魂の在り処
クランホーム内にある自室に再度ログインしてきた俺。
・・・ふむ、今度は普通にログインできたな。
俺が気になっていたのは、本日最初のログイン時に勝手に発動した【天醒:魂の回廊】についてだ。これのせいで俺はいつの間にかアテナたちの魂に接触していたわけだが・・・何のトリガーで発動したのかが未だにわからないのだ。
一応、ログイン自体がトリガーなのかと思ったが・・・やはり違ったらしい。まあ、前回の時もそうだったからな。ただ、今回は【天醒:魂の回廊】という力のせいだということは認識できた。そして一度認識すれば後は俺の意志で発動できるようになるようだから、今後は【天醒:魂の回廊】も自由に発動できるはずだ。
ただし、俺はもう【天醒:魂の回廊】を使ってアテナたちの魂を覗きに行くつもりはない。魂本人? がズカズカ入って来るなって言ってたわけだし、プライバシーは大事だよな。・・・魂への接触がプライバシーの範疇なのかどうかは分からんが。
まあ、それはともかく俺がわざわざ一度ログアウトしてから再度ログインしてきたのは・・・【天醒:魂の回廊】で確かめたいことがあるからだ。
【天醒:魂の回廊】とやらは魂への接触を行う力らしい。
そして精神と魂というのは結びつきこそあるものの、基本的には別々に存在しているようだ。
これはあくまで俺の仮説だが、アテナたちの精神と魂の様子から察するに・・・そうだな、例えるなら魂という部屋に精神という住人が暮らしている、といった感じなんじゃないだろうか? まあ、魂の声みたいなのも聞こえて来たから正確には違うんだろうが、イメージ的にはそんな感じだと思う。
アテナたちは精神が7人いるから席も7つ用意されていて、その内4人の精神は魂に帰っている、つまりログアウトしているから姿が見えるが、残り3人はログインしっぱなしで魂に帰っていないから空席のままなんじゃないか、と俺は推測している。
そして【天醒:魂の回廊】というのは俺の精神を対象の魂という部屋に送り込む力なんじゃないか、と。
・・・自分で考えておいてなんだが、思考がだいぶオカルトじみてきてる気がするな。ただ、そう的外れな答えではないとも思っている。
で、ここからが本題だ。
実は俺は【天醒:魂の回廊】の力を使って・・・俺の精神を俺の魂に送るとどうなるのか、を試そうと思っている。
アテナやアルマは自身の魂の中で起こった事をまるで知らない様子だった。つまり、自分自身ですら魂の中に何があるかはわからないということだ。
まあ、誰だって魂の中を確認なんてできないし、しようとも思わないだろう。そもそもそんなことをして何の意味があるのか、と。
ただ、アテナたちの魂の中にはアテナたちの精神以外にも、椅子が用意されていて魂の声まで聞こえて来た。つまり、魂の中には精神以外にも存在するものがあるということになる。
もし、俺の魂の中にも、その存在するものがありるのなら・・・もしかしたらそれは【固有能力:天醒者】に関する何か、かもしれない。
おそらくだが、【天醒:魂の回廊】を使えばそれを俺の目で確かめることができる・・・はず。
念には念を入れて、俺以外のプレイヤーがログアウトしたタイミングでログインしてきたのも、間違っても他の誰かの魂へ入り込むのを防ぐためだ。
俺一人しかいないこの状況であれば間違いようが無い・・・はず。
というわけでいざ行かん! 我が魂の奥底へ!!
「【天醒:魂の回廊】!!」
『【固有能力:天醒者】の効果により【天醒:魂の回廊】が発動しました』
いつものように力の発動のアナウンスが聞こえると同時に、視界が揺らぐ。・・・本当に成功しちゃったみたいだ。
・・・
・・
・
そして、俺はその場所に降り立った・・・のは良かったが、その場所というのはどうにも不可解な場所だった。
まず、地面がある。コンクリートのように固く真っ白な地面だが・・・足の踏み場がほとんど無いくらいに穴だらけだった。落とし穴・・・というには底が見えないし、こんな状態では移動することもままならないな。
続いて空。青い空ではなく、赤、緑、黄色、白、紫・・・ありとあらゆる色をごちゃませにしたというか、パレットに絵の具をぶちまけたかのようななんとも魔訶不可思議な色の空が見える・・・が、それ以上に気になるのは・・・空までもぽっかりとたくさんの穴が開いていることだ。
アテナたちの魂の中とはまるで様相が異なる。これが俺の魂の中だって言うのか?
とりあえず、地面に空いた穴に落ちないよう、わずかに残っている地面を歩いて穴から距離を取った・・・所でさらに不可解な現象が俺に襲いかかって来た。
まず音が聞こえた。老若男女様々な人の声のようにも聞こえるし、動物の鳴き声のようにも聞こえるし、何かの機械の駆動音のようにも聞こえる。しっかり耳に入ってきているはずなのに、まるで判別がつかない音がありとあらゆる方向から聞こえてくる。
呼吸をすると・・・匂いがしてきた。甘いような、焦げ臭いような、すっきりとしたミントのような、鼻を突く刺激臭のような様々な匂いが同時にやって来る。初めての匂いの感じ方に一気に気分が悪くなってきた。
思わず鼻をつまんで口で呼吸をすると・・・なぜか空気に味がした。甘く辛くしょっぱく苦く、そして美味しい・・・舌がおかしくなってしまったんじゃないかと思える無数の味が俺の舌に襲い掛かってきた。
さらに俺の体全体が・・・凍えそうなほど寒いのに、大量の汗を拭きだすほど暑い。ビリビリとしびれるような感覚もある一方で、見えない粘膜がべっとりと張り付いているようなジメジメとした感覚も感じられる。
まるで訳の分からない感覚に思わず倒れそうになるのを必死でこらえた。その時、わずかに後ろに下がってしまったのだが、その途端、おかしな感覚が消えた。
一歩前に出ると再びおかしな感覚に襲われるが・・・一歩下がると消えてしまう。
これは・・・これ以上前に進むなって言う事なのか?
・・・いや、違う。俺の後ろにある穴・・・この穴近くだとおかしな感覚が襲ってこない。穴から離れると、途端におかしな感覚に襲われる。
これは・・・穴に落ちるのは論外だが、穴から距離を取るのもダメだってことなのか?
まるで訳が分からない。ありとあらゆるものが入り混じっているようでありながら、なぜか穴が開いている・・・ここが俺の魂だっていうのか?
人は鏡を使って自分の顔を確認することができるが、自分の内面までは確認することはできない。ましてや魂の中なんてなおさらだ。
もしかして人間の魂って案外こんなものだったりするのか? でもアテナたちの魂は・・・まあ、あいつらはあいつらで特殊な事情を抱えていたから参考にはならないのかもしれないが。
とりあえず、このまま突っ立っていても始まらないか。
穴に落ちないように慎重に移動して何かないか探さないと・・・と思って足元を見ると、
「・・・ん?」
何かが落ちているのが見えた。
「これは・・・石板、か?」
それは石のような物でできた分厚い板のようなものだった。石板と言ったのは表面に何か文字のようなものが彫られているからだ。
ただ・・・石板の半分以上はえぐれるように半壊していて、文字の全文までは分からなかった。
辛うじて読める文字は・・・
「浄・・・?」
と、そこまでだった。
が、それだけでもこの石板に書かれていた文字が何だったのか予想できた。
「もしかしてこの石板には・・・【浄化】と彫られていたのか?」
(*・ω・)*_ _)ペコリ
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