第131話 興味の無い女を振る時のセリフ
スイーツ繋がりでマッチングした節陶子と沢山くう子。やはり弁護士の娘陶子は、どら焼き食べ放題などには行かない様だ。
「やれば出来るじゃな〜い、強君。仕上げは私がやるね〜」
ミルクは包丁を素早く動かし太巻きをスパスパと切っていく。
「上手く切るもんだな」
「こういうのはためらっちゃダメなの〜。ひと思いにスパッといくのがコツなんだよ〜」
「お前を嫁にする奴は幸せモンだ」
「ありがと〜」
そう言った後、ミルクの声のトーンが低くなる。
「でもそのセリフ、興味のない相手を捨てる時にも使うよね」
ミルクは顔の高さに包丁を持ち、笑顔で強を見つめる。
別にミルクの事が好きかどうかとは全く関係のないやりとりだが、彼女の笑顔に強の本能が反応して背筋が一瞬凍りつく。
「みんな〜、強くんが太巻きを作ってくれたよ〜。食べてって〜」
ミルクと強の前に人だかりができる。
「 (大丈夫だ。俺は南京玉すだれを使いこなす練習をしているだけだ。土地も買ってない。何も怖い事なんてない)」
ミルクのファンとみられる男子生徒が声をかけてくる。
「ミルクちゃん、きょうは裸エプロンじゃないんだ?」
「ごめ〜ん。今裸エプロン、クリーニングに出してるんだ〜。また今度ね〜」
声をかけた男子生徒は、他の男子生徒に、
「お前、軽くいなされちゃったな」
と冷やかされている。
(また今度っていつかな? とマジで期待して、よからぬ想像をする男子生徒達)
「割烹着に頭巾もそそるな」
と他の男子生徒の声。
ミルクはそれを聞いて頭巾の頭にコショウの瓶を載せる。
「わたし、ズキンちゃんだよ〜」
このネタはダイブで一回やったせいか、仕草がこなれている。声も幼稚園児みたいで可愛い。周囲からは拍手が起こる。
彼らからちょっと離れた机と椅子で、沢山くう子が少し大人びた顔立ちのピッグテールの女生徒と太巻きを手にして会話を始める。以前万引き騒動のあった節陶子である。今は以前と比べ明るい表情になっている。スイーツ好き繋がりでくう子とマッチングしたらしい。
節陶子はスイーツハンターを自称し、趣味はパティスリー巡り。
自身も大人びた甘い色気を発している。ダイブではその魅力で、女性には奥手そうな切磋琢磨をも籠絡した。しかし男選びは下手くそで同性の友達もいない。
「陶子さんのお母さんって弁護士の節操先生ですよね」
「母親の話以外だったらなんでも訊いて」
これにはくう子、思わず苦笑い。
「あはは。ホテルのスイーツバイキングって行ったことあります?」
二年生のくう子の問いかけに三年生の陶子が応える。
「タメ口でいいよ。今日の目的は友達作りだろ? 最近行ったのは……ヨルトンのバイキングだったかな?」
「あのヨルトン姉妹のホテルね。すごーい!」
「ヨルトンも本国だと必ずしも高級ホテルって感じじゃないよね。団体客向けのエコノミーなホテルもあればもうちょっとランクが上のやつもあったりで。ロスのディ○ニーの近くのヨルトンは二つあって……」
「東京のは?」
「いいんじゃない? スイーツバイキングにしてはしょっぱ系も割と充実しているし、高級感やちょっとした非日常感も味わえるしね。こないだはケーキの他に鶏の丸焼きが出たよ」
「えっ? 丸焼き? あたし一人で食べ切れるかなぁ?」
「ははは。シェフがサーブしてくれるに決まってるじゃない。くう子って面白いね」
と陶子。友達のいない彼女だが、くう子とは話が合いそうである。
ここでナレーションが入る。
「本当はその気になればシェフのサーブなどなくてもニワトリ一羽丸呑みできるくう子なのであった」
くう子はナレーションをスルーして会話を続ける。
「非日常感か。やっぱりムードも大事だよね」
「行き慣れていない内は特にね。でもちょっと飽きてくるとバイキングの中身の方にうるさくなるよね。ところでくう子はスイーツバイキングは?」
「スイパラとかはたまに行くけど、ホテルは一度きりかなぁ」
「男と行ったの?」
「お爺ちゃんと一緒に行っても『男と行った』事になるの?」
「 (笑みを浮かべて)いいから白状しろ、そこのコスプレ大好き女」
くう子のコスプレ好きは陶子も知っている様である。ヒッキーのユーキューブビデオでのくう子の活躍を、彼女もチェックしていたのだ。
節陶子に言われて、くう子はおどける様に答える。
「よーし、聞いて驚くなよ。あたしは東京ドームシティホテルのスイーツバイキングに行こうとして、茨城藁葺き村旅館『半兵衛』の甘いもの食べ放題に連行された」
第87話のヒッキーのダイブの世界の宿屋で、ミストサウナに入るくのいちのAI イラスト、アップしました。「ガーディアンデビルズ みてみん」で検索して下さい。




