魂の有り様
おそらく【浄化】と彫られていたであろう石板。
これは間違いなく【固有能力:天醒者】に関係する何か・・・もしかしたら力の源ってやつなのかもしれない。
「【鑑定】・・・はできないか」
つい、いつもの癖で【鑑定】スキルを使おうとしてみたが・・・何も起きなかった。
ここは魂の中であってゲームの中ではないからだろう。同様に【メニュー】も開けないし、武器やアイテムを取り出すこともできない。【魔法】を使おうとしても駄目だった。
どうやらゲームシステム上のスキルやアイテムは魂の中では使用できないらしい。まあ、当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが。
しかし・・・俺は今の自分の姿を見下ろしてみた。ついでに顔や髪をペタペタ触って確認してみる。
うん、鏡が無いからはっきりとは言えないが、どうやら今の俺の姿はゲーム内のアルクの姿のようだ。そういえばアテナたちもゲーム内のキャラの姿のままだったが・・・なんで見た目だけはゲームキャラのままなんだ?
今の俺は精神だけの存在だから、姿は自由に変えられるのかも・・・と思ったが、現実の俺の姿を思い浮かべても特に変化無し・・・いい加減、訳が分からな過ぎて頭がパンクしそうだぜ。なんなら頭から煙を吹き出しそうまである。
プシュー・・・ボンッ! ??(;゜;Д;゜;)??(絶賛パニック中)
『【固有能力:天醒者】の効果により【天醒:明鏡止水】、【天醒:制情回避】が発動しました』
・・・えぇー・・・そっちは発動すんの? しかもダブルで?
【固有能力:天醒者】はゲームスキルじゃなく、俺個人の能力だからおかしくはないのかもしれないが、えぇー・・・まあ、おかげで落ち着いたけど。
あと今、遠くの方で何かが光ったな。
よくよく見渡してみると・・・【遠視】スキルが使えないのであくまで肉眼で見える範囲内だが・・・あ、あれも石板か?
見ると、なぜか直立不動に仁王立ちしている石板がいくつもあることに気づいた。どうやら光っていたのはその内の石板二つだったようだ。
タイミングからして、あの二つの石板にどんな文字が彫られていたのかは想像が付くが・・・確かめに行くのは無理そうだ。道中に穴が多すぎる。飛行手段があれば可能だったろうが・・・ここではスキルも【兵器】も使えない。
それともう一つ気が付いたのだが・・・地面のあちこちに砕け散ったと思われる石板の欠片が転がっている。
おおよそ見当が付いたが、もう少し確証が欲しい。
・・・あそこに突っ立ってる石板、穴を一つ飛び越えれば何とかたどり着けそうだな。
「よっと!!」
地面に開いた穴をジャンプして飛び越えて、なんとか落ちないように着地する。・・・ゲーム内の俺だったら楽勝で5mは飛べただろうに、今は2mがやっとって所か。身体能力もリアル並みに落ちてるっぽいな。
スキルも【兵器】も使えないから、空を飛ぶこともできない。気を付けないとな。
俺は穴から離れて目的の石板まで駆け寄る。
うっ!? またあの変な感覚が・・・だが、今は我慢だ。
ヒビ一つ入らず、直立しているその石板には・・・
「・・・【隠匿突破】」
と彫られていた。
・・・やっぱりそうか。どうもこの石板には【固有能力:天醒者】で使用できる力が彫られているようだ。さっき光っていた石板にはそれぞれ 【明鏡止水】、【制情回避】と彫られていたのだろう。
完全な形で残っている石板と、地面に転がっている石板の欠片。
傷一つない【隠匿突破】の石板と、半壊していた【浄化】の石板。
ゼルクとの闘いで使用できなくなった【天醒:浄化】と今でも使用できる【天醒:隠匿突破】。
【浄化】の石板のあのえぐれ具合は、穴の形と一致していた。まるで穴が空いた時に巻き添えを食らってえぐれたかのように。
ここまでくれば容易に想像が付く。
「この穴は元々空いていたんじゃなく・・・魂の一部をゼルクに奪われた跡、ってことなのか?」
そして、魂の一部が奪われたのと同時に石板も・・・【固有能力:天醒者】の力も奪われた。だから、ゼルクにも【固有能力:天醒者】の力を使えるんじゃないだろうか。
