アギラの足跡
戦艦ドックから居住ブロックへ、そして最後に動力ブロックの最深部・・・の一歩手前であるメンテナンスルームに俺たちは来ていた。
本来はこの先の動力部が終点なのだが、俺たちが【プラネットバスターキャノン】を無理やり切り離した影響もあって現在も修復中らしく、中に入れてもらえなかった。
なのでアギラの足跡をたどるのはここまでが限界ということになる。
「ここまでがアルクさんとそのアギラという方の密会旅の足跡という事ですね」
「もっとまともな言い方してくれないか?」
密会旅ってなんだよ。意味は間違っていないのかもしれないが、なんかやましい事があったみたいな言い方じゃないか。
「アルクはここにアギラを連れ込んでしけこんでいたわけね」
「人聞き悪すぎんだろ!?」
タチの悪い方向に言い直すんじゃない! それに俺をここに連れて来たのはアギラの方だ!
妙に二人からの風当たりが強いというか・・・二人ともイライラしているようだな。
多分、原因は・・・二人がアギラと面と向かって顔を突き合わせていないからっていうのと、そのアギラから一方的に嫌われているからだろうな。
訳も分からず悪意を向けられるというのは当然ながら気持ちの良い話ではない。もっと言えば彼女たち場合は、自分自身に悪意を向けられているという訳の分からない状況でもあるわけだ。
イラ立ち、というよりは不安、と言った方が良いのかもしれない。要するにアギラから聞いた話を二人はまだ上手く消化できていないわけだ。
なので俺が実際にアギラから話を聞いた場所を巡りながら、その時の状況をより詳しく話しているわけだな。
正直なことを言えば、アギラの足跡をたどる事自体はあまり意味がない事だと俺が思っている。何かしら、アギラの手がかりでも残っていたのなら話は別だが、あのアギラがそんなヘマするとは思えない。そもそもそんなものがあったのなら俺がとっくに見つけているはずだしな。
それでも、こうやって実際に現地にやってきて詳細を語ることは二人にとっても気休め程度にはなるんじゃないかと思う。
なにせ今回アギラから聞かされた内容が衝撃的過ぎた。
アテナ、アルマ、アニス、アギラ・・・その他にもあと3人の人格がいること。
その3人もこのゲーム内のどこかにいること。
そしてその3人も含めて7人の人格が揃わないと、彼女たちは現実で目覚めることは無いということ。
二人からすれば到底信じられない内容だろう。実際、情報源がアギラであることも踏まえると本当の事なのかどうか、大分怪しく感じられるはずだ。
俺はアギラとは別のルート・・・【天醒:魂の回廊】で見た光景からある程度は真実だろうと確信しているが・・・それは二人が信じる根拠にはなりえない。そもそもあの光景の事は話してないしな。
結局の所、二人は信じがたい事を信じるための根拠を探しているわけだ。・・・それがたとえ無駄足だわかっていたとしても、な。
「・・・アギラの話はお前たちの両親にもしたんだよな?」
「ええ・・・でも半信半疑みたい」
それは・・・そうか。普通は精神だけが肉体を飛び出してゲームの中で動き回っているなんて信じられないよな。そのせいで肉体が目覚めなくなっているのも・・・医学的根拠を示せとか言われても無理だし。
「それでも調査してみるとは言っていました。あとは信頼できる筋に相談してみるとも」
・・・信頼できる筋、ね。確かに第三者の意見も大事だとは思うが・・・正直、あんまり役に立たない気がするな。
というのも、この件には【固有能力】という得体のしれない力が関わっているのは確実だからだ。得たいのしれない力に対して普通の医者や研究者が太刀打ちできるとは思えない。
アギラの言葉の真偽を確かめるためにも、連中よりも早く残り3人を見つけたい所だ。
そして、その3人を俺たちの味方に引き込むことができればアニスやアギラを説得することができるかもしれない。
問題はアニスやアギラに協力している連中の黒幕だが・・・結局の所、黒幕の目的が分かっていないんだよなぁ。
話を聞いている感じ、黒幕には何か別の思惑があってアニスやアギラに協力・・・否、利用しているように思える。まあ、それはアニスやアギラからしても同じなんだろうが。
