第119話 第二部最終話 こんなエンディングで良いのか?
失恋の最大の処方箋は新しい恋を見つける事。誰もが分かってはいるが、そう簡単にはいかない。ヒッキーの心の溝に、かつてビデオ制作で協力した沢山くう子が精神汚染を仕掛ける。
「せ、拙者ミルクちゃんの寝顔のデッサンをしていたでござる。非礼とは承知ながら余りに芸術的なゆえ」
くう子はミルクの脇に置いてある携帯を目にする。
「その携帯はあなたの?」
「さようでござる。後でデッサンを補う為、顔の写真を撮ってしまったでござる。どうかこの事はご内密に……」
「ミルクの顔に何か着いているわ。あなた何をしたの?」
「実は……ミルクちゃんの素肌ががあまりに荒れているゆえ、手持ちの乳液を塗っていたのでござる」
そう言って乳液の容器を見せるヒッキー。良かった。本物の乳液だ。おはスタアニメでのオンエアーには何の支障も無い。
「そうなんだ。つまりあなたはミルクの顔を見ながら写生をして、その後で携帯で顔写もして、挙句に自分の白濁液をミルクの顔に塗りたくったわけね」
「顔写って奇妙な日本語でござるな」
くう子は左手に駅弁、右手に割り箸を持って奇妙な演技を始める。
「ワタシ食べ物のホシからキタ。日本語ヨクワカラナイ。ワタシに正しい日本語オシエルと思って、アナタが今した事モウイチドはっきりハナシテもらえる?」
「……せ、拙者はミルクちゃんの顔を見ながらシャセイをして、それからガンシャもして、仕上げに白濁液をミルクちゃんの顔に塗りたくったのでござる」
「ヨク聞コエマセン。モット大キナ声で」
「せ、拙者は……」
「チャント言ワナイト、ミルクにチクるよ」
ヒッキーは観念して息を大きく吸い込む。
「(とんでもない大声で) 拙者はミルクちゃんの顔を見ながらシャセイをして、それからガンシャもして、仕上げに白濁液をミルクちゃんの顔に塗りたくったのでござーる!!」
彼の大声はちゅくば市から大気圏を突き抜け、全宇宙を駆け巡る。
校長室で後ろから校長に抱かれている妻の割井イシヨ先生もヒッキーの声を聞き届ける。
「やっぱ若者は勢いがあるわね」
「私への嫌味かい、イシヨさん?」
同人誌即売会で『ガーディアンデビルズ』の本を売っている女の子も、
「これは国営放送のアニメ化は無理だね」
と言う。
ヒッキーの声は37万キロ彼方の月にも届く。月が喋る。
「月に代わって放送禁止よ!」
更に地球を周回する宇宙船からも連絡が入る。
「こちらスペースシャトル。高速で周回中の為、物凄いGを感じる!」
ミルクがようやく目を覚ます。
ヒッキーは呆然とした表情。
「汚れちゃった。拙者汚れちゃった」
「あれ〜、ヒッキーが精神汚染を受けている〜」
「ワタシがマインドハックを仕掛けマシタ。ワタシはヒッキーの心ヲ知リタイノデス」
くう子はこの前は銀河艦隊の女船員だったが、今回は食べ物の星から来た謎の侵略者になっている様だ。
eスポーツ部設立に関わるヒッキー達のダイブのお話の後日談はこれでおしまい。賞金の三百万円はくのいちと強が話し合って分け合う事にしたらしい。これを機会に親の名義で新NISAを始めるとか始めないとか。ミルクはダイブの世界で魔女化した事はほとんど忘れている様だが、くのいちと強はよもや忘れてはいまい。ヒッキーとミルクの間には微妙な溝が残った様である。
くのいちもミルクには畏敬の念を抱かずにはいられなくなったであろう。
ガーディアンデビルズ第二部 完
「顔写とは」でググると、ちゃんと正しい意味でヒットする。くう子は間違っていなかったのだ! 次のヒロインは君だ!