しかし、そうなると俺はゼルクに【固有能力:天醒者】の力だけではなく魂の一部までも奪われていたことになる。
あの空に空いている穴もそう言う事なのか。地面の穴から離れると襲ってくる感触もおそらく魂の一部、穴の近くだとそれを感じないのはそれらもまとめてゼルクに奪われたから、か。
だとすると、今の俺は考えていたよりずっとまずい状況なのかもしれない。何せ地面や空がこれだけ穴だらけ・・・見える範囲だけで言えばざっと6、7割近くゼルクに俺の魂が奪われていることになる。
俺自身、特に変調をきたしたという自覚は無い。精神面でも肉体面でも特に変化した感じはまるでない。
魂が奪われても精神や肉体にそれほど影響は出ないのだろうか? ・・・いや、そんなことは無いだろう。根拠があるわけではないが・・・このまま放置しておくのはまずい気がする。
次にゼルクと会った時、是が非でも俺の魂と力を取り返さないといけないな。それと同時にこれ以上奪われることは絶対に避けないといけない。全ての魂が奪われた時、俺自身どうなるのかは想像もつかない。
要するにゼルクの奴には何が何でも負けられないってことだ。
そのためにも・・・
俺は周囲を見渡し、無事な石板を探す。
この石板に彫られているのが【固有能力:天醒者】の力なら、俺が知らない力の名前が彫られた石板があるかもしれない。
名前がわかればその力が使用できるようになるかも・・・そしてその力はゼルクから魂と力を取り返すのに有効かもしれない。
出来れば全ての石板を確認したいが・・・やっぱり穴が邪魔なんだよなぁ。しかも穴から離れるとあの嫌な感触が襲ってくるし・・・ままならないな。
それにしても・・・と俺は【隠匿突破】の石板を見ながら思う。
「【天醒:隠匿突破】じゃなく【隠匿突破】、なんだな」
細かい事を言うようだが、【天醒】と付かない事には何か理由があるのだろうか? ゲームスキルの【浄化】と、俺が使っていた【天醒:浄化】も効果がまるで違ったわけだし・・・なんなんだ? 【天醒】って?
それにこの直立不動の石板・・・地面に突き立てられている感じからして石板というよりは石碑・・・いや、まるで・・・墓、みたいだ。まあ、墓石に人じゃなく力の名前が彫られているなんて意味不明が・・・ん?
この石板・・・【隠匿突破】以外にも何か彫られている? だが、なんだ・・・読めない? いや文字として認識できない?
これは一体・・・?
ズキンッ!!
「アガッ!?」
な、なんだ? 急に頭が・・・割れるように痛い!!
なんでだ・・・【天醒:明鏡止水】と【天醒:制情回避】の効果はまだ残っているはずなのに・・・思考が・・・まとまらない。
や、やばい・・・立っていられない・・・い、意識が・・・
ガラッ!
ハッ!? しまった!?
足を踏み外してしまった俺は・・・
「うおあっ!?」
こらえる事も出来ず、穴の中へと堕ちていってしまった。
・・・
・・
・
「ハッ!?」
そして俺は・・・クランホーム内の自室で目を覚ました。
「戻って来たのか・・・何だったんだ、あれは?」
頭の痛みは嘘のように消えていて、どこにも異常は見受けられない。
・・・もしかしたら、魂の中に潜り続けた反動か? 普通ではまずありえない現象だっただけに、何かしら問題や不調が起こったとしても不思議ではない。
となると・・・これ以上、【天醒:魂の回廊】を使うのは危険か? だが、【固有能力:天醒者】について知る絶好の機会でもある以上、多少の無理をしてでも・・・
―――お願いですから無茶なことはしないでください。
その時、アルマの言葉が頭をよぎった。・・・そういえばそんな約束をしてしまったんだっけか。約束は守らないといけないな。
仕方がない。【天醒:魂の回廊】による調査は見送ろう。正直、分からないことが多すぎるし、少なくとも数日は異常が起こらないかどうか経過観察しておいた方が無難かな。
あの石板に彫られていた内容や、【固有能力:天醒者】の他の力は気になる所ではあるが・・・それを知るのは次の機会にするとしよう。
・・・なんか今日は疲れた。いい加減、戻って休むことにしよう。
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