宇宙の謎
「着艦するぞ」
『了解なのだ』
カニロボを倒し終え、【機動戦艦シュテルンアーク】へ帰還するアークカイザーとアークミネルヴァ。
二機が出て来た例の床の上に降り立つと、そのまま床が下降していく。
格納庫に戻って来た所でそれぞれの機体から降り、二機も【ヒューマロイド】形態に戻る。
カイザーとミネルヴァが何やら話し込んでいるが、おそらくミネルヴァが先輩であるカイザーに色々聞いているんだろう。
こっちもこっちで二人の邪魔にならない程度にアテナに話しかける。
「それでアテナ。ミネルヴァを操縦した感想は?」
「そうね・・・操縦した感じはアークカイザーの時と同じだったわよ。少しだけ反応が鈍いかな? とは思ったけど」
それはおそらくカイザーとミネルヴァの経験の差だな。カイザーは俺たちの拙い操縦でも問題なく動けるようフォローしてくれている。そのフォローがミネルヴァにはできなかったために、反応が鈍く感じたんだろう。
これに関しては経験を積んでいくしかないな。
俺たちもレベルキャップが解放されたわけだし、ミネルヴァのレベルアップも兼ねてレベリングが必要だな。
と考えていたところにアヴァンからの艦内放送が入った。
『アルク、テストはもう十分なのだ。一旦、【火星衛星拠点ヴィヴェルグ】に戻ろうと思うのだ』
「わかった、そうしてくれ。俺たちもこれから操舵室に戻る」
『わかったのだ』
というわけで俺たちは操舵室へと向かうわけだが・・・来る時と違って歩いて行かないといけないんだよなぁ。エレベータなりエスカレータなり動く床なりがあると便利なんだけどなぁ、と思ってしまう俺は文明に毒され過ぎだろうか。
・・・
・・
・
「おかえりなさいなのです!」
「お疲れ様っす、皆さん!」
「お疲れ様です」
操舵室に戻ってくれた俺たちをアヴァン以外のメンバーが出迎えてくれる。特にミネルヴァが人気、というか気にかけてるメンバーが多いみたいだ。
うんうん、皆新入りの事を気にかけてくれる良い奴ばかりだな。
・・・ただ、ラグマリアがミネルヴァと話しているのを見ると、どうにも不安に思てしまうのは何故だろうか? ラグマリアの毒舌がミネルヴァに移らないことを祈る。
それはそれとして、俺は操縦席でこの艦を操舵していたアヴァンに話しかける。
「他に敵の反応は無いか?」
「レーダーには反応無しなのだ。このまま問題なく戻れると思うのだ」
「そうか」
俺は全面のモニターに映る【火星衛星拠点ヴィヴェルグ】、そして火星を見る。火星はともかく【火星衛星拠点ヴィヴェルグ】の方は随分と小さく見える。それはつまり、それだけの距離を離れていたという事なのだが・・・
「思ったより拠点から離れてたんだな。そんなにスピードを出していたつもりはなかったんだが・・・」
「宇宙は地上に比べて相対的に速度を認識できるような物や景色に乏しいのだ。実際にはこの戦艦は車などよりも何十倍もの速度で航行しているのだ。油断しているとあっという間に拠点を見失ってしまうのだ」
宇宙空間というのはひどく不安定な場所だ。地面が無い。天地が無い。重力もないから、平衡感覚そのものがなくなってしまう。
さっきのカニロボとの戦闘でもカイザーのフォローが無かったら、ひっくり返ったまま戦うというマヌケな状態になっていたかもしれない。それだけこの宇宙というのは自分の立ち位置というのを見失いやすい場所なのだ。
今はまだ火星や【火星衛星拠点ヴィヴェルグ】というわかりやすい目印があるからマシだが・・・もし、その目印を見失ってしまったら、レーダーでも探知できない距離まで航行してしまったら・・・宇宙の迷子確定だ。
おそらく【機甲界】の今後の展開としては地球を目指すことになると思うんだが、目印が無ければ目指しようがない。
「アヴァン、仮にこの【起動戦艦シュテルンアーク】で地球を目指そうと思ったら、どういう手順が必要になって来ると思う?」
「・・・ふむ・・・まずは何と言っても地球を探すことから始めなければならないと思うのだ」
ふむ、それはそうだ・・・ん? 探す?
