秘密基地
工房を出てクランホームの地下へ地下へと降りていく俺とアヴァン、ラグマリア・・・そして【チビマリア】たち。
向かう先は新たに新設され我らがクランホームの新設備。
「おお・・・マジで秘密基地みたいだな」
そこは【機動戦艦シュテルンアーク】がすっぽりと収められている、クランホーム用の戦艦ドックだった。
【収納箱】に戦艦を収納できるのに、何故わざわざ戦艦ドックを? と思われるかもしれないが、これにはちゃんと理由がある。
「ここの戦艦ドックがあれば【機動戦艦シュテルンアーク】のオプションを自由に取り替えできるんだよな?」
「うむ。これで艦首をどうするかの問題は解決できるはずなのだ」
そう、本来であれば【機甲界】の【火星衛星拠点ヴィヴェルグ】でなければできない戦艦のオプションの取り換え(有料)を、この戦艦ドックがあれば俺たちが自由に、何回でも行う事ができるのだ!
・・・まあ、戦艦ドック設備自体、高額だったから、よほど頻繁に戦艦オプションを取り換えるでもない限り元を取ることはできないだろうが・・・まあ、ロマンを追求した結果ということで。
あとは【機動戦艦シュテルンアーク】のオプション数を増やして行けば、やがてはどんな形態にもすることができる万能戦艦へと成っていくことだろう。・・・そこまで行くのにどれだけのお金がかかるかは想像もつかないが。
「とりあえず、現状では【広域レーダー艦首】を取り付けているのだ」
現在、【機動戦艦シュテルンアーク】の艦首には巨大な六角錐を横にしたような物が取り付けられている。これはいわば傘を閉じたような状態であり、戦場ではその傘が開いてアンテナのような形状へと変化する。
この形状になると、超広範囲に渡って敵を補足し、さらに特殊な音波を出して敵を引き寄せることができるようになる・・・らしい。実際のテストはこれからアヴァンたちが行うそうだ。
「どこでテストする気だ?」
「【幻獣界】に行ってみるのだ。あそこなら敵には事欠かないはずなのだ」
今現在、アヴァンは【転生】、ラグマリアは【進化】したてのLv.1の状態だ。つまり、レベリングが必要になるわけだが、二人はそのレベリングに戦艦を使用する予定なのだ。
戦艦で敵を倒した場合、その経験値は戦艦内にいるプレイヤー及び【眷属】たちに等分される。この辺りはパーティを組んだ場合と同じなのだが、戦艦の利点の一つとして誰が操舵しても攻撃力は変わらないということが挙げられる。
例えばLv.70の敵を倒せるだけの武装を戦艦に施していた場合、Lv.1のプレイヤーが操舵してその敵を倒す事も可能だということだ。要は戦艦を使ったパワーレベリングだな。
注意点としては、戦艦に100人乗っていれば当然、100人均等に経験値が配分されるわけで多人数が乗り込んでいるとレベリングには適さないことになる。
アヴァンが【チビマリア】たちのようなお助けロボットを戦艦の補助につけようとした理由はここにある。【チビマリア】たちはNPCや【眷属】ではなく、あくまで【兵器】扱いだ。レベルがあるわけでもないので経験値が割り振られることもない。その分の経験値はプレイヤーや【眷属】たちに割り振られることになる。
「まずは練習がてら、エリア1から順番に巡って行ってどのエリアまで行けるか試してみるのだ。ある程度確かめられたらミネルヴァやアーニャたちを連れてレベリングに行くつもりなのだ」
仲間になりたてでまだまだレベルが低いミネルヴァや、非戦闘員のアーニャたちも連れて行けば彼女たちのレベルアップも期待できる。ただ、あんまり連れていきすぎると一人当たりの経験値配分が減ってかえって効率が悪いから、その辺りは調整が必要だろう。
「最終的には戦艦内に工房や台所を設置して、操舵はラグマリアたちに任せたいのだ」
・・・つまり、戦艦の操舵は【眷属】たちに任せてアヴァンやアーニャは工房や台所でこれまで通りの生産作業を続けたい、と。生産作業を続けながら、自動的に入って来る経験値でラクラクレベルアップできるわけだ。
ちょっとずるいような気がするが、アヴァンもアーニャも生産作業で時間を取られてレベリングしている暇が無いからな。もしかしたら戦艦にいろんな設備を設置できるのは、そういう使い方も考慮されての事なのかもしれない。そういう意味では生産系プレイヤーの救世主的扱いになれるかもしれないな。上手くいったらガットたちにも教えてやろう。
「我らはさっそく出発するつもりなのだが、アルクはどうするのだ? 一緒に行くのだ」
「いや・・・せっかくのお誘いだが、今回は遠慮しておく」
Lv.70オーバーの俺が一緒に言った所でレベルアップは期待できないし、無駄に人数が増えれば効率が落ちるだけだろう。それに俺には他にやることがある。
「俺は俺でやりたいことがあるからな・・・工房を借りるぞ?」
「ああ、昨日言っていた例の件なのだ? 了解なのだ」
というわけで【機動戦艦シュテルンアーク】と【チビマリア】たちを【収納箱】に仕舞ったアヴァンたちと別れる。
クランホームの戦艦ドックの唯一の弱点というか、不満は・・・ここから発進できないという点だな。いや、正確には発進はできるんだが、そのまま他の世界に行けないのが難点だ。
このゲームにおいて他の世界に行くためには必ず【転移装置】を経由する必要がある。そう、俺たちは普通に行き来しているが、あくまで各世界は別世界であり地続きではないんだよなぁ。その為、戦艦で飛んでいくというわけにはいかないのだ。
戦艦に転移機能があれば良かったんだが、残念ながら戦艦にもオプションにもそういった物は存在しなかった。まだ実装されていないのか、ゲームの設定上搭載できないようになっているのかは不明だ。まあ、今の時点でも別の世界に行くのに多少不便なだけでそれ以外は別に普通に使えるから、どうしても必要ってわけでもないんだけどな。
さて、俺も行くか。
まずはホームの庭で遊んでいるアーテルたちに挨拶をして、今日の所は工房に引きこもってるから、そのまま遊んでいてもらう事を伝えた上で工房に戻る。
アヴァンが座っていた席に座ると、【機天ガジェット】から受け取ったアタッシュケースを開ける。
中に入っていたのは説明書兼設計図、そして俺がこれから作ることになる【兵器】のメイン素材だ。
そう、これは俺が一人で製作しなければならない。
【機天ガジェット】に託された【兵器】、【機天の装腕】を。
(*・ω・)*_ _)ペコリ
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