第128話 初デート 勃起
「攻殻機動隊」はSF 設定も独特で、アニメ版も国際政治的要素が多分に盛り込まれ、ヒロインも機械の様に任務をこなす。恋愛も色気も乏しい。女性や若者の視聴者はほぼ脱落するのではないか? おっさんの、おっさんによる、おっさんのためのアニメだ!(おっさん解放宣言より引用)
ちなみに作者はあのサイバーパンクのヒロインが好きだ。『生き残る能力のない奴は勝手に死ね』と普段は部下に悪態をついていながら、現場では可能な限り部下の命を守る。そして最後は責任や汚い仕事は全部自分一人で引き受ける。
くのいちも少しは見習って欲しい……って無理か。
携帯を床に叩きつけようとするくのいちに、おsiriちゃんは澄まして言う。
「おおっと。じゃあ粉々になる前にあんたの検索記録をガーディアンデビルズのみんなに転送しとくね。一つ面白いのがあったなぁ。あんた、あいつとアウトレットへ初デートに行く前に、色々調べてたろ? その時に『初デート 勃起』っていう検索項目をクリックしたよね」
おsiriちゃんを床に叩きつけようとしていたくのいちの手がピタリと止まる。
「あ、あれは『初デート』って検索しようと思ったら予測変換で『初デート 勃起』ってでちゃって、間違ってクリックしただけだもん!」
くのいちの回想シーン。『初デート 勃起』のサイトを読んでいる。
「えっと、なになに……『初デート中に彼が勃起していても、いきなりそれを指摘してはいけません』か。危なかった。これを読んでいなかったら間違いなく指摘していたわ。それから……『彼が元気になっていても、気付かないふりをしてあげましょう。でもどうしてもの時はさりげなくロングコートを貸して前を隠してあげるとポイントアップです』か。うん、いい勉強になったわ」
くのいちの回想は続く。初デート当日。アウトレットモールを歩くくのいちと強。ちなみに二人は『せいしを かけた たたかい』の末にくのいちが強に負けを認めさせ、アウトレットデートの権利をゲットしたのだ。強が執事を勤めると言う条件付きだ。
くのいちは腕には薄紫色に輝くエナメルのバッグ。フェラガモであろうか。服は黒のワンピース。肩から肘、膝から下はレースで半分透けており、長い黒髪と長い手足によく似合う。
高校生離れしたファッション。これで性格がまともでもう少し背が低ければ男の気を惹くはずだが……残念である。
一方の強は黒い執事服。
二人はメンズウエアの店の前で立ち止まる。
「この店に入るわよ、剛力」
「でもここは男ものだぞ、くのいち」
「お嬢様と呼びなさい。今日はあなたは私の執事。忘れないでね」
強、心の中で独白。
「(さっきからあいつ、俺の股間ばっかり見てねえか? 気のせいか?)」
背広を脱いで大鏡の前で薄手のロングコートを試着する強。
「俺、金持ってないぞ」
「剛力、口のききかた!」
「お嬢様、誠にお恥ずかしい話なのですが私めはただ今持ち合わせが不足しておりまして」
くのいち、満面の笑みを浮かべる。
「これにするわ。似合っているわよ剛力。馬子にも衣裳ね。支払いは任せなさい」
そう言ってゴールドカードを見せびらかしている。
回想シーンが長かったのでおsiriちゃんからツッコミが入る。
「何をいつまで幸せそうに回想シーンを続けてやがるんですか、久野一恵!」
おsiriちゃんのツッコミを無視してくのいちの回想は続く。頭で考えている事が声に出ている。
「でも実際には股間がもっこりなんて事はなかったのよね。昔読んだ『シティ○ンター』って言う漫画とはエライ違いだわ。あの漫画は大ヒットして、確か茨城語に翻訳までされたのに。その時のタイトルは『村の猟師』だったわよね。……そういえばあの時のロングコート、強に渡しそびれたまんまだなぁ。何て言って渡そう。『これであたしとのデート中でも思う存分勃起できるよ』とか? キャッ、あたしったら大胆!……」
再びおsiriちゃんからツッコミが入る。
「『キャッ!』じゃねえよ! 妄想が延々と続いてツッコミが入れづらいんだよ。まあ、あんたみたいなお子ちゃまには大人の恋愛は次の東京オリンピックまでお預けだろうけど」
「あ、あたしだって本気を出せば大人の恋もできるんだからねっ!」
「本当かよ? 男と一戦交えた事もないくせに?」
「本当よ。命賭けたっていいわ」
「『本気出す』とか『命賭ける』とか言っている時点で小学校低学年レベルなんだよ。ダッサ」
くのいちは携帯の画面を睨む。
「マッチングアプリの入力、もう一回やり直す!」
くのいちは『何でもいいから要望を』の欄に文字を打ち込む。
『濡れ濡れのノーパンの若い娘が喘ぎ声をあげるのをヨダレを垂らしながら観賞する仲間募集』
(大人の文書って何だよ)
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松戸彩子のAIイラスト、「みてみん ガーディアンデビルズ」のサイトにアップしました。




