第116話 第二部後日談① ヒッキーとくのいちの和解
現実世界へと戻った一行とヒッキー。ダイブの仮想現実での自己中心的な振る舞いを反省し、ヒッキーに和解を持ちかけるくのいち。なーんだ、くのいちって案外殊勝な面もあるんだな……と思ったら彼女にはお願い事があったのだ。
翌日。魚池高校の廊下。制服姿のくのいちが歩いているとヒッキーを見かける。彼女はヒッキーに詰め寄る。
「ヒッキー、あんたねー!」
「な、何でござるかくのいち殿?」
「(耳元で小声で) 後で話がある。放課後に体育倉庫に来い」
放課後、体育倉庫の前。バンダナを巻いた例のヤンキーがくのいちに声をかける。
「くのいちさん、いつもお世話になってます」
「いいか、ヤンキー。これからあたしはとある男子生徒と大事な話がある。体育倉庫に入ろうとする奴がいたら阻止しろ。お駄賃ははずむ。何かあったらすぐにあたしに連絡しろ」
「下級生を呼び出してリンチっすか?」
「お前と一緒にするな」
ヤンキーは親指を立てる。
「……って事はあっちですね、くのいちさん。二塁打とは言わず三塁打、ホームランを期待してるっす! ここで一句詠みます」
『倉庫でね サイクルヒット やっちゃった』
ヤンキーにそう言われて、くのいちはふとダイブのリラックスモードで強と部屋で二人きりになった事を思い出す。唇が微かに触れた気がした事、強の体が透過して元に戻る際に彼の左手が自分の右胸に触れた気がした事、強と二人でウェディングケーキの中に隠れている時、床が突然傾いて強の手がくのいちの胸を鷲掴みにした事、崩壊するダイブの世界で抱きしめ合った事、など。
「(あれは一塁を蹴って二塁に進んだ事になるのかしら。なんにせよ続きはリアルの世界で、よね)」
彼女は一人で体育倉庫に入る。するとそこに既にヒッキーが待っている。
「用事は何でござるか、くのいち殿」
「くのいち、でいいよ。あたし達はもうガーディアンデビルズの仲間なんだから。そうでしょ?」
「割井校長のご命令で拙者もメンバー入りする事になったでござるよ」
「あんたに言っておきたい事がある」
「拙者を現実世界でもいじめると?」
「そうじゃない。私が言いたいのは、別にあんたを恨んだりはしていないって事よ」
「拙者はダイブの世界ではくのいちには何の攻撃も加えるつもりは無かったでござる。しかしながら貴女に辛い思いをさせてしまったのは心苦しい限りでござる」
「分かっている。あたしの身から出たサビなんだ。ミルクをゴブリンからさっさと助けてやれば良かったんだ。それと『ミルクがポロリしている』なんて言う卑怯な手を使ってあんたをボコボコになんてしなきゃ良かったんだ。自分勝手な判断であんたを斬る前に、強やソードプリンシパルの言う事を聞いておけば良かったんだ」
ヒッキーの最初のプランでは、ミルクをちょっとしたピンチに追いやって、琢磨に助けに行かせる。ダメ元でミルクにプロポーズしてフラれる。くのいちのいいところをプログラムした機械メイドを登場させ、強とくのいちにお互いの良いところを再認識させる。最後に運が良ければ空間転位で部屋を回転させ、強にダメージを与える。
そんな予定であったが、琢磨の圧迫面接で理性を失ったヒッキーと、ミルクのクッキーの思わぬ副作用、くのいちの暴走、などで大荒れのダイブとなってしまった。
実際、ヒッキーはくのいちに直接的な攻撃は何一つ加えてはいないのだ。
「くのいちって物分かりがいいんでござるな」
「それってあたしをバカにしてる?」
「そんなつもりは……」
二人は暫く目を合わせ、やがて表情が和らぐ。
「それでお願いがあるんだけど」
くのいちは小声でヒッキーの耳元に囁く。
「宿の部屋で観たDVDのタイトルを教えて欲しい? むぐっ、むぐぐ……」
くのいちは慌ててヒッキーの口を塞ぐ。
「ぷはあっ。『十二歳の男の子のヒミツ』シリーズでござるな」
「それから『ペットショップ☆小学生男子が売ってます』『僕、大人の事情に精通しちゃいました』でござったな。くのいちが気に入ってくれて嬉しいでござる。拙者の秘蔵のコレクションゆえ。やはり自分のおすすめビデオを気に入って貰えると仲間との距離が一気に縮まった気がするでござる」
「そうじゃなくて、あの、その、男性陣の部屋で見ていたやつは何かなぁと思って。ど、どうでもいいんだけどね」
その時、くのいちの携帯が振動する。
「うわ、呼び出しだ。この続きはまた後で」
「じゃあLINE登録してくださらんか。後で連絡するゆえ」
二人はお互いの携帯をかざす。
(くのいちは多額の賞金をゲットした上に、いけないビデオも入手した!)




