながら説明する。
「上段からの攻撃を一定数以上かわす!」
更にくう子の攻撃が続く。
「その次に斜め上からの中段への攻撃、そして水平斬りが飛んでくる。これもダメージを最小限にして持ちこたえる。左右両方とも防御できないとアウト!」
くう子の新聞紙の剣の突きがヒッキーの胸元に飛んでくる。彼は自分の左手側によけてかわす。そこを狙っていたかの様にくう子の右中段蹴りが飛んでくる。
ヒッキーはそれを左腕でブロックしてそのままくう子にタックルする。彼女が下になった状態で二人は倒れ込む。ヒッキーがくう子を押し倒した様な形になる。
「剣の突きをよけると中段蹴りが飛んでくる。そこをブロックしてタックル。この体勢になってしまえばクコリーヌの刃は届かない。後はゆっくり剣を奪う!」
池面が口笛を鳴らす。強が拍手をする。くのいちが親指を上げる。
「勝負ありね」
「重量のある金属製のブレードだとこうはいかないけどね」
とチョコ。普段重さのある金属バットを自在に操っている彼女の言葉には重みがある。
ヒッキーは先に起き上がり、次いでくう子に手を貸して起こす。
「大丈夫でござるか、くう子?」
「大丈夫に決まってるでしょ」
強はヒッキーの肩を叩いて祝福する。
「ヒッキー、やるじゃねえか」
「とんでもござらん。今のはくう子にプログラム通りに動いてもらって、攻略法をデモしただけでござる。リアルバトルではこうはいかないでござる」
池面がヒッキーに言う。
「すっげー参考になったよ、ヒッキー。これから家に帰ってクリスタルメイズの中ボス戦に挑んでくるぜ」
池面は嬉々として教室を出て行く。
松戸彩子もバトルに感心した様子。
「やっぱり剣の格闘シーンがあると盛り上がりますね。演劇部の次の脚本は私が書く予定なのですが、参考になりました」
そう言って一同に挨拶をして部室から出て行く彩子。
部室に残ったヒッキー、強、くのいち、チョコ、ミルクが片付けを始める。くう子がヒッキーに小声で話しかける。
「あのさぁ、ヒッキー」
「何でござるか、くう子?」
「さっきあたしのパンチラ見たよね?」
顔を赤らめて露骨に動揺するヒッキー。
「な、何の事でござるか? 拙者は何も」
「嘘。最初にあたしがバレエのポーズで足を高く挙げた時、だらしない顔して見ていたじゃない」
「だらしない顔は生まれつきでござる」
「それに、バトルでは私を押し倒した。どさくさに紛れて色々触ったよね」
部屋の掃除をしながら二人の会話を聞いていたミルクが心の中で独白。
「(やっぱりヒッキーはラッキースケベの達人なんだね〜)」
ミルクは先日のダイブでヒッキーとの結婚式に持ち込まれ、二人が立つ結婚宣誓台がガタンと崩れ、ドサクサで胸を揉まれた。
必死に弁解するヒッキー。
「学園ラブコメで太古から伝わる『不可抗力』というやつでござる。クリスタルメイズのあのステージで中ボスを倒すにはあの戦法しか無いのでござるよ。そもそも学園ラブコメで不可抗力が無いと、男女は手も握る事さえ無く一生を終えてしまうでござる」
「眠っているミルクを見ながら嬉し涙を流してシャセイをする人には日常のルーチンワークかもしれないけれど、私にとってはヒッキーのした事は大問題なの。私の純潔を返して」
心の中でチョコが『返す純潔ってどこにあるの?』とツッコミを入れる。
「(ヒッキーのシャセイ〜? 私見てないけど後でくう子に確認しないと〜)」
と内心余り穏やかでないミルク。
(第118話より)
しかし純潔ってどうやって返すのであろうか。
「承り申した。なれば拙者はパンチラのお返しにチンチラをお見せする。それでよろしいか?」
床を掃いたり机を拭いたりしている強、くのいち、ミルク、チョコの手が、一瞬ピクリと反応する。
「チンチラね。それじゃああたしはそれに対抗してマンチラをお見せするわ」
強、くのいち、ミルク、チョコは興味の無いふりを装いながらも床や机を過度にゴシゴシと掃除する。
「それでは今週末のゲーミングラボで」
……くう子とヒッキーは片付けをしながら小声で会話を続けている。辺りの強、くのいち、ミルク、チョコも何事も無かった様に片付けを続けているが、四人とも耳がダンボになっている。




