第108話 ニセモノのくのいちはどっち?
ヒッキーによってプログラムされた機械メイドは外見はくのいちそっくりだが、内面はくのいちとは違っていた。どちらが本者らしいのであろうか。
「強さんにそう呼んでいただけるととても嬉しいです」
「くのいち、とりあえずメイド服は着てくれないか?」
「それが強さんのお好みなら従います」
メイド服とキャップを再び着用する機械メイド。
「その方がお前らしくていいぞ」
強はくのいちの方を向いて言う。
「お前もそう思うだろ、メカくのいち?」
「えっ?」
と言うくのいち。
強は機械メイドを『メカくのいち』と呼んだ。それがくのいちの方を見て言ったので、くのいちは自分が『メカくのいち』と呼ばれた気がしたのだ。
「誰がメカくのいちよ。あんた頭にパンチをもらいすぎたのね。あたしが本物のくのいち! そこのポンコツメイドがメカくのいちでしょ!」
ぱっと見ただけで、どっちが本物のくのいちでどっちがメカくのいちかは明らかなのだが、消耗して動揺しているくのいちは、『あたしがメカくのいちじゃないかと疑われた』と被害的な思考に陥っている。
そんな彼女に口撃を加えるシェフ。
「本者と偽者の違いってなんですか、と」
くのいちもムキになって言い返す。
「あたしと強はずっと一緒に闘ってきた仲間なのよ。だからあたしが本者!」
「その理屈で言うと新しい仲間はみんな偽者って事かい?」
とシスター。
「本者のくのいちさん、メイドキャップがお似合いです、と」
とシェフが追い討ちをかける。
「本者のくのいち、お前はいい子だねぇ。ちょっとおっちょこちょいでドジだけど、心が綺麗で素直だ。何事にも一生懸命で曲がった事を嫌う。私はこれでもお前を高く評価しているんだよ」
「ありがとうございます、シスター。でもさっきはちょっぴりお尻、痛かったです」
「あれは私の愛のムチだよ」
シスター、シェフ、メカくのいちの会話に我慢しきれずにくのいちが大声を出す。
「強、何とか言ってよ! あたし顔は捻じ曲げられそうになるし、おなかは爪でグサリと刺されるし、おまけに偽者扱いなの?」
意外にもくのいちは半べそをかいている。剣を失いマジックポイントもライフポイントも残り少なくなって不安になっているのか。
「うっくうっく……」
シェフとシスターが機械メイドことメカくのいちを擁護する発言をしただけなのに、くのいちは精神的にはこたえている様だ。くのいちとは対称的な性格の美点を列挙された事がそんなに悔しいのか。こんな表情のくのいちはリアルの世界ではなかなか見る事が出来ない。これはこれでカワイイ、などと考えてしまう強。
余談だが、こんな面倒くさい女性を『カワイイ』などと思ってくれる男子高校生なんて、ちゅくば駅の改札周辺をくまなく見渡しても、まず見当たらない。久野一恵よ、ここは自分の売り時と決断するべきではないのか? 色気、腕力、刃物付き手裏剣、何でも使って強様のお情けを頂戴しておけ。放っとくとライバルがどんどん出てくるぞ……などと考えてしまう作者。
一方の強は半べそのくのいちを見てカワイイと思う反面、
「(この女は何かあるとすぐに『何とかして』と俺に丸投げしてくるな)」
などとも考える。やっぱり面倒くさいと多少は思っている様である。
ともあれ強なりに何か言わなくてはならない。
「今はどっちのくのいちがくのいちらしいか、なんて事を話しても仕方ない。俺達の今のクエストは本者のヒッキーは誰か、という事だろう? それについて俺なりの意見を言わせてもらう」
強はシスター、シェフ、メカくのいちを一人ずつゆっくりと眺めてから言う。
「俺はシェフがヒッキーだと思う」
「根拠は何だい?」
「顔切りだ」
「顔切り? さっきミルクがメカくのいちにやろうとしていたやつかい?」
「だからメカくのいちじゃないってば!」




