第10話 ヤンキー女の呼び出し
強がチョコに支払ったトリプルチーズケーキの賄賂は無駄では無かった。早速チョコから仕事の依頼が来たのだ。金欠の強はこの依頼を何とかして成功させたいはず、であった。
数日後。強が登校して自転車を停め、下駄箱を開けると一通の手紙が入っている。少女漫画雑誌の付録に付いていそうなピンク色の封筒に、
『つよしくんへ』
と書かれている。
強は手紙をポケットに突っ込み男子トイレの個室に入る。因みにIDカードを持っていないとトイレはロックされ入れない。校門も同様である。便座に腰掛け、封筒を開ける強。ピンク色の便箋には、
『今日の放課後、体育倉庫で待ってる。 チョコより』
の文字。彼は携帯でチョコに電話する。
「お電話嬉しいわ、ダーリン」
とチョコの声。
「武器は持っていないんだな?」
「武器? あたしはこの肉体が武器だよ」
チョコの返事に強が改めて確認する。
「素手でのタイマンでいいんだな。バットを隠し持ったりしていないだろうな?」
「そんな大きくて太くて硬い物どうやって隠すのよ!」
「女は隠す所が色々あるからな。胸の谷間とか」
「どっかのデカ乳女じゃあるまいし!」
「お前、友達をどっかのデカ乳女呼ばわりか」
「話がどんどんそれちゃいそうだから本題に入るね、強。お待ちかねの仕事の依頼だよ。二年の女子が三年のヤンキー女から呼び出しを受けたんだって」
「放課後体育倉庫で待っているのはお前じゃなくて、そのヤンキー女って訳か」
「そうだよ。がっかりした?」
「仕事の連絡ありがとな、チョコ」
「ちょっとはがっかりしろ! でもあんた一人で大丈夫?」
「ケンカ十段の俺様の腕を信用しろ! ……でも何かあったら連絡するからその時は頼む」
「あんたって意外と慎重な面あるよね」
それから六時間ほど経過した放課後の体育倉庫。『ヤンキー』と書かれたバンダナを頭に巻いた三年の女が二年の女生徒を睨みつけている。
「二年坊、よく来たな。お前の出方次第では許してやらねえ事もないぞ」
女生徒は地味なタイプながら芯が強そうである。
「要件をはっきり言って下さい。何か私が先輩の気にさわる事でもしたのでしょうか?」
彼女は多少怯えながらも毅然とした口調。
「お前、先週の日曜日、どこで何をしてた?」
「私の私生活を報告する義務があるのですか?」
「大ありなんだよ! 一人で家に居たのか?」
「……かみね公園に行きました」
「茨城県民の夢のファンタジーランドと呼ばれるかみね公園か。それで何をしたんだ?」
「普通にクレープを食べたり……」
「クレープだと! かみね公園以外だと、あの原宿でしか売っていない幻の食べ物だな? 何クレープだ?」
「それは……確かチーズダッカルビクレープを頼んだ記憶が」
「語るに落ちたな。貴様に正義の鉄槌を下す! 必殺、ヤンキーパーンチ!」
ヤンキーは女生徒に強烈なボディブローを浴びせる。女生徒は、
『ふーじこちゃ〜ん!』
と声をあげて吹っ飛ぶ。
「いいか、よく聞け! チーズダッカルビの成分はチーズ、鶏肉、野菜だ。JKが茨城県のワンダーランドでそんなしょっぱ系クレープを頼むなんて不自然だろう!」
吹っ飛ばされた女生徒は、よろよろと立ち上がる。
「す、すみません、白状します。……実は陸上部の池面先輩と行きました」
「あたしが池面と付き合っているのを知っててやってくれるじゃねえか、この泥棒ネコが!」
「池面先輩とは先月から付き合っています。先輩は『カノジョはいない』って言っていました」
「嘘をつくのもたいがいにしろ。どうせお前が池面に色仕掛けで迫って強引にデートに誘ったんだろう。ほら、どんな風に誘惑したんだよ、再現してみせろよ」
ヤンキーは女子生徒のベストをつかむと両手で勢いよく引き裂く。
「キャー!」
女子生徒の悲鳴。続けてヤンキーは彼女の腕をつかみ背後から後ろ側に捻りあげる。
「痛い!」
ヤンキーはお構い無しにもう片方の手で彼女のブラウスのボタンを一つずつちぎり始める。
「イヤッ! やめて下さい!」
「お前が池面と二度と会わないって約束するまではやめないね」
その時、体育倉庫の奥でゴトッと音がする。
「誰だ?」
ヤンキーは床に置いてあったソフトボールの球を音のした方に投げつける。
『カキーン』
と音がして球が弾き返され、ヤンキーのおでこに直撃する。
「あいたたたっ!」
物陰からチョコが現れる。バットを持っている。
「あちゃー、見つかっちゃったか。治安維持の会のチョコこと税所千代子だよ」
チョコの身長は百五十センチに満たない。一見幼女の様である。
「このヤロー!」
ヤンキーがチョコに近づこうとすると、チョコはバットをヌンチャクの様に振り回す。ヤンキーは怯んで後ずさりをして、床のソフトボールの球を再び手にする。
「投げてごらんよ。あたしの体、どこを狙ってもいいよ。さっきみたく上から投げてもいいよ。その代わりあんたが狙った同じ場所にあたしも打ち返す。もう一回顔がいい? 胸がいい? それともお股?」
「(この幼女はやべえ)」
ヤンキーは青ざめてボールを床に落とす。両手を上げて降参のサイン。チョコはバットを手にしたままヤンキーに近寄る。
「あたしをどうする気だい?」
チョコは床に二枚重ねて敷いてある体操マットの前に進んで、上の一枚を持ち上げめくろうとする。が、重くてうまくめくれない。
「ほら、あんたもめくるの手伝って」
「て、手伝えばいいんだな」
とヤンキー。
「私も手伝います」
女生徒もマットを持ち上げようとする。ブラウスのボタンがいくつか外れて前がはだけている。
「あなたは無理をしないでね」
とチョコ。




