第123話 容疑者確保! 容疑者確保!
琢磨はまずは体慣らしをしようと心に誓う。
「強君のくせに難しい日本語を使うね。仕方ない」
琢磨は包帯をするりと解く。
「『ミルクが病院に向かう途中で逃走したら縛ってでも連れて行け』というのが割井校長のご命令だ。俺が縛られたまんまじゃ逃げられちゃうかもしれないだろう」
「この僕に反論の余地を与えないとは、さすがですね」
「ところで琢磨」
「何ですか?」
「お前、ミルクを縛った事あるのか?」
琢磨は赤面する。
「つ、強君って男友達の男女関係のプライベートな事を根掘り葉掘り詮索するキャラじゃないですよね!」
「その通りだけど。ただ、お前って俺やくのいちの事は何のためらいもなく縛るけど、ミルクがお前に縛られるのは見た事がねえから」
琢磨の顔には『まだ縛った事はありません』と書いてある。
その時琢磨の頭の中でパッと電球が灯る。
「そうだ、いい事思いついた。流石は魚池一の秀才切磋琢磨だ」
「自分で言うなよ」
琢磨は割井夫妻と並んで歩いているミルクに近づいて囁く。
「ミルクちゃん、逃げるなら今です」
強が慌ててそれを制する。
「何考えてんだ、琢磨!」
「何って、もしミルクちゃんが逃走したら僕が彼女を縛る大義名分が堂々と成立するじゃないですか!」
「知るか! そんなの後日、部室で二人でやってろ! 席は外しておいてやるから!」
「それじゃあまるで僕が変態みたいじゃないですか!」
「その言い方だとまるでお前が変態じゃないみたいじゃねえか。いいか琢磨、縛る事に必然性を求めるな。双方合意の上、本能の趣くままに行動するのだ!」
「強君の分際で大人っぽい日本語を使いますね。そうか、僕がミルクちゃんを……取り敢えずくのいちさんでも縛って体を慣らしておこう」
「これ以上話をややこしくするな」
魚池大学付属病院の待合室で割井夫妻とソファに座って待つミルク。
「ちょっとトイレに行って来ます」
ミルクがソファを離れ女子トイレに向かう。
「(ここが脱走できる最後のチャンスだわ〜。窓から外に逃げよ〜う)」
ミルクは女子トイレの小さな窓から脱走しようとする。彼女が上半身を窓に突っ込んだ時、尻に『ぽすっ』とバットが当たり、上半身は窓から『ぐいっ』と引きずり戻される。そこにはくのいちとチョコがいる。
「ミルク、観念して。これ以上抵抗するとあんたの無様な姿を魚池学園の裏アカで配信するよ」
そう言うチョコの右手に携帯が光る。録画モードがオンになっている。
「ミルク、おとなしく検査を受けて。あなたの体が心配なの。私はあなたの為を思って言っているのよ!」
と教育的指導を炸裂させるくのいち。字面だけ見るともっともなセリフだが、くのいちの顔はどことなく他人の不幸を喜んでいる様にも見える。
「万事休すか〜」
ミルクは諦めてトイレから出てくる。左右をチョコとくのいちに固められている。チョコが携帯で割井イシヨ医師に電話している。時計は九時を指している。
「こちらチョコ。ゼロキュウマルマル、被疑者確保、被疑者確保。抵抗している為、直接イシヨ先生の診察室へ連行します」
「待って〜。私本当にトイレに行きたいの〜」
「容疑者、尿意を催している模様。……はい、了解しました。……しびんが用意されているのですね。……今日は血液検査と尿検査、頭のMRI検査も行うのですね。……なんかうざったいから、ついでにこのデカ乳女に浣腸もやっちゃってもらえますか?」
いくらなんでもそれは無茶だろう、チョコ。
「ナイスアイディア、チョコ。診察室で割井イシヨ先生によろしく伝えてね」
嬉しそうに微笑むくのいち。やはりミルクとの脱糞、放尿を賭けた遺恨はまだ続いているのであろうか。
しかしながら結局ミルクを受診させる事に成功した二人。チョコもくのいちも友達思いのいい奴らだ。ミルクは幸せ者だ……と日記には書いておこう。




