第114話 第二部エピローグ② なんきんたますだれのひみつ
クエストをクリアーしてミルクの道具屋に戻れば、ダイブシステムのカプセルに戻れる。帰路の最中、メカくのいちは南京玉すだれの秘密を語る。現実世界でハンガーストライキ中のヒッキーが強とチョコに助けられた時、ヒッキーはくのいちの望みをチョコから教わったのだ。
宿を出て道の駅常陸大宮に向かう一行。くのいちとヒッキーはウェディングケーキを運んでいた台車に乗せられている。大きな台車ではないので、二人を載せるのが精一杯。メカくのいちは強をおぶって台車を押している。
「申し訳ありません。送迎用車両が出払っていたものですから、これで我慢して下さい」
くのいちとヒッキーを載せた台車は舗装されていない道をガタゴトと進む。
「出払っているってどこに行っているのよ? 他に車両はないの? あんた本当にポンコツよね」
「そう言うな。もう俺達は歩くのもやっとだ。こうして運んでくれるだけで大助かりだぞ、メカくのいち」
とおぶられている強が言う。
「だからあたしはメカくのいちじゃないってば!」
くのいちはまた自分が『メカくのいち』と呼ばれたと勘違いをしている。
「ありがとうございます。強さん」
「ところで何故お前は南京玉すだれに変形したんだ?」
「それは……その……」
口ごもるメカくのいち。
「メカくのいち……説明して差し上げるでござるよ……」
負傷して喋るのが精一杯のヒッキーが言う。
「私は『くのいちさんが抱く強さんへの思い』でプログラムされています。南京玉すだれはくのいちさんの願望なのです」
「どういう事だ?」
「くのいちさんは強さんの局部を切り取って、真ん中を切り開いて、インド料理で使うナンで包んで、特製のお酢ダレで食べたい、と言っていました。『ナン』『キン○マ』『酢ダレ』がくのいちさんの願望なのですよね。だから私は南京玉すだれになったのです」
「えっ、なんだってメカくのいち? もう一度説明してくれ」
と背中におぶさっている強が言う。
「ですから『ナン』『キ○タマ』『酢ダレ』が……」
「よく聞こえなかった。もう一回」
メカくのいちは赤面する。
「強さん、私にわざと恥ずかしい言葉を連呼させようとしていますね!」
「そんなつもりはぜーんぜん無いぞー」
強も相手がメカくのいちだとこんなキャラになってしまうのか。
「嘘です。あなたは部屋でDVDを注文した時も、わざと恥ずかしいタイトルを注文して私に言わせようとしたじゃないですか」
メカくのいちのこの言葉にくのいちが反応する。
「強、あんた琢磨と部屋にいる時、変なビデオ注文したの?」
「そうだっけ? 忘れちまった」
「そこの機械メイド! あんたなら覚えているわよね!」
「すみません。私はニワトリ並の脳みそなので、こうして三、四歩も歩いている内に忘れてしまいました」
メカくのいちは首を後ろに向け、背負っている強とウインクを交わす。二人の息はピッタリだ。
「今ふと思い出したんですけど、ビッ○カメラのCMソングって、たんたんたぬきのキンタ○の歌に似ていますよね?」
「自分だってキンタ○を連呼しているじゃねえか。おまけに伏せ字の部分まで変えやがって」
「すみません。私新人メイドなものですから……」
やはりこの二人、息が合っている。
「おい、お前の体……」
おんぶされている強は、機械メイドの背中や腕に温かみを感じ始める。彼女の体が徐々に生身の人間へと変化しているのだ
「ほんの短い間だけでも、強さんと生身の人間としての交流ができるのは嬉しいです。マスター、ありがとうございます」
そう言ってワゴンに乗っているヒッキーを見つめる機械メイド。ヒッキーはかすかに頷く。
強はわざと話題をそらす。
「それにしてもファンタジー系アニメのイケメン主人公の武器が南京玉すだれとはなぁ。くのいち、お前のせいだぞ」
「どこにファンタジー系アニメのイケメン主人公がいるのよ! エッチな学園ラブコメライトノベルのやられ役の男しか居ないじゃないの!」
「お前、俺をそういう目で見ていたのか? そもそも、何故俺の大事な部分が切り取られなければならなかったんだよ」
「あたしがあんたの大事なところを本気で切断する訳ないでしょ」
「大事な所って何だ? もっと具体的に言ってくれ」
「ほらあの沖縄名物の、ちん……こ……」
「ちんすこうか?」
「それそれ! ちんすこう! ……ってそんな訳ないでしょーっ!」
しまった。「ちん◯吸う」の方がインパクトあった。
ファンファーレが鳴り響き、くのいちのノリツッコミポイントがまた一つ上がる。
「あんたが悪いんだからね。あんたがマッタの店の前でミルクとキスなんてしようとするから、脅して懲らしめてやろうとしただけよ」
これくらいサラッと言えたら、そもそも強の靴にまきびしなど仕込む必要など無かったのだが。今は強との距離が縮んだ気がして素直な気持ちが口に出たくのいち。
「俺とミルクがキス? マッタの店の前で? ……それってもしかしてミルクが頭痛を訴えて辛そうにしてた時じゃないか?」
「何、その苦しい言い訳!」
「お前も見ただろう。ミルクは時々強い頭痛の発作に襲われるらしいんだ。俺はふらついているミルクを支えていただけさ」
くのいちは先程ミルクが蒼い顔をして何度も吐いていたのを思い出す。『頭が割れる!』とも言っていた様な。
「そうだったの。だったらそう言ってくれればよかったのに」
「そう言ってお前はすんなり納得していたか?」
「今なら納得できるわ」
強をおぶり、くのいちとヒッキーの乗った台車をガタゴトと押していたメカくのいちが声を上げる。
「あ、道の駅常陸大宮が見えてきました」




