ジジィの調査
ラングによる【転生】特別講座アーニャたちだけではなくアテナ、アルマ、アヴァンも興味を示していた。まあ、3人は既に【転生】済みとはいえ、まだ何回かできるからな。受講しておいて損は無いはずだ。
ただし、俺はというと別の用ができたため、一人散歩するという名目で皆の輪から抜け出していた。
いつもは付いてくるアーテルやアウルにも今回は遠慮してもらっている。
そうして俺やって来たのは【レギオンガルド島】の北にある湖だった。
【レギオンガルド島】の北部は中央の山から湖へ、湖から海へと川の流れができており、各所で釣りができるようになっている。
現に釣りを楽しんでいるプレイヤーがチラホラいるのだが、その中に・・・
「フハハハハ! 大漁、大漁! 現実でもここまで釣れれば良いんじゃがのう!!」
・・・湖で悠々と釣りを楽しみ、釣れた魚を天高く上げてはしゃいでいるジジイがいた。
既に記憶の彼方に追いやっている人も多いと思うが、コイツの名はゲンジィ。まことに遺憾ながら俺のリアルでの知り合いでもある。
なんでもこのゲームの運営会社の前社長を調べるとかなんとか抜かして姿を消していたのだが・・・なぜかこんな所で釣りをしている次第である。
「こんな所で何油売ってんだ、ジジィ!」
ドゴンッ!
「おうふ!?」
ジャポーンッ!!
はしゃいでいたジジィの背中に蹴りを入れて湖に沈める俺。
・・・いきなり蹴り落とすのは酷いんじゃないかって?
良いんだよ。このジジィは俺が何百回と連絡を取ろうとしたのにも関わらず、全てシカトぶっこいてやがったんだからな。
肝心な時に連絡が取れず、ようやく姿を見せたかと思えば呑気に釣りしてはしゃいでいる・・・蹴りの一発でもお見舞いしたくなるってもんだろう。
「乱暴じゃのう・・・そんなんでは女の子にモテんぞ?」
「安心しろジジィ。俺が乱暴になるのはアンタに対してだけだ」
俺がそう言うとジジィはやれやれと言った感じで、一瞬で湖の中から脱出し、俺の背後に立っている。・・・やっぱりこのジジィには遠慮なんて無用だな。
「・・・どうした小僧? こうもあっさり背後を取られるとは鈍ったのでは・・・ぬぅ!?」
俺の背後を取って良い気になっていたらしいジジィだったが、さらにその背後から現れたエナジーハンドによってジジィは鷲掴みにされ、拘束されてしまった。
・・・マジで便利だな、【機天の装腕】。
このジジィは気配とかを探る達人だから、普段なら背後からの奇襲なんてまるで通用しないんだが・・・エナジーハンドは文字通りエナジーの塊で気配も何もないからな。いかにジジィといえど察知できなかっただろう。
「さて、これでもう逃げられないぞ、ジジィ。・・・洗いざらい吐いてもらおうか」
「・・・ぬぅ・・・腕を上げおったな小僧」
そりゃあ、俺だって激戦を潜り抜けて来たからな。成長だってするさ。
「じゃが、どこか焦りも感じておるようじゃのう。・・・どれ、ここは一つ腹を割って話し合うべきじゃろう」
・・・どうやら今度こそジジィは真面目に話し合う気になったようだ。
まあ、エナジーハンドによる拘束は解かないがな(笑)
なんでかって? このジジィの秘密主義には俺も何度も困らされたからだ。話が終わるまでは油断はしない。
・・・
・・
・
「・・・お主、色んなことに巻き込まれ過ぎじゃないか?」
「・・・」
俺からの話を聞いたジジィの第一声がそれだった。・・・否定できないのが何となく悔しい。
「やれやれじゃの・・・ワシの方は見事に空振り続きじゃったのに、なんでお主の方にばかり事が起こるんじゃ?」
知らねぇよ。俺が頼んだわけじゃない・・・って空振り?
「ジジィでも情報収集は無理だったってことか?」
「うむ・・・正確には高レベル帯と言われる所じゃな。ワシの実力では通用せん所ばかりで正直心が折れそうじゃったわい」
・・・このゲームでいう所の強さというのはつまりプレイヤーのレベルのことで、どれだけレベルを上げることができるかによって強さが変わってくる。ただし、現実での培った技術が全くの無駄かと言えばそうでもなく、それなりの武術経験者なら多少のレベル差があっても技術の差で状況をひっくり返す事は可能だ。
実際、このジジィも現実での腕っぷしを元にして調査を行っていたんだろうが・・・甘かったらしい。
「このゲームはすごいのう・・・侍に忍者、騎士や弓士、剣士に武道家・・・レベルが高くなればなるほど、まるで本物・・・否、それ以上だと思わせるNPCがわんさかおりよる」
ああ・・・このジジィ、【武術会】で強者とやりあっていたのか。俺もヤマトタケルやハットリハンゾウと相対して同じような感想を持ったから気持ちだけは分かる。
「・・・そこがまずおかしい事じゃと気づいておるか?」
「なに?」
どういうことだ?
「高レベルNPCたちの実力・・・確かにステータスによるものもあるじゃろうが・・・何よりも注目すべきなのはその技術力じゃよ、剣士であれば剣の扱いじゃが・・・まるで何十年も剣の修行を行ったかのような老成を感じる。他も同様じゃ。果たしてそれらをAIだけで作りだせるのか?」
作りだせるのか? って言われても実際に存在する以上、そう考えるしかない。まさかこの現代で実在する剣の達人をモデルに・・・なんてことは不可能だろうし。
「否。これはワシの考えじゃが・・・モデルはおると思うんじゃ。NPCに限らずこのゲームに存在する物全ての、な」
このゲームの・・・モデル? このゲームにある全ての物は何かを参考にして作られているというのか?
「おそらくそれこそがお主らの遭遇したという・・・アミネ? とかいうお嬢ちゃんが探している何かなのじゃろう」
(*・ω・)*_ _)ペコリ
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