お互いに利用しあう関係というのは、いつ崩れてもおかしくない関係だという事でもある。それが崩れた時、果たして黒幕はどういった行動を取るのか・・・それが問題だ。
まあ、黒幕の事は置いておくにしても、彼女たち7人が全員が揃えば、現実でも目覚めることができて、少なくとも彼女たちに関する問題は解決できるはず。
「・・・でもアギラは言っていたんでしょう? 私たちのような多重人格者は現実よりも、このゲームの世界の方が自由に動き回れるって」
・・・確かにアギラは言っていた。現実の肉体が一つしかない以上、起きていられる精神は一人だけ。残り六人の精神は眠っている、と。つまり、彼女たち一人一人が起きていられる時間は他の人間と比べて7分の1しかないということになる。
だが、このゲームの世界では7人全員が自由に行動することができる。確かに現実よりもこのゲームの中にいた方が・・・と考える人格が出てきてもおかしくはない。というか残り3人はそういう考えで、行方をくらませたんだとう。
だが、アギラはこうも言っていた。一つの肉体に七つの精神が宿っている状態はとても不安定な状態であり、誰か一つでも精神が欠けてしまえば目覚めることができなくなる、と。
これだけはいただけない。おかげで彼女は長らくベッドの上で眠り続けているというじゃないか。今はまだ大丈夫なのかもしれないが、このままではいずれ・・・
「両親にも確認してみましたが、肉体の方は目覚めない事を除けばいたって健康だそうです。危険な兆候もなく、現状維持という意味では問題は無いそうです」
その点に関しては朗報と考えるべきか。少なくとも今日明日にでも残り3人を見つけなきゃいけない! というほど切羽詰まった状況には陥っていないわけだ。
最終手段として全プレイヤーや運営に彼女たちの事情をぶちまけて、ありったけの人員を総動員して大捜索するなんてことも考えたが・・・あんまり現実的ではない。
仮にそこまでやったとしても見つからない可能性が高いしな。それほどこのゲームの世界は広大で、しかも当の3人はアニスたちに見つからないようにするための特殊な方法で隠れている可能性が高い。普通の手段では見つけることはできないだろう。
上手く見つけ出すことができたとしても、こちらの言い分を聞いてくれるかは・・・まあ、実際に会ってみないとわからないが・・・まあ、確実にこじれるんだろうなぁ。
なんせ俺が知っている4人・・・アテナ、アルマ、アニス、アギラはみんなしてひねくれているからなぁ。残り3人も相当にひねくれているに違いない(確信)
「今、失礼なこと考えなかった?」
「気のせいだ」
失礼なことではなく真実な事実を考えていただけだからな。
「今、真実だから失礼には当たらないとか考えてませんでした?」
「・・・」
・・・黙秘権を行使する。
我は無心。我が心、空なり。色即是空、色即是空。
「まったく・・・」
すると何を思ったのか、アテナが何やら飲み物を取り出して飲み始めた、・・・喉でも乾いていたのか? と普通だったら思うのだろうが、あいにくゲームの中で喉が渇くことは無い。
「・・・キャッ!?」
と、そこでアテナが小さな悲鳴を上げて飲み物をこぼしてしまった。こぼれた飲み物がアテナの服を盛大に濡らしてしまう。
「もう、何をしているんですか、アテナ」
そんなアテナにアルマがタオルを取り出して拭いてあげている。
一見すると麗しき姉妹愛? のように見えるのだが・・・
「やん! くすぐったいってばー!」
「じっとしていてください」
・・・アルマさん。なんでアテナの胸の辺りばかり拭いているのですか? アテナの方もくすぐったそうに身をよじって、胸が・・・
「・・・」 (◉ω◉`) ジィー
無心を忘れ、凝視してしまう俺。
「・・・」(¬_¬)シラー
「・・・」(¬_¬)シラー
・・・Σ(゜ロ゜;)ハッ!?
二人が白けた顔で俺を見ている!!
しまったー!?
これがかの有名なハニートラップってやつだったのかー!?
(*・ω・)*_ _)ペコリ
作者のやる気とテンションとモチベーションを上げる為に
是非、評価とブックマークをポチっとお願いします。
m(_ _)m




