第100話 琢磨の圧迫面接
ダイブの仮想現実の世界でのバトルも、いよいよラスボスのヒッキーとの対決になるのか? ヒッキーを倒しクエストをクリアーした者は賞金の三百万円を山分けできるはず。琢磨とミルクは賞金をゲットしたら二人でミルクの実家のイギリスに旅行に行きたい様子。琢磨は前回の節操弁護士とのダイブの対決同様、相手の心理面を揺さぶる攻撃を試みる。しかしこれは不評を買ってしまう。
その時、ウェディングケーキが再びぱかっと割れて中からくのいちと強が出てくる。
「おーい、次の真剣白刃取り待ってるんだけど」
と待ちくたびれた様に強は言う。
くのいちはもう黙って聞いているのが耐えられなくなった様子。
「男に見てもらえる外見があるだけ幸せなんだよ! 『内面も見て欲しい』なんてほざく女に限って、自分は男を顔で選んだりするんだから! 結局、誰も内面なんて見ちゃいないんだよ!」
「お前あんまり力説すると、ひがんでいるだけに見えるぞ。お前は『内面を見て』なんていう地雷は踏まない方がいい」
と強。
「どういう意味よ!」
「一応これでもお前の外見を褒めているつもりなんだが」
「なにそれ、てへ。訳わかんない、てへへへ」
くのいち、思わず照れ笑い。
「くのちゃんは内面を磨くよりも〜強君に色々ご奉仕してあげて〜くのちゃんなしではいられなくしちゃえばいいんだよ〜」
それを聞いて、くのいち心の中で独白。
「(ご奉仕してあげるって……私はてっきり男には執事服でも着せて奉仕させればいいと思ってたのに一体どうすればいいのよ。そういえばこの前、手を使わないでフランクフルトを根元までかぶせる特訓をしたけど、あれはご奉仕の富士山一合目にもならないんだろうなあ……)」
「琢磨さんは〜私の内面も見てくれているよね〜」
「もちろんだよミルクちゃん!」
琢磨は自信たっぷりに言う。
「ミルクちゃんが望むなら僕は郵便局員になるのをあきらめて、魚池大学の医学部に進学する。そして産婦人科医になって内視鏡でミルクちゃんの内面もじっくり観察するんだーっ!」
琢磨の発言に強とくのいちはドン引き。ヒッキー、シスター、シェフ、機械メイドも敵ながらドン引き。
「琢磨、それはちょっと女の子は引いちゃうよ」
と言うくのいちに反し、ミルクは喜びの笑顔。
「琢磨さんはそこまで私の事を思ってくれるんだ〜。嬉し〜い!」
ミルクのこの言葉に強は唖然。
「例え医者になってもヘンテコカップルにつける薬はねえな」
おーいミルクの脳みそ、早くピクニックから帰って来―い……ってそれとも『私の彼氏が医学生になったらカッコいい』とかいう計算が働いているのだろうか?
彼女は魚池ドラッグズ&コスメのバイトも器用にこなしていたし、ヒッキーがグルグル回転蹴りキックのやり過ぎで倒れた時も素早く脈や呼吸をチェックしていた。故郷のイギリスで何らかの医療に関わる仕事を手伝っていた事でもあるのだろうか?
くのいちも唖然としながらも琢磨に問う。
「そんで琢磨、ヒッキーとの話はどうなったの?」
「それでは話を続けます。比企君、君は結婚生活で夫としてどれくらい貢献できるのですか?」
「僕はゲームが大好きなんです。父親もゲームアプリの会社をついこの間立ち上げました。僕はeスポーツやゲーム業界で大物になってミルクさんに楽な生活をさせたいのです」
「分かりました。ではその大まかなタイムフレイムを説明してくれますか?」
「タイムフレイム、ですか。eスポーツの大会で勝って賞金をゲットして、上手くいけばスポンサーがついたりして……この前僕はeスポーツの大会で優勝しました。賞金は今回のダイブでのMVPの人に授与するつもりです。僕はeスポーツを盛り上げていきたいんです。このダイブもeスポーツに通用する所が多いと思うんです」
ヒッキーの熱弁に少し心を動かされる一同。しかし琢磨はやや冷ややかな対応。ミルクを他の男に取られたくないのならば当然であろう。彼は包帯をヒッキーの周りにクネクネと這わせながらこう言い放つ。
「大会の開催は未来永劫続くものなのかな? eスポーツの認知度が上がればそれだけライバルも増えるだろう。そこで君はコンスタントに優勝していけるのだろうか? もしそう思うのならその根拠を聞かせてくれ」
「それと、eスポーツみたいに高度の反射神経が要求される競技で、君は何歳くらいまで現役生活を続けられると考えているのかね? スポンサーが付くには実力もさる事ながら大衆を惹きつける外見も必要と私は考えるのだが、君はどう思うかね?」
この辛辣なコメントにヒッキー、答えに窮する。
「これは圧迫面接です!」
と機械メイドが声を上げる。
(ヒッキーの命令とは言え、あんただって琢磨をすまきにして久慈川に流したんだから、その辺はお手柔らかに)
「若者の夢をへし折る事を生き甲斐にしている悪魔の様な面接官です!」
彼女はドジでおっちょこちょいだが正義感だけはあるらしい。
「この面接官の品位を疑うね。人間のクズと呼んでも差し支えが無いよ」
と機械メイドを援護射撃するシスター。
「あらかじめ懐の携帯の録音をオンにしておいて、今の様子を労働基準監督署に報告するとか、音声をSNSにアップするとか、会社の地元の地方新聞社やゴシップ週刊誌にタレ込むとか、なんらかの対策を講じた方がいいです、と」
とシェフ。
「私もラノベ作家を目指していた頃、就職しようとした会社の圧迫面接で落とされた事があるよ。この者に神の裁きが下されます様に」
とシスター。宿の受付や教会の修道女のポジションを得る前には、仕事を探す傍らラノベ作家も目指していたらしい。なかなかの苦労人である。オルガンもそこそこ上手い。
機械メイド、シェフ、シスターの三名の中ボスによる懸命のシュプレヒコール。だがラスボスのヒッキーはすっかりうなだれて戦意喪失の様子。彼は椅子から立ち上がり辺りをふらふらと歩いて呟く。
「そうですよね、どうせ僕なんか何をやってもダメなんだ」




