第115話 第二部エピローグ③ 崩壊するこの世界にも都はありますから
崩壊する世界でミルクの道具屋から現実世界のカプセルに戻ろうとする強とくのいち。しかし強には一つ心残りがあった。第二部のエンディング。
一行は道の駅の施設に入る。誰もいないトンカツ屋さんやパンケーキ屋さん、ゴブリンやトランプさんのお面屋の前を通って反対側の出口から出る。するとそこはミルクの道具屋の前。空間転位だ。
「開けますよ」
そう言ってメカくのいちが道具屋の扉を開ける。
女主人のミルクのいない店はガランとしてどこか寂しげである。
「長旅お疲れ様でした。強さん、くのいちさん」
メカくのいちはおぶっていた強を立たせる。くのいちと強は道具屋に入る。メカくのいちは眠った様にぐったりしているヒッキーを台車に置いて道具屋の入り口のドアの前に立つ。
「お前とヒッキーはどうするんだ?」
メカくのいちは微笑んでいるが目元にうっすらと涙。
「崩壊するこの世界にも都はありますから」
そう言って彼女は台車のヒッキーを見つめる。
「さあ参りましょう、マスター」
強は『ありがとう』と言いかけたが、メカくのいちはそのままドアを外側からパタンと閉める。
「とうとう俺達二人きりだな」
「早く現実世界に戻ろうよ」
二人は手を繋いで目を閉じる……とその時、部屋がガタガタと揺れ始める。『ゴゴゴゴ』という轟音が響く。強は目を開けてくのいちの手を離す。彼は道具屋の扉に向かう。
「どうしたのよ、強?」
「やっぱヒッキーとメカくのいちも連れて行こう!」
「何バカな事言ってるの? この世界の崩壊が始まったんじゃない? って事はあの二人はもう……」
強は道具屋の外に出る。さっきまでドアの外にいたメカくのいちとヒッキーの姿は消えている。台車も見当たらない。地割れが地面を裂き、周囲からは火の手が上がっている。半ば放心状態で強はそれを眺めていたが、十五メートルくらい先に例の金属製の南京玉すだれが落ちている事に気付く。
彼はふらつく体で地割れを飛び越え火の粉をかいくぐり、玉すだれを掴んで戻って来る。
「あんた、無茶し過ぎ」
「そうだよな。こいつはお前の心でできているんだもんな。取りに行かなくてもいつでもここにあるんだよな」
そう言ってくのいちの胸を指差す強。
くのいちは強の顔をその胸で抱きしめる。
「強、あたしを守ってくれてありがとう。あんたがいなかったらあたし……」
「ミルクの無限の拷問が待っていたよな」
「顔を歪められて、子供も産めない体にされて……そんなとこ強に見られたら、あたし生きていけないよ」
余力の乏しい強は前に倒れ込む。くのいちは正座をする形で座り込み、強の顔を膝の上に乗せる。強はくのいちの膝に顔を埋めたまま暫く動けない。
「強、ちゃんと呼吸できてる?」
くのいちはうつ伏せの強をそっと持ち上げ仰向けにする。
もうろうとしている強の両手を握り二人は目を閉じる。
「現実世界に戻ったら、いい夢を見られるといいな……」
と強。くのいちは黙ってうなづく。そしてお互いの唇の距離が徐々に縮まる。……崩壊していく世界の中でくのいちと強の体はゆっくりと消え去っていく。
今回のヒッキーにまつわるエピソード(ガーディアンデビルズ第二部)はここまで。ここからは蛇足という名の後日談であるのでまた日を空けてからでも読んでいただきたい。




