卵の割り方
卵を割る時の注意点とはなんだろうか?
まあ、色々あるだろうが俺が思うに一番気を付けなければいけないのは力加減だと思う。
当然ながら卵を割る時、全力全開で割ろうとする奴はいないだろう。それをやった奴は俺のような悲惨な目(悲)にあっているはずだ。
普通、卵を割る時は軽くヒビを入れてから、そこを起点に割るのが常道だろう。
そのやり方が・・・あの卵モンスターにも当てはまるとすればどうだろうか?
俺は硬い殻を破ろうと全力で攻撃していたが、それがかえって逆効果になっていたとしたら・・・
『・・・アルク、見つけたのだ』
それを確かめる為、【機動戦艦】で2体目の【卵獣エッグラン】を探していたのだが・・・少し離れた浮遊小島でその姿を見つけることができた。やはりここでも呑気に浮遊小島の上を走り回っているようだ。
・・・希少な【美食幻獣】にしては昨日といい今日いいと見つけるのが早い気がするが・・・あの卵の場合、見つけることよりも倒し方の問題で希少ってことになっているのかもな。おそらく何度もチャレンジすることが前提なんだろう。
「悪いがもう一度だけ、俺一人で戦わせてくれ」
『あの卵を倒す方法が分かったのだ?』
「ああ、多分な。これで駄目ならアテナたちやラングたちも引っ張って来て皆で対処することにしよう」
「頑張ってくださいなのです!!」
アーニャの声援を受けて、俺は再度、あの卵モンスターに対峙する。
「ふんっ!!」
1体目の時と同様に飛び蹴りを食らわせて、動きを止める。その後も1体目の時と同じように殴る、蹴るを繰り返す。
・・・今にして思えば、この時点で違和感があったんだよなぁ・・・それが何なのかようやくわかった。
俺が違和感を感じていたのは素手で卵を攻撃していた時は、殻が赤く染まらなかったという点だ。
アーニャの話では、昨日ブランたちが卵と戦った時は、ブランたちが攻撃をするにつれてだんだんと赤くなっていったと言っていた。そして完全に真っ赤になった時点で自爆・・・これを見てアヴァンは『ある程度ダメージを受けると自爆するタイプ』だと推測していた。
実際、俺もアヴァンの推測は正解だと思う。ただし、完全な正解ではないのだ。
その証拠に俺が今行っている攻撃・・・武器もスキルも使わず、ひたすら素手による攻撃を繰り返していても、卵の殻は一向に赤くなる気配がない。
そう・・・変化が無いのだ。ヒビ一つ入らないのは相変わらずだが、殻が赤くならないのはさすがにおかしい。素手による攻撃だったとしても、今の俺のステータスからすれば相当量のダメージを受けているはずだ。
これではアヴァンの推測が間違っているのではないかと思ってしまいそうになるが、そういう事でもない。
答えが出たのは、もう何十発目になるかわからない拳を叩きこんだ時だった。
ピシッ!!
あれほどビクともしなかった卵の殻にヒビが入ったのだ。殻の色に変化はない。
「・・・どういうことなのです?」
『・・・なるほどなのだ』
俺の戦いを見守っていたアーニャは未だ良く分かっていない様子だったが、どうやらアヴァンは気づいたようだ。
『つまり、あの卵は手加減をした攻撃を加えないと倒せない特殊な敵ということなのだ。おそらくあの卵には、ある一定上の力で攻撃を受けるとそのダメージを蓄積して自爆してしまう性質があるのだ。自爆を避けて倒すためには力を抑えた攻撃でHPを削っていく必要があるということなのだ』
「・・・お料理の時に卵を割るのと同じ、ということなのです?」
そういうこと。
それに気づいたのは、先ほど俺が【帝釈天の勇撃】の【初撃】を放った時だ。それまでは素手の攻撃で何の変化もなかったのに、武器とスキルを使った途端、いきなりほぼ真っ赤に染まったのはさすがに不自然過ぎた。
そこで、素手による攻撃のほうがむしろ有効なんじゃないかと思ったわけだ。実際、それは正しかったのだが、まだ問題はある。それはどの程度まで力加減が必要なのかということだ。
素手による攻撃はひとまずOK。では素手のままスキルを使った場合はどうか、スキルを使わず武器だけを使う場合はどうか、素手の状態なら複数人の攻撃でも大丈夫なのか、などの線引きはいまだ不明瞭のままだ。
それを検証するにはもっと時間と人手がかかるだろうから一旦保留だ。まずは、このまま仕留めることができるのかを確認するべきだろう。
まだ何かあるかもしれない・・・って!?
「おい、待て!!」
ヒビが入って危機感が出たのか、急に卵が逃げ出した。先ほど走り回っていた時とは段違いのスピードだ。
どうやらこの卵、こちらに攻撃してこない代わりに防御力とスピードに特化しているタイプのモンスターらしいな。
だが、スピードなら【俊天の疾走】で・・・と思ったが、そこでふと気づいた。加速スキルを利用した攻撃も多少だが威力が上がる。それによるダメージがあの卵の許容範囲内に収まるかどうか・・・疑問だな。
そう考えると【俊天の疾走】を始めとして攻撃に繋がるスキルを使わない方が良い。
ならばこれならどうだ。
「【機天の装腕】エナジーハンド!」
俺はメダル一枚分のエナジーハンドを一つ作り出し、ガシッと逃げ回る卵を掴んだ。
・・・赤くはなっていないな。どうやら捕獲するだけなら攻撃とはみなされないみたいだ。もしかしたらこの卵の倒し方っていうのは罠かなにかでコイツの動きを止めたところを攻撃するのが正しいやり方なのかもしれない。
とりあえずエナジーが尽きる前に、ジタバタ暴れる卵を倒すことにしよう。
「シッ!!」
俺はヒビの入った箇所をめがけて再び攻撃を再開した。
・・・地味にきついな、これ。
手加減した攻撃を長時間繰り返すなんてことは普通ありえない。雑魚相手に手を抜くことはあるだろうが、それは手を抜いた攻撃でも短時間で倒せるからしているのであって、そもそも戦闘というのは長時間行うものではないのだ。
加えて、ゲーム歴がそれなりに長くなってきて武器やスキルを使うことが当たり前になった現状ではそれらを使わない戦いに逆に違和感を感じてしまう。
そういう意味では、この卵は武器やスキル頼りでは倒せない上級プレイヤー殺しのモンスターなのかもしれない。
ピシッ! ピシピシピシッ!!
お、ヒビが大きくなってきた。もう少しかな。
俺は勢いを止めることなくただひたすら素手で卵に攻撃を仕掛け続けた。
そして、とうとう・・・
ピシピシピシッ! パリィィィン!!
卵・・・【卵獣エッグラン】は砕け散った。
「おっしゃあ!!」
「すごいのです! さすがアルクさんなのです!!」
『見事なのだ!!』
アーニャ達から賞賛を受ける中、俺は【卵獣エッグラン】が落としたドロップ品を拾い上げる。そのドロップ品というのは当然・・・
「・・・卵だな」
卵の中から卵が出て来た。ただし、ドロップ品の方の卵は6cm程度の普通の鶏の卵サイズだが・・・殻の色が金色だ。
黄金の卵・・・いかにも特別って感じだな。
さっそく【鑑定】で確認してみる。
【美食卵エッグランエッグ ☆11】
遥か天空で育った鶏型モンスターが産み落とす希少な卵
その味は天上の神々をも魅了するという
お・・・おお・・・もう間違いない。
これこそ俺たちが探し求めていた食材だ!!
(*・ω・)*_ _)ペコリ
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