機械の進化は人間を超えるのか
「そういえばそっちはどうだったんだ? 上手く行ったのか?」
【機天の装腕】の性能テストは一通り成功だと判断し、この場はお開きと相成ったわけだが、そこでアヴァンとラグマリアが【機動戦艦】を使ったレベリングテストに出かけていた事を思い出し、戦果を聞いてみることにした。
なお余談だが他の皆・・・特にアテナとアルマには普段通り過ごしてもらうようお願いしている。アニスたちの事や他の3人の人格の事など色々思う所もあるだろうが、今はまだ迂闊に動かないよう念押ししておいたのだ。焦って動くのは逆効果になる可能性が高いからな。
「うむ・・・まあ、敵が低レベルなうちは特に問題は無かったのだが・・・やはり敵のレベルが上がっていくにつれて厳しくなっていったのだ」
アヴァンたちは【幻獣界】のエリア1・・・つまりLv.10程度のモンスター相手に無双したそうで、アヴァンたちのレベルもどんどん上がっていったそうだ。
まあ、【機動戦艦】の性能を考えれば当然ではあるし、アヴァンたちも【転生】してLv.1に戻ったばかりだから、レベルはサクサク上がっていくだろう。
そんな感じである程度アヴァンたちのレベルが上がって行ったら、次のエリアへ行ってレベル上げを繰り返していたそうなのだが・・・エリア3辺りから徐々に雲行きが怪しくなっていったらしい。
現行の【機動戦艦】の攻撃手段は、戦艦各部に取り付けられた砲台からの狙い撃ちだ。そして当然ながらどんな強力な砲台も当たらなければ意味はない。
「砲弾の威力から考えればLv.30台、Lv.40台が相手でも余裕だと思うのだ。・・・当たりさえすれば、なのだ」
特に空を飛び回るモンスターは特にすばしっこく、自動操縦で操作している砲台ではなかなか当たらなかったとのこと。
ただ希望もあって手動操縦に切り替えれば精度は格段に向上する。実際、ラグマリアが操作していた砲台は、まるで縁日の射的で商品を落としまくるがごとく、モンスターを撃退していったとのこと。
「【チビマリア】たちにもやらせてみたのだが・・・自動操縦より多少マシといった程度だったのだ」
【チビマリア】たちにもやらせたのか・・・というかできたのか。当の【チビマリア】たちが偉そうに胸を張ってるが・・・多少だって言われただろうに。褒めてないからな?
まあ、【チビマリア】たちは一応、お助けロボット枠だからな。さすがに狙撃兵の真似事をさせるのは無理があるか。
と思ったのだが・・・
「【チビマリア】たちはまだ経験と根性が足りないだけデス。本日より地獄の特訓を行って一人前の兵士へと鍛え上げてみせマス」
なんかラグマリアが燃えていた。鬼軍曹のごとくやる気・・・殺る気?になっていた。【チビマリア】たちも『ひぃぃぃぃ!?』と言わんばかりに怯えているじゃないか。
・・・何があったんだ?
「・・・拙い連携はかえって足をひっぱる結果に繋がるのだ」
要するにラグマリアの邪魔をしてしまったという所か。アヴァン曰くラグマリアが狙っていた得物を横から狙い撃ちしてしまい、しかも当たらず逃がしてしまったことが何度もあったのだそうだ。
多人数が参加するゲームとかだとよくあることだし、イライラしてしまうのも分からなくないが・・・ラグマリアがその程度の事を気にしてやる気になってるのは妙だな。【転生】前のラグマリアだったら『下手ナ鉄砲スラモ当タラナイトハ・・・トンダ豆鉄砲デスネ』と毒を吐いて終わってたと思うんだが・・・
「うむ。我も少し驚いているのだ。ラグマリアの進化には【アドバンスドメモリ】や【ヴィヴェルグプロセッサ】などの演算系部品が大量に必要だったのだ。【ヴァルマキア・ブレイン】という種族特性も相まって知能が格段に向上したせいだと思うのだ」
現在のラグマリアは喋り方もそうだが、行動、仕草、表情までもが大分人間に近づいているらしい。勿論、戦闘能力も向上しているのだが・・・アンドロイドとして、【ヴァルマキナ】として完成に近づいているってことなのか?
