第1話 「学園の平和はあたしが守るっ!」「えっ、お前が?」
【登場人物】
<くのいち> 頭に手裏剣の髪飾りをつけた勝ち気な美少女。きっての武闘派でガーディアンデビズのリーダー。
<強> 『ケンカ十段』の異名を取るがちょっと間抜けなお人好し。
<チョコ> 校内のトラブルを携帯で撮影し、くのいちや強に連絡する『携帯アーミー』のリーダー。幼児体型だがバットを奇術師の様に操り、戦闘能力も高い。
<ミルク> バイリンガルのグラマーなイギリス人留学生。ガーディアンデビルズの癒し担当。
【本文】
** プロローグ 強とくのいち 、出動! **
「あれ、なんか気持ちいい」
校長室から無断で持ち出した、背もたれのある椅子で居眠りをしているくのいちこと久野一恵はそう寝言を言う。私立魚池高校、治安維持の会の部室。お昼のポカポカとした日差しを浴びて彼女はヨダレを垂らし鼻ちょうちんを作っている。せっかくの美人が台無しである。
百七十五センチの長身で整った目鼻立ちが長髪の黒髪に良く似合う。十センチ程の大きさの手裏剣型の髪飾りを一つ着けている。手足が長くスタイルは良いが、残念ながらバストは全く無い。彼女が『気持ちいい』と感じていたのはスカートのポケットの携帯が太ももの内側の辺りでブルブルと振動しているから。彼女は幸せそうな顔で居眠りを続け携帯に出る様子はない。業を煮やした携帯が勝手に喋り始める。
「くのいち、いい加減電話に出て!」
「あれ、チョコ? ねぇ、振動もちっと強くできない?」
くのいちは寝言でそう答える。
「仕事だ。起きろ、くそビッチ!」
「くそビッチ? 言っとくけどあたし、下痢はしていないんだからね。今日もちょうどいい硬さのが一本……」
チョコの声が会話をさえぎる。
「誰もそんな事訊いてないわよ!」
くのいちは寝言を続ける。
「チョコの方こそソフトボールのやり過ぎでお肌がウンコ色になってるじゃない」
「ウンコ色言うなあっ! チョコレート色! くのいち、どうしても電話に出るつもりがないのね」
「だから振動をもちょっと強くぅ……」
「あたしを本気にさせたね」
くのいちの携帯の振動が徐々に強くなっていき、下半身がブルブルと震え出す。
「うわっ、タンマタンマ! 刺激が強過ぎ! これじゃあ出ちゃうよ〜」
「早く電話に出ちゃいなさいよ!」
「そうじゃなくて別の物が〜」
その時くのいちのスカートのポケットに誰かの手がスッと伸びて携帯を抜き取り応答する。
「もしもし、俺、強だけど……くのいちに代わればいいんだな……ちょっと待ってろチョコ」
くのいちの携帯を抜き取ったのは剛力強。身長はくのいちより少し高い百七十八センチ。軽くウェーブのかかった天然の茶髪。『ケンカ十段』の異名を取り、一見ちょっと不良っぽいがどこか人懐っこい。彼はくのいちの顔に携帯を近づけようとしたが、くのいちがそれをもぎ取る。
「あたしのスカートの中に手をいれたわね」
「悪いな。今度俺のポケットの先っちょに入っている金色の5円玉をお前に取らせてやるからそれで勘弁してくれ」
「バカ……」
少しはにかみながら携帯のビデオ通話をオンにするくのいち。画面にはチョコこと税所千代子が写し出される。ソフトボールのユニフォーム姿で右手にバットを持っている。チョコレート色の肌にウェーブのかかったショートヘア。いかにもスポーツ少女。画面では分かりづらいが身長は百四十五センチと小柄。スピーカーモードはオンになっていて、チョコとくのいちの会話は強にも聞こえる。
「くのいち、至急の連絡よ。たった今不良っぽい男が、オタクな男を二人連れて無理矢理鉄道研究会の部室に入って行ったわ。カツアゲかも」
「よっしゃあ! 金ヅル、じゃなくて仕事ね! あたしと強が向かう。あんたは大丈夫なの、チョコ?」
「あたしは安全なとこにいるから平気。あ、今不良っぽい男の顔と名前が分かった。あんたと強にデータを送るね」
くのいちの携帯の画面に男の顔写真とステータスが表示される。
『兼尾貢 二年生 テニス部所属 身長百七十五センチ体重六十キロ』
強の携帯もピロリンと着信音がしてチョコからのデータが届く。スピーカーモードで二人の会話を聞いていた強が携帯の画面を見ながらくのいちに言う。
「この兼尾って奴に会いに行けばいいんだな?」
「そうよ。居場所は鉄研の部室」
くのいちと強は学園治安維持の会の二枚看板である。学園のイジメ、暴力沙汰などのトラブルの解決にあたる。ちなみに出来高払いの有料の報酬が支給されている。