「・・・それって【火星衛星拠点ヴィヴェルグ】から地球を観測できないってことか?」
「正解なのだ。ついでにこの戦艦の計器でも発見できないのだ」
この世界の科学技術からすれば星の観測も容易に行えるはずだ。それが見つからないということは・・・【アースヴェルト帝国】が何かしているのか? 【プラネットジェイルバリア】のようなものを使って隠れているとか・・・
「というか地球だけではないのだ。距離的に言えば地球より近くにあるはずの木星も見つからないのだ」
「なに?」
どういうことだ? 木星は地球に比べて遥かに巨大なはずだ。それが・・・見つからない?
まさか【アースヴェルト帝国】は木星にまで手を出しているのか? だが木星は太陽系の中でも最も巨大な惑星だ。連中の科学技術がいくらすごかろうとどうこうできるとは思えないんだが。
「我が確認している限り、太陽系にあるはずの惑星・・・水星、金星、土星、天王星、海王星、さらに冥王星も観測できないのだ。我々が知っている太陽系と共通しているのは太陽と火星くらいのものなのだ」
・・・うーむ、どういうことだ? 世界が違うから太陽系の構図も違うってことなのか?
そもそも太陽系の各惑星が無くなると、太陽系の引力のバランスが崩れて大変なことになると聞いたことがある。そのせいで地球が太陽に落ちたり、外宇宙に弾き飛ばされたりする可能性もあるとか・・・もしかしてこの世界はその大変なことが起こった後の世界だったりするとか?
「共通するのが太陽と火星だけってことは月も観測できないんだな?」
「その通りなのだ」
妙だな・・・確か【宇宙要塞ヴィヴェルグ】攻略前は火星上空に地球と月の映像が映し出されていたはずだ。少なくともこの世界でも地球と月は確実に存在していたはず。その地球と月はどこに消えてしまったんだ?
・・・そういえばなんで【宇宙要塞ヴィヴェルグ】は地球と月の映像を映し出していたのかはわかっていないんだったか。あれにも何か意味があったんだろうか?
「その辺りの情報をギルドマスターたちが精査しているはずなのだ。現状はその結果を待つしかないのだ」
やはりそうなるか。まあ、目的地不明じゃ他にどうしようもないわな。しばらくは【火星衛星拠点ヴィヴェルグ】付近の宙域で戦艦で遊ぶのがはやりそうだ。
おっと、そんな話をしている間に【火星衛星拠点ヴィヴェルグ】に近づいてきた。まあ、俺たちもしばらくはミネルヴァを含む全員のレベリングと戦艦の強化にいそしむことになるだろうし、【機甲界】の謎に迫るのはまた今度だな。
・・・
・・
・
戦艦用ドックに入港した俺たち。とりあえず確認しておきたいことはある程度やり終えていたので、もうこの拠点に用が無い奴は解散することになった。
と言っても、この後ミネルヴァ歓迎の宴を催す予定だから、またすぐに集合するんだけどな。単にアーニャの【料理】ができあがるまで空き時間があるから、それまで自由行動しようってだけの事だ。
なお、【起動戦艦シュテルンアーク】はアヴァンの【収納箱】に収納して持ち帰ってもらった。・・・巨大戦艦が出たり消えたりする光景は何とも摩訶不思議だったと付け加えておく。
ほとんどのメンバーがクランホームに戻る中、俺、アテナ、アルマの三人だけが【火星衛星拠点ヴィヴェルグ】に残っていた。今回に関してだけはアーテルたち【眷属】にも遠慮してもらっている。
それで何をしているのかというと・・・何のことは無い。
ただ単にアギラの足跡をたどっているだけだ。
(*・ω・)*_ _)ペコリ
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