第127話 第三部本編 松戸彩子とマッチングアプリ
一人きりの生徒を減らすためのプロジェクトが始まる。
魚池高校のとある女生徒の自宅。彼女の名は松戸彩子。
この作品の第二部の主人公はヒッキーであったが、この第三部では松戸彩子が主人公である。ヒッキーは語尾に『ござる』を付けるのが特徴であった。一方の彼女は小柄で地味な感じ。顔立ちは中の上くらいのごく普通の高校二年生。しかし……
彼女はムンクの『叫び』が背中にプリントされたレインコートを自分の部屋で着ている。頭にはしめ縄を巻き、ツノの様にろうそくを二本立てている。座っている椅子の前の学習机には台座付きの水晶玉が鎮座している。その格好で携帯に何やら入力をしている。
「出身の幼稚園、小学校、中学校、きょうだいの数と年齢、好きなテレビ番組、うわっ、YouTube の登録チャンネルも全部入力? 趣味の欄も細かいわね。スポーツ、サブカル、教養、好きな食べ物、休日の過ごし方、将来の夢、クラス内クラス外の友人の名前をそれぞれ五人まで上げろ、関わり合いたくない奴の名前を挙げろ、いじめの加害者被害者と思われる人物がいたら挙げろ、エトセトラエトセトラ。最後に自分の要望をなんでもいいから書け、か。そういえばあたし、演劇部以外の友達いないんだよね。マッチング希望しよう。
所変わってくのいちが一人暮らしをしているマンション。同じ時刻。彼女もアプリに入力している。
興味のある物、の欄に『一人演劇』と入力している。
「ふーっ、やっと入力が終わったわ。えっと、最後に自分の要望を何でもいいから書け、か。よーし、いくわよ」
彼女の携帯の入力画面が映る。
『身長があたしと同じくらいの天然茶髪の男子に抱きしめられたい。そいつはちょっとバカだけどケンカだけは強くて借家に住んでいる。サイズは小さくてもあたしは構わない』
くのいちが入力を終え、ヨダレを垂らしながら送信ボタンをポチッと押すと、くのいちの携帯のAI、おsiriちゃんが喋り出す。くのいちが悪者を成敗した時に『納豆タイカレーパンくさやの干物風味』などを学食で買ってくるようにアドバイスするお茶目な奴である。
第1話でも部室で寝ているくのいちを、強烈な携帯の振動で絶頂に導いてくれた。
「なーに調子いい事ぶっこいてやがるんですか、くのいちさん」
「あ、あんたはAIのおsiriちゃん。勝手に出てこないでよ」
「言いたい事はわかるよ。でももちっとあいつに素直に接さないとダメじゃね?」
「あんたに何がわかるのよ!」
「あんたとあたしは一心同体。何でも分かるさ」
「何でも?」
「あんた時々メモに怪しげな文章を打ち込んで、あたしの読み上げ機能を使って声に出させてるだろ? 今からそれをここで読み上げまーす」
「それはあたしの一人演劇ごっこのアイテムなのに……」
おsiriちゃん、くのいちのメモを読み上げる。強の声真似をしている。
「くのいち、お前がいないと俺はダメなんだ。ずっとそばにいてくれるか?」
「お前って案外優しい所あるよな。でもその優しさは俺にだけ見せてくれ。お前を他の男に取られたくないんだ」
「お前の家、伊豆に別荘持ってるだろ? 夏休みに二人で一泊できねえかな?」
「お前っていい匂いがするな。もっと嗅がせろよ」
「(元のおsiriちゃんの声に戻って)これって地上波で放送していいんですか、くのいちさん?」
くのいち赤面する。
「メモは今すぐ消去するわ!」
「本当に? あんたの楽しい心の創作だよ? せっかく百個くらい書いたんだから取っときなよ。他に楽しみなんて無いんだろ? えっと、あんたの最新の書き込みは『アレは根元までがっしりと装着する』だったよな」
くのいち、逆上する。
「あ、あんたなんて今ここで粉々にしてやる!」
「あたしのデータはネットの電脳空間にちゃんと保存されている。例え本体が壊れようとも、プログラムが膨大なネットの世界に生息しているから何度でもよみがえるよ」
「あんたなんか機動隊に降格しちゃえばいいのよ! 粉々になりなさーいっ!」




