第118話 第二部後日談③ 地球を守るヒーローには白濁液の一つや二つは許される。
地球を救えるのは君しかいない。ヒロインが気を失っていたら白濁液を塗りたくるくらいは当然の権利だ! 何かあっても色メガネと手袋をした親父がもみ消してくれるはずだ! だがヒッキーは特別な人間ではない。地球も救えない。そうだ、お巡りさんを呼ぼう。
日付けは変わり二年の教室の昼休み。ヒッキーはスケッチブックに何やら絵を描いている。周りにはクラスメート達。
「eスポーツ部の設立は却下されたんだって? 学校の横暴じゃないのか?」
「拙者がガーディアンデビルズと闘って勝っていれば設立許可が下りたのでござるが。誠に申し訳ない」
「えっ、お前切り裂きくのいちや剛力強、切磋琢磨と渡り合ったのか?」
「あくまでバーチャルの話でござるよ」
「バーチャルならお前の方が有利だろう。どうして負けちまったんだよ?」
「やはり切磋琢磨殿は切れ物でござる。剛力強君も、こと格闘になると類い稀なセンスを発揮するでござる。最後は人喰いくのいち殿と強君の合体技で拙者が負けたでござるよ」
「人喰いくのいち? 本人の前ではそう呼ばない方がいいな。くわばらくわばら」
「そういえば我らがヒロイン、ミルクちゃんが見当たらないな」
「俺は登校するのを見かけたけどな」
その話を聞いてヒッキーはスケッチブックを抱えて立ち上がる。ミルクの事が気になったのだ。
「失礼。拙者ガーディアンデビルズの部室に用事を思い出したゆえ」
「eスポーツ部がポシャって今度はガーディアンデビルズ所属か。忙しいな、ヒッキーは」
「ミルクちゃんをひとめ見たいでござる」
彼は教室を出てまず校長室に直行し中を覗き込む。割井校長が妻の割井イシヨ医師を後ろから抱きしめている。彼は慌てて首を引っ込める。
「いない……事にするでござる。それにしても御両名、最近若返ったでござるな」
次に彼は保健室の中を探す。ベッドの掛け布団の辺りがモゾモゾと動いている。彼は恐る恐る接近する。
「ミルクちゃん?」
掛け布団をまくり上げ現れたのは鉄研とコスプレ同好会所属の沢山くう子である。布団の中で隠れて水戸黄門駅弁を食べていたのである。印籠を型取った容器が目に付く。
「この駅弁を食べると助さん角さんに殺された悪者でさえ生き返るよ」
とくう子。
「だから殺されていないって!」
保健室を出て廊下を歩くヒッキー。
「ここにも居ないとなるとあとは……」
彼はミルクとの思い出深い補習室の前で立ち止まる。
「誰か居ますか?」
ヒッキーはそう言ってそーっと扉を開ける。教室と同じレイアウトの室内には仕切りが置かれている。その向こうにはシングルベッドが置かれている。彼は仕切りに静かに近寄る。居た! そこにはミルクが横たわっている。目を閉じ眠っている様である。
「見つけたでござる。ミルクちゃんはダイブで相当消耗したはず。 まだ疲れが取れてないのでござろう」
彼はミルクに近づく。
「ミルクちゃんの寝顔、初めて拝見つかまつった。やはり素敵でござる」
彼は持っていたスケッチブックを開き、懐から筆入れを取り出しデッサンを始める。絵心はある様子で素敵な肖像画になってゆく。
「途中で目を覚ますやも知れぬ。写真も撮っておくでござる」
彼は携帯でミルクの寝顔を何枚か写す。繰り返し写している内に気分が高揚し、徐々に彼の息遣いが荒くなってくる。
仮想現実のクエストで、もし強がミルクの暴走を止められなかったら……。
強とくのいちはゲームオーバー。残るのは魔力を使い果たしたミルクとヒッキーだけ。そうなればミルクちゃんは……いやまさかと思うけど、都合のいい妄想を頭で膨らませるヒッキー。
「ミルクちゃん、ミルクちゃん……はあ、はあっ……うっ……」
気がつくと彼の手にはどろりとした白濁液。
「やってしまったでござる」
彼は白濁液をまじまじと見つめ、なんとミルクの顔に塗りつける。彼女はまだ眠ったままで気付かない」
「ミルクちゃん、綺麗でござるな」
そこに背後から声がする。eスポーツ部設立のプロモーションビデオでも活躍した鉄研部員かつコスプレ同好会の沢山くう子である。片手に水戸黄門駅弁を持っている。さっき保健室でヒッキーを見かけた後で彼を追跡していたのだ。
「ヒッキー何やってるの?」
ヒッキーは口から心臓が飛び出る。
「うわっ、くう子ちゃん!」
白濁液の付着したミルクの画像は、「みてみん ガーディアンデビルズ」のサイトにアップしておきます。白濁液が付着したまま、次回の最終回へと続きます。




