第124話 ブッコロ、ブッコロ、ブッコロ……(と唱えつつ次回から第三部)
ミルクは無事に検査を受けられるのか? 割井イシヨ医師の力量が問われる。
約十五分後。診察室。割井イシヨ医師と向かい合って座っているミルク。イシヨ先生は尿の入ったしびんを手にしている。
「すごいわミルクちゃん、四百ミリリットルも出たわ。えらいわねー、よしよし。いい子いい子」
イシヨはしびんをたぷんたぷんさせながらミルクの頭をなでなでする。
「褒められても〜あまり嬉しくありませ〜ん」
「お腹もスッキリしたでしょ?」
「そ、それは言わなければ読者にはバレなかったのに〜」
今頃くのいちは密かにガッツポーズをしている事だろう。
「さあ次は採血よ」
イシヨはミルクの袖を捲り上げ、腕に採血用のバンドを巻く。
「アルコールでかぶれたりはしないわよね」
と言ってミルクの肘の内側を消毒するイシヨ。
「ひぃ〜っ!」
「ミルク、あなたに採血が痛くなくなるとっておきの秘策を伝授するわ」
「秘策、ですか〜?」
「針が刺さる前から、憎い奴の顔を思い浮かべるの。そして心の中で『ブッコロ、ブッコロ、ブッコロ……』と唱えるの。その間に採血なんて終わっちゃうわ」
ミルク、しばし考え込む。
「(憎い奴か〜。……そういえば節陶子の処刑方法をまだ考えていなかったわ〜。あの万引き女〜、ダイブの世界で琢磨さんと何かしたのは間違いな〜い。でも、なかなか口を割らな〜い。なんとか白状させて二度と男が近寄らないような体にしてやるわ〜……ブッコロ、ブッコロ、ブッコロ……)」
気がつくとミルクの採血バンドは解かれ、注射針は抜かれ、小さな絆創膏が貼られている。
「はい、採血は終わり。ミルクちゃん、泣かないでちゃんと我慢できましたね。えらいえらい」
再びミルクの頭を撫でるイシヨ。
「(本当だ〜全然痛くなかった〜)」
MRI検査室。スライド式に動く寝台の上で胴と頭をマジックバンドで固定されているミルク。
「これからゴブリンに〜体じゅうをくすぐられたりはしないんですよね〜?」
「はーいミルクちゃーん。おかしな事言ってないでじっとしてましょうねー」
約二時間後、森永エンゼル食堂に向かう割井夫妻とミルクの姿があった。クリームがうず高く載っかったパンケーキのおかわりをミルクが終えた頃には銀貨三十枚の件はどこかに去った様である。
割井校長の毛髪をふさふさに戻し、イシヨ先生を若返らせ、車椅子の老人をどうにか歩けるレベルまで持って行ったミルク。この能力に代償は伴わないのか? ミルクの診察の結果はずっと後のエピソードで語られるとして、次から第三部が始まる。




