第11話 強、体をオモチャにされる
仲間を助けるのが遅れる、約束の時間に現れない、などは治安維持の会では御法度なのだ。寝過ごした強にチョコから制裁が下される。
「よっこらせっ、と」
三人が体操マットをめくり上げると、挟まれた二枚のマットの間から強が見つかる。寝息をたてている。何と彼は体操マットを掛け布団と敷き布団に見立て、昼寝をしていたのだ。ヤンキーと女生徒も強の事は知っている様子。
「強、起きろ!」
「あっ、剛力強じゃん」
「『ケンカ十段』の剛力強さん?」
「すぴぴぴぴ、すやすや」
目を覚まさない強に苛立つチョコ。
「ねぇ、そこのヤンキー、マジック持ってない?」
「持ってるけど一体どうするのさ? シンナーの匂いでも嗅がせてトリップさせるのかい?」
「あんたと一緒にしないで。こいつの顔に落書きするだけだよ」
「落書きだけかい? どうせならもっとイタズラしようよ。ズボンを脱がせるとか」
「あんたね、自分の立場わかってんの? 強はあたし達の大切な仲間なんだよ」
強は頭にコツンとバットで叩かれたような刺激で目を覚ます。チョコの声が聞こえる。
「強、やっと目覚めた!」
強は起き上がる。
「お、チョコか。すまん、体育倉庫で待っている間に寝ちまったみたいで」
強はワイシャツの下はパンツ一枚なのに気付く。
「うわ、なんで俺パンツなんだ? まさか俺、一人で変な事しようとしてそのまま眠っちまったんじゃ……すまんチョコ、この事はクラスの皆んなには内緒で……」
見かねて女生徒が口を開く。
「強さんはちゃんとズボンを履いていました。さっきまでは」
女生徒はコンパクトを強に差し出す。強の顔には『俺は童貞だ!』とマジックで書かれている。
「俺って思っている事が顔に出るタイプなのか?」
「違います。強さんが寝ている間に……」
女生徒の言葉にチョコが慌てて口を挟む。
「このヤンキーがいけないんだよ! あたしは必死に止めたんだけど、ヤンキーが面白がって強のカラダにあんな事やこんな事を……」
「あんただって面白がって協力してただろ!」
ヤンキーの弁明をはぐらかすようにチョコが強に言う。
「強、脱いで」
「えっ、マジかよ? 何で?」
「いいからあたしの言う通りにして」
「げ、芸術のためなら仕方ない。脱げばいいんだな……」
強はパンツを脱ごうとする。チョコが慌てて止める。
「そっちじゃない、ワイシャツだよ。この子のブラウス、はだけちゃってるから。その代わりズボンを履く事を特別に許可するわ」
強はズボンを履いてワイシャツを脱ぎ、女生徒にかけてあげる。
「ありがとう、強さん」
彼女はチョコよりは身長が高いとはいえ、百七十八センチの強よりは二十センチ近く低い。半袖のワイシャツは前腕の半分に届き、胴はワンピースの様である。
「(これはこれで)」
と心の中でニヤける強。
「そもそもどうしてこうなっちまったんだ? 普段バトルには加わらないチョコがここに居るし、この子のベストとブラウスはあんなだし……お前、ケガしてねえか?」
強は女生徒を心配そうに見つめる。
「心配してくれてありがとう。もう大丈夫です」
「あんたが寝過ごしたからこうなったのよ」
とチョコ。
「こいつがこの二年の子を呼び出したんだよな」
強の視線がヤンキーに向けられる。ヤンキーは三年生。強の一つ上だがそんな理屈は強には通じない。ヤンキーの表情に焦りが見える。
「こ、この二年坊がいけねえんだよ。こいつがあたしの池面にちょっかい出すから……」
「私と池面さんはちゃんとお付き合いしています。誰にも迷惑はかけていません!」
「池面と付き合っているのはあたしなんだよ! こないだも茨城県大洗の水族館に一緒に行ったんだからな!」
「私は池袋のサンシャイン水族館に行きました!」
「い、池袋だと? 都会を自慢してんじゃねえよ! 大洗の水族館はなぁ、マンボウの飼育用水槽の大きさが日本一なんだよ!」
ヤンキーの焦点のボケた自慢に、女生徒が反撃に出る。
「あぁ、この間池面さんと食べた『トタンコットンカフェ』のふわふわパンケーキ、美味しかったなぁ」
「あ、あたしなんかこないだ池面とキスしたんだからねっ!」
「私は告白されたその日に済ませました!」
「済ませただと! 何をだ! 先生に言いつけるぞ!」
二人の会話をオロオロしながら聴いている強。
「え、えーっと、俺はどうすればいいんだ、チョコ?」
「とりあえずこのヤンキーに一発ぶちかまして」
「どうしてだ?」
「こいつはあたしの顔目がけてボールを投げつけた。この女子生徒にも『必殺、超ウルトラスーパーギャラクシーメガトンヤンキーパンチ』を入れて怪我をさせた」
「ひでぇな、人間のする事か?」
「ただのヤンキーパンチだろ!」
強は左腕でヤンキーを腹から軽々と抱え持ち上げる。
「お仕置きだ。暴力を受ける側の痛みを知れ」
「痛くしないでね」
「えっ?」
強はヤンキーの臀部をパシッと叩くつもりであったが、意外な発言に力が抜けてしまい、手のひらでポヨンと触っただけになってしまう。
「あんっ」
とよそ行きの声を出すヤンキー。




