第117話 第二部後日談② 強はどんなエッチビデオを観るの?
惚れた男が観るえっちビデオのジャンルにまで細かく注文をつけるくのいち。幼女ビデオ、すなわち死罪。男子児童のビデオは当然無罪である。そこには道理も善悪も存在しない。
その日の夜。くのいちの住んでいるマンション。ベッドでゴロゴロしているくのいちの携帯にLINEの着信音が鳴る。
「あ、ヒッキーからだ。えーと、なになに……『強君も琢磨君も拙者の秘蔵ビデオを大変気に入ってくれて嬉しかったでござる。宿で彼らが観ていたビデオのパッケージを添付するでござる』か」
くのいちの独り言が続く。
「あの機械メイドの話によると、あいつはエッチビデオを宿で注文していたらしいけど、タイトル名はしらばっくれていた。やっぱ観ていたのね。名探偵のあたしの目はごまかせないわよ」
くのいちはLINEで送られてきたファイルのアイコンに目をやる。
「そういえば強ってどんなエッチビデオ見るのかなぁ。もしかして外人モノとか? うちらの学年にはイギリス人のミルクの他にも、強のバレエ同好会の子でアメリカ人の金髪ポニーテールがいたわよね。
アリス・ワンダって名前だっけ。外人のJK二人に囲まれているうちに、外人モノビデオしか受け付けない体になっていたらどうしよう。……巨乳モノっていう可能性は? やっぱ男の子って巨乳が好きなんでしょ? でもミルクみたいな子のビデオをあいつが見ていたらどうしよう……ううん、あたしあいつを信じてる。だけどロリータものとか見ていたらぶっ殺す!」
「全然信じてないだろ、なのであった」
とナレーションが入る。
更にくのいちの心の中で、半袖ミニスカ姿でランドセルを背負ったチョコが現れる。彼女は『ロリータってあたしの事〜?』とツッコミを入れる。
再びナレーション。
「あんた『十二歳の男の子のヒミツ』とか見てたくせに自分の事は棚に上げて『ぶっ殺す』とかよく言えるなぁ……なのであった」
くのいちはこれを華麗にスルー……したつもりだが、実は「ペットショップ⭐︎小学生男子が売ってます」の内容は勝手に想像して悶々とする彼女。
しかしこう考えていると、『強の周りの女が全員自分のライバルなのではないか』などと思えてくるくのいち。
まずはチョコ。……強のただの幼なじみだから大丈夫そうだけど、あの二人はやけに心理的距離が近い。友情がいつ恋愛感情に発展しても不思議ではない。
それからピッグテールの万引き少女節陶子。ミルクが前回のダイブで崩壊に巻き込まれて串刺しになった事を強は『節陶子ちゃんから聞いた』などと言っていた。あたしが知らなかった事をあの万引き女は強に話しているのか。そんなに節陶子と強は仲がいいのか? 以前あの女の首を三角絞めしてやった事があったが、あのまま手を緩めずに念の為葬っておいた方がよかったのか?
あの時は強にスカートをまくられて邪魔されたが、たとえパンツを見られても自分の意思を貫くべきではなかったのか?
バレエ同好会の金髪女アリス・ワンダも油断できない。二人でのバレエのレッスンを偶然見かけた時、強はあの女の腰を持って軽やかにリフトしていた。
踊っている二人の距離はメチャ近かった。好きでもない相手同士だったら、あんな事できるのだろうか?
ミルクは琢磨一筋だけど、この前ダイブで消滅する寸前に強に『あなた久野一恵の彼氏にしておくにはもったいない』なんて言っていた。
ちなみに頭にバンダナを巻いたあのヤンキーも、『あたしのIDどこに隠してあるか探してみなよ』と強を挑発していた。くのいちはその事は幸いにも知らない。
くのいちの頭の中に琢磨が現れ『僕をお忘れなく』と言うが、これはさすがにスルー。
そんなこんなで次第に悶々とするくのいち。
「あーあたし何考えてるんだろう。やっぱヒッキーにあんな事頼むんじゃなかったかも」
とか言いながらも、くのいちは恐る恐るヒッキーが送ってきた添付ファイルを開く。
ビデオのパッケージにはバッティング練習をしている高校生とパソコンをマウスで操作しているもう一人の男子高校生。二人は強と琢磨にちょっと似ている。
「『BL学園☆ 俺の球とバットをお前のマウスにぶち込んでやる!』か。これはあいつじゃない。もうひとりの方」
くのいちはもうひとつのファイルも開く。
若い男性がトイレに行こうとするのを襟首をつかんで阻止している、スレンダーなアラフォー美人のパッケージ。
「『義母さん、僕もう我慢できない』シリーズか。金髪ポニーテールでも巨乳でもロリータでもなくてひと安心だけど、義母って何よ? ……えーと、ちょっと待って。例えば、例えばの話よ。私とあいつがもし、もしもよ、結婚なんてなったらあいつの義母って……」
くのいちの頭の中に自分の母親の顔が浮かぶ。
「あたしのお母さんだ!」
くのいちは改めてビデオのパッケージを見る。アラフォーのスレンダー美人と青年。母親と強にどことなく似ている。
「身内の中に思わぬ敵が潜んでいたというわけね。油断大敵だわ。これからは強があたしの実家に家賃を持って行くのは全力で阻止しなくちゃ。念の為、お母さんが勝手に強に会いに行ったりするのも牽制しなくちゃ」
男性作者は登場する女性キャラに自分の願望をモロにぶつけてくる場合が多い。それは作者がいい歳をしている場合には避けたいものである。恥ずかし過ぎる。しかしくのいちも「スカ◯ロ以外だったらオッケーだよ〜」くらいの度量の広さを見せてもらいたい(笑)。
ちなみにくのいちはこの後、くのいちの母親と強が密会などしない様にと、とある策を講じる。チョイ役のアリス・ワンダのイラストはみてみんにアップしておきました。




