第130話 欲しいのはコーヒー?紅茶?それとも私?
ヒッキーの会社のスマホゲームのヒロインキャラとなったくう子。一方で彼の開発したマッチングアプリによって、We are not alone 運動の友達作りが始まる。
くう子、私服に着替えて帰る道。ヒッキーが途中の駅まで同伴している。
「くう子が協力してくれて助かったでござる。バトルアクションRPGのヒロインキャラが見つからなくて困っていたところでござる」
「このゲームのアプリ、ヒッキーの家の会社が作っているの?」
「左様でござる」
「じゃあヒッキーの家はお金持ちなんだ?」
「そんな事はござらん。スタートした時には何も無くても、そこから頑張って欲しい物を少しずつ手にしていくのがやり甲斐ってやつでござる。拙者も父上の会社のチームと協力してアプリの開発に燃えているでござるよ」
「確かに、最初から何でも持っていたらつまらないかもね。だけどあたしは……」
ヒッキーはくう子に封筒を差し出す。
「何これ、ラブレター?」
「もらい慣れている女性のリアクションでござるな。でも読まずに破くのはご法度でござるよ」
くう子は封筒を開ける。万札が何枚か入っている。
「あら、現ナマだわ!」
「今はこれが精一杯でござる。でもここから頑張って……」
「少しずつ欲しい物を手にしていく。ヒッキーの最終目標は何? コーヒー? 紅茶? それとも私?」
「『欲しいのはくう子』って言ったら拙者はボコボコにされちゃうのでござるか?」
「あたしはお金じゃ買えないよ。多分。今のヒッキーじゃ無理」
「ああ、何か今急にやる気が出てきたでござる!」
「どうしたの、急に?」
「今のくう子の言い方だと、将来拙者がビッグになれば可能性があるみたいでござろう!」
「そ、そうかなぁ? あたしって男をやる気にさせるの上手いでしょ?」
「恐れ入ったでござる」
「そういえば、このゲームのタイトル、まだ聞いてなかったわよね」
「クリスタルメイズ(水晶の迷路)。くう子にはガラスの天井も水晶の迷路も打ち破って欲しいでござるよ」
「ガラスの天井?」
「失礼。とある人(森野ミルク)から又聞きしたでござるよ。『誰でも成功するチャンスがある』なんて言っててもコネクションとかを持っていないと成功の階段を登る途中でガラスの天井にはばまれてしまう、という話でござる。競争社会ではよくある事だと」
「何か難しそうな話ね。でも最初からそんな風に考えていたら上手くいくものも上手くいかなくなっちゃうよね」
日にち変わって放課後のガーディアンデビルズの部室。黒板には、
『We are NOT alone』
と書かれている。三十個の椅子と机は、生徒達でほぼ埋まっている。メンバー一同も黒板の前に集合している。生徒達にチョコが声をあげる。
「はいはーい、皆んなちょっと聞いてくれる? ガーディアンデビルズのチョコこと税所千代子だよ。今日皆んなに集まってもらったのは、マッチングアプリの顔合わせのためだよー」
チョコはそう言って部室内を見渡す。
「アプリで相手が見つかっても何となく声をかけづらいってあるよね。今日はこの場を借りてマッチングした人同士、自己紹介していってね。例の流行り病のせいで一人で過ごす事が多かった人も、ここらで挽回しようよ。基本、これは男女の出会いの場ではないから、その辺はわきまえてね」
チョコの話は続く。
「友達がいないって恥ずかしい事じゃないけど、いるに越した事は無いよね……ってあたしもそんなに友達いないけど。この間ひとりカラオケやってて、ふと『一人じゃない 歌詞』って検索してみたの」
「一人でカラオケしてるのに『一人じゃない』ってググるなんてバカでしょ? でもね、そしたらタイトルだけで100曲、歌詞は4000曲以上もヒットしてびっくりしたんだ」
「CDが何十万枚も売れて、何千人ものファンをコンサートで動員するアーティストだって、一人でいる事を悩んだりするんじゃないかな? 一人より二人。あたし達ガーディアンデビルズがサポートするから、少しでも楽しい高校生活を送ろうよ」
部室に集まった一同、拍手喝采。
そこにくのいちが近寄る
「マッチングした相手とちゃんと自己紹介して打ち解けるまでは、あたしが帰さないよ。さあ、始め!」
くのいちがホイッスルを鳴らす。一同慌ててその場ですぐに相手と挨拶や会話を始める。
一方、部室の片隅では並べた机の上にテーブルクロスを敷いてミルクと強が食材を並べている。二人とも黒いエプロン。
「しいたけ、ミツバ、かんぴょう、卵焼き、キュウリ、鶏そぼろ。下味もつけてあるから〜後は具材を細く切って海苔と酢飯で巻くだけだよ〜」
「お、おう。俺にやらせてくれ」
強は煮付けたしいたけ、キュウリ、かんぴょうをまな板に乗せて切ろうとするが、上手く切れない。
「模範演技を頼む、ミルク」
「模範になるかな〜?」
ミルクは手慣れた包丁さばきでキュウリや卵焼きなどを縦長に切っていく。
「次は玉すだれの上に海苔と酢飯を乗せて、真ん中に具を載せればいいんだな」
「ゴマと鶏そぼろもまぶしてみて〜。酢飯は余り厚く盛ったらダメだよ〜。海苔の巻きしろも残してね〜」
強はぎこちない手つきで玉すだれを巻いて、太巻きを作る。腕力だけはあるので、形はまとまる。
「(これは血の匂いはしないな)」
と確認する強。以前ミルクが作ってくれた特製のクッキーからは血の匂いがかすかに漂っていた。




