第129話 私達は一人じゃない
ヒッキーのアプリによって、友達づくりのプログラムが始まる。一方のヒッキー自身も、ミルクに振られた後、くう子との交流を深めていく。
「はぁ、はぁ。どうだ、参ったか! あたしだってやればできる!」
「『大人の恋愛』の意味を完全に履き違えてないか、あんた?」
その時くのいちの携帯がピロリンとなる。
「早速マッチングしたみたいだね。ウケるー。会ってみなよー」
「会いに行けばいいんでしょ。見てなさいよ」
翌日の放課後。学校の屋内プール。水泳部の女子たちがハードな練習に喘ぎながら泳いでいる。それをヨダレを垂らしながら見守る中年の男性。くのいちは彼に近づく。割井校長である。
「久野君、どうかね。マッチングアプリの成果は?」
「校長、ヨダレを垂らしながらもっともらしい事を言わないで下さい」
「失礼。ヨダレは君の専売特許だったな」
「ヨダレではありません。お口の汗です。でもこのアプリの出来の良さに少し驚いています。こんなにうまくマッチングできるなんて。一体誰が作ったのですか? 琢磨ですか?」
「琢磨君は物凄く優秀だが、アプリやプログラムに関してはもう一人いるじゃないか」
「ヒッキー?」
「ビンゴだ」
「(濡れ濡れのノーパンの若い娘が喘ぎ声をあげるのをヨダレを垂らしながら観賞する仲間に本当に出会えた。凄いけど全然嬉しくない)」
と心の中で独白するくのいち。
ややシリアスな面持ちで校長はくのいちに言う。
「クラスで孤立する生徒がいるといじめや不登校の原因になりやすい。一人では出来ない事も二人いれば越えられる壁もある。そういう仲間づくりに一肌脱いでくれ。これはWe are not alone 運動と命名する」
校長はくのいちに封筒を渡す。
「とりあえずこれで、みんなで太巻きでも作って食べてくれ」
「一肌脱げとか太巻きを食べろとか、あんたがいうと妙にエロいのよね」
「あんたじゃない。割井校長先生だ。それに君の方こそ妙な想像のし過ぎではないかね? 若いから当然だろうが」
「校長先生もこの頃益々お若くなられて。なんかフサフサしてきたし。さぞ誘惑が多くて大変でしょうね。やっちゃえ、オッサン」
「今の発言は各方面から苦情が来そうなので無かった事にしてくれ」
比企新斗ことヒッキーの自宅。広めの敷地に居住用の住宅があり、敷地内の隣の建物には『ゲーミングラボ』と書かれている。その室内では戦闘服のコスチュームを纏った沢山くう子とヒッキーが強化ガラスの床の上で剣を交えて闘っている。
多数のカメラが半球状に二人を包み込む様に設置されており、ガラスの床の下にも半球状の空洞が設けられている。そこにもカメラが多数設置され、くう子とヒッキーは球体の中の赤道平面上で闘っている様に見える。
スピーカーからディレクターの指示が飛んでいる。
「ブレードを上から下、右上から左下、今度は左上から右下。いいぞくう子」
指示通りに剣を華麗に捌くくう子とそれをどうにか受け止めているヒッキー。
「次は真横に右から左、左から右。最後は胴を突く。一旦離れてからまた徐々に間合いを詰める。ここからさっきのセットをもう一回繰り返すんだ。前方にダッシュ、ブレードを上から下、右上から左下。そして左上から右下」
くう子はヒッキーに突きを放つ。彼は左によける。
「途中で相手の動きが止まったら中段に蹴りを入れろ」
くう子はディレクターの指示のままに体を動かしヒッキーを翻弄する。くう子の中段蹴りを受けてふらつくヒッキー。
そこにくう子が頭突きを入れるとヒッキーは白目をむいて倒れる。彼女は馬乗りになりパンチを連打。
「ストップ、ストップ。くう子。いい絵が撮れたよ」
「そう? あたしにも見せて」
くう子はグロッキーになっているヒッキーを引きずってモニターを見に行く。
バトルシーンの再生。くう子はヒロインキャラのクコリーヌとなっている。
中国風の古い建物を背景に剣を振るっている。
くう子と戦っているのはライバルのメデューサ。動きを担当しているのはヒッキー。
ディレクターがくう子をねぎらう。
「くう子、素晴らしいよ。とても剣術の初心者とは思えない。まるで剣の先に目が着いている様な剣さばきだ」
「 (美味しいご飯の為なら剣術の達人にだってなれるもん!)」
「じゃあ次は決めポーズの撮影をしよう。まずは好きなポーズを取ってみてくれるかい?」
『待ってました』とばかりにほくそ笑むくう子。
この日の為に彼女は即席でアティテュード、アラベスク、パッセなどのバレエのポーズを覚えてきたのだ。それらを取り入れながら剣を片手に様々なポーズを取る。
『バレエ同好会に二週間仮入部して良かった』と心の中でもガッツポーズ。
『バレエはそんなに簡単に習得できるものじゃない!』
とくう子の頭の中でツッコミを入れる強とバレエ同好会の金髪ポニーテールのアメリカ人留学生のJK。ちなみに彼女の名前はアリス・ワンダ。熱心なトランプさん支持者である。
一方のディレクターはご機嫌な様子。
「どのポーズもキマッテるね。この調子でバトルシーンはどんどんバージョンアップしていこう!ところで来週も撮影の続き、来られるかな?」
「もちろんです。えっと、ヒッキーは?」
「拙者はくう子の都合に合わせるでござるよ」
くう子はヒッキーの額が少し腫れているのに気付く。冷えたスポーツドリンクの入ったペットボトルを彼の額に押し付ける。
「はい、これで顔を冷やせ♡」
「あいたたた。お手柔らかにでござる、くう子」
ヒッキーのAIイラスト、「みてみん ガーディアンデビルズ」のサイトにアップしました。