「人工知能の進化はやがて人間の脳を超えるって聞いたことがあるが、ラグマリアもそうなるのかね」
「そもそも【ヴァルマキナ】は【機械神ガルヴデウス】に作られたアンドロイドなのだ。人間以上のポテンシャルを秘めていてもおかしくないのだ」
・・・そういえばそんな話もあったな。神様に作られたラグマリアが人間以上の存在になるのはむしろ当然の結果なのかもしれない。少なくとも今のラグマリアは以前よりも人間に近づいていて格段に接しやすくなった。今後はどうなるか分からんが、今は静かに見守っておくべきだろう。
「弱音も泣き言も聞こえマセン! ただ敵を倒すマシーンになるのデス!!」
『『『『 (((( ;゜д゜)))』』』』
・・・いや、やっぱり【チビマリア】たちは救出した方が良いかもしれない。【チビマリア】たちを訓練するのは良いんだが・・・このままではとんでもない方向に魔改造されてしまいそうだ。
なんとかラグマリアをなだめつつ、もう一つ気になっていたことを聞く。
「そういえば、【機動戦艦】を使ったってことは【幻獣界】の空を飛行してたってことだよな? やっぱり空にもモンスターが居たのか?」
これまでのいくつかの情報から【幻獣界】には陸海空それぞれに属するモンスターがそれぞれ存在していると考えられている。
俺たちがもっぱら活動していたのは各エリアの島ばかりだったが、最近になって海の方まで手を出し始めた・・・そして【世界魚バハムート】が出てきてひどい目にあった。
まあ、それは置いておくとして空の方までは手を出してこなかった。ここで言う空というのは島の上空ではなくもっと上・・・そう、それこそ雲よりももっと上の空の事だ。
そこまでの高度へ上昇しようと思うと時間も手間暇もかかる。消耗だってするし、長時間探索するのも厳しい。足場もないから戦いにも不利、というわけで行けなくはないが敬遠されていたりするのだ。
しかし、戦艦の登場で事態は変わった。
ノーリスクで高高度まで、なんなら宇宙まで行くことができる戦艦。甲板を使えば足場にもできるし、空の上の探索もはかどる・・・はずだった。
「あー・・・確かに行こうとはしたのだ」
しかし、何故かアヴァンは言いづらそうに口ごもった。行こうした?
「最初、我とラグマリアは各エリアの島の上空を航行して、地上のモンスターや鳥系のモンスターを狙い撃ちしていたのだ」
島の上空? つまり、それほど高高度には行っていないってことか? まあ、空の上にどんなモンスターがいるかわかったもんじゃないし、冒険するより、既存のモンスターを相手にした方が安全かもしれないが・・・
「だが、途中でアーニャとも合流し、そこで高度を上げた所にどんなモンスターが居るのか確かめようという話になったのだ」
「ふむ」
新しいモンスターがいるということは、まだ見ぬドロップ品・・・アーニャからすれば新食材が手に入る可能性もあるからな。アーニャにとってはレベリングに平行して大事なことだろう。
「まあ、そこで問題が起こったのだ」
「問題?」
アヴァンが言いにくそうにしているのはそれのせいか?
「そう! そうなのです!!」
「うおっ!?」
そこで急に割り込んできたアーニャが叫んだ。
「あそこは摩訶不思議なのです! おかしいのです! 魔境なのです!! 是非アルクさんの力も貸してほしいのですー!!」
「お、おお・・・」
なんかいつになく押しの強いアーニャに言われるがまま、明日は【幻獣界】探索の予定が決まってしまった。
・・・ホント、なにがあったん?
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