第103話 ヒッキーVS強
悪魔が乗り移った様なヒッキー、くのいち、ミルク。ヒッキーはくのいちに攻撃するかに見えたが、虚をついて彼は強に攻撃を仕掛ける。暫く拳を交えた後、強は意外にもバトルの中止を提案する。
「うわっ」
ヒッキーとくのいちのバトルが始まるのではないかと予期していた強は虚を突かれる
「ゲームプラン通りだ」
強の耳にはヒッキーがそう呟いた様に聞こえる。
強が一瞬怯んだ隙にヒッキーが強の懐に飛び込んでボディに連打を浴びせる。強はブロックするがガードが下がったところにヒッキーの拳がアゴ目掛けて飛んでくる。強は首をさっと動かしよけるが、軽くヒットする。強が怯んだところにヒッキーのローキックが強の左大腿に『バシッ』と入る。
強も反撃に出る。ボディに拳を数発入れ、相手の注意が下に行った所でハイキック。ヒッキーの側頭部にヒット。
ヒッキーが一瞬ぐらっとなる。
「(もらった)」
ヒッキーにとどめのアッパーを入れる強。
「決まった」
と強は呟く。
しかしヒッキーは倒れない。余りダメージを受けていない様にさえ見える。
「(おいおい、これって……)」
違和感を覚える強。一瞬ひるんだ隙にヒッキーの頭突きが強の顔面を襲う。強は顔を後方に反らせダメージを最小限に抑える。
ヒッキーの頭を強く押し返すと同時に、足払いの蹴りを水平に出す強。ヒッキーはそれをひらりとかわす。
「強、何やってるの! 早く片付けちゃいなよ!」
赤い瞳で冷たい表情を浮かべたくのいちが叫ぶ。
熱くなっている彼女とは対照的に、強は落ち着いた口調でこう言う。
「これくらいにしないかヒッキー、闘うのはやめよう。勝負は君の勝ちでいい」
この強のセリフにくのいちは納得がいかない様子。これではクエストクリアにならず、賞金ももらえないのでは、と心配している様だ。
彼女は突然ミルクの方を指差す。
「あっ、ミルクがポロリしちゃってる!」
全員驚いて、ウェディングドレス姿のミルクの方を振り向く。超古典的な戦術だが『ミルクのポロリ』は『UFOが飛んでる』より大衆の耳目を引き付けるらしい。当然ミルクはポロリなんかしていないのだが。
くのいちはその隙に背後に忍び寄り、ヒッキーの襟首を右手で後ろから掴む。
「強、あんたがヒッキーを倒さないなら、あたしがやるわ。魔術、殴る蹴るの暴行」
くのいちはそう言うが早いかヒッキーの頭部を左腕で抱え込む。身動きの取れないヒッキーの顔面に右の拳と膝蹴りの連打。『ドスッ、ドスッ』という鈍い音が響き渡る。
「やっぱこの男の子弱っちい」
赤い瞳を輝かせくのいちは不気味に微笑む。
ふらついたヒッキーをくのいちは背後から抱っこの様に持ち上げてそのままバックドロップ。そして動きが完全に止まったヒッキーの馬乗りになる。
彼女は更に顔面に容赦無い攻撃を『ガシッ、ガシッ』と加える。赤い瞳を輝かせ、楽しそうに笑顔を浮かべている。ヒッキーの顔が腫れ上がり瞼が開かなくなる。
「強、チャンスよ。やっちゃって!」
「もういい、くのいち。よせ」
「あたしが手伝ってあげるよ」
くのいちは強の右腕をつかんでそれを倒れているヒッキー目掛けて打ち付けようとする。それを強引にやめさせてくのいちを力ずくで振り払う強。くのいちはカッとなる。
「こんなクエスト、ここで終わらせちゃおうよ! MVPはあたしの物ね」
くのいちは赤い瞳を輝かせサディスティックに笑い立ち上がる。そしてソードプリンシパルを鞘から抜いて振りかぶる。
「お嬢、よせ」
くのいちは剣をにらみながら言う。
「今度はビットコインが値上がりしてもあんたを飛んで行かせないわよ」
「ダメだ、くのいち」
強とソードプリンシパルの制止を聞かずにくのいちは剣を倒れているヒッキーめがけて振り下ろす。
……とその直前にヒッキーの体と琢磨の体が入れ替わる。花婿衣装のヒッキーが、浴衣姿の琢磨となったのだ。
「えっ、何?」
とくのいち。しかし彼女が状況を理解する前にくのいちの剣は倒れている琢磨の胸部を斬りつける。
「ぐわっ!」
という琢磨の叫び声。
花婿衣装のヒッキーは、さっきまで琢磨がいたテーブルに座ったまま入れ替わって平然としている。くのいちにボコボコに殴られた傷などは全く見られない。
「えっ、ヒッキー?」
ミルクが驚いて声をあげる。
「やあ、僕の花嫁」
さっきまでミルクのテーブルの向かいに座っていた琢磨が急にヒッキーと入れ替わったのだ。ミルクは慌てて本来の琢磨の行方を探す。くのいちの足元を見ると、そこにヒッキーと入れ替わった琢磨。くのいちの剣で腹部をざっくりと斬られている。




