第107話 機械メイド、ベールを脱ぐ
ミルクの攻撃で体にかなりのダメージを受けている強。くのいちも頭部と下腹部に傷を負い、武器も失っている。この追い詰められた状況で、ゲームマスターのヒッキーは更なるクエストを二人に課す。
ミルクの消滅とともに、くのいちの表情が元に戻る。ヒッキーはまだ悪魔に取り憑かれた表情。クッキー十個の効き目がまだ残っている為か。
くのいちはミルクの浄化モードを喰らった時に無理矢理クッキーを食べさせられていたが、その数は一個であった。
一同暫く無言。
「強、もう近くに来てもいい?」
と正気に戻ったくのいちが遠慮がちに尋ねる。
「ああ、側にいてくれ、くのいち」
強の元に駆け寄り、ヒッキーを睨むくのいち。
「ヒッキー、もういいでしょ! あたしが悪かった。あんたをオモチャの様に扱ったのは謝るわ。もうクエストは終わりにしない?」
「君が謝っているのは君が困った状況にいるからだろう? 『謝った方が得だ』と思っているから謝っているだけだろう? そんなのは謝罪とは言わない。ただの自己防衛だ」
くのいちはヒッキーを睨むだけでぐうの音も出ない。
強はヒッキーの言葉に頷いて答える。
「ああ、こいつは自己防衛で動いているだけで反省しているわけじゃない。受けるべき罰も受けていない。子宮もえぐり取られていないし顔も歪められていない」
「その通りだよね、強君」
「あ、あたしだってヒッキーがクッキーを一気喰いしたあたりから訳がわからなくなっちゃって……ヒッキーやミルクに斬りつけたのだってそんなつもりじゃなかったのに……」
「くのいち、俺は分かっているからそれ以上言うな」
強の言葉に珍しくしおらしく頷くくのいち。
「ヒッキー、俺達の次のクエストは何だ? 俺達はボロボロに燃え尽きるまで挑んでやる。それがどんな無理ゲーでも構わねえ」
強はミルクから激しい攻撃を受けて既に満身創痍だがカラ元気を振り絞っている。
「では次のクエストといこう。本物の僕、つまり比企新斗は誰か、それを当ててくれないか? ただし根拠も無しに僕に理不尽な攻撃を加えるだけだと実際に苦痛を味わうのは君か久野一恵のどちらかになるだろう」
「本物のヒッキー?」
「今の僕は当然偽者さ。本者は別に居る。その候補を君に改めて紹介しよう」
ヒッキーは指をパチンと鳴らす。彼の元にお馴染みの三人のキャラクターが集まる。彼がダイブの前日、『中ボスは三人いる』と皆に説明していた通りだ。
「一人目はシスターだ。最初は宿の受付の老婆だったが。その後はシスターになってミルクちゃんと僕の結婚式の進行を務めた」
「あたしが比企新斗だと思うのかい? 根拠でも示してみなよ」
とシスター。
「二人目はシェフだ。君達にバイキングの食事やルームサービスを提供する一方で、マジックポイントを奪った。君も彼を疑っているのではないかと思う」
「これからも当施設を、ごひいきに、と」
シェフは刃渡り一メートルの肉切り包丁片手にうやうやしくあいさつをする。
「最後は機械メイドだ。切磋琢磨をすまきにして久慈川に流し、ミルクちゃんがウェディングドレスを試着している隙に、クッキーの入っている小箱を奪って僕に渡してくれた。DVDのレンタルでマジックポイントを徴収したのも彼女だ」
普段はポンコツの機械メイドが毅然とした口調で応える。
「マスター、私はあなたの命令だから琢磨さんを川に流し、ミルクさんの小箱を奪いました。でも私はこのやり方には納得できませんでした。メンバーの仲間割れを誘って最後はマスターと無力なミルクさんで結婚式に持ち込む。武士道精神にもとります。あの結婚を誓う台を細工して斜めに倒してラッキースケベを企てたのだってマスターの指示で私がやりましたけど……」
機械メイドはそう言うと、メイド服を脱ぎ捨てる。そして両の手のひらで顔を覆う。その手を上に持ち上げると、それまで閉じていた両目が開く。
それまでお人形さんの様にニコニコしていた表情が人間らしい顔つきに変わる。
樹脂でできてはいるが、一本筋の通った整った目鼻立ち、少しきつめの表情。くのいちにそっくりである。
「くのいち、くのいちじゃないか!」
機械メイドのAIイラスト、アップしました。「みてみん」のサイトで「ガーディアンデビルズ」と検索していただけると幸いです。




