名前は大事
カプセルの中の【クランメカロイド】だが・・・外から見た感じ、全体的なカラーは灰色に近い薄い黒だが所々にピンク色のラインと装飾が施されている。
顔は小顔、頭部から鋼鉄製の長い髪のような物が生えており、全体的に細身で特に手足は細長く、腰にはクビレがあり、胸とお尻がそれなりの大きさで・・・まあ、簡潔に言うと女性型ロボットだな。
「女性型の【クランメカロイド】も存在していたんだな・・・」
カイザーの容姿はそのまんまロボット・・・人間風に言えば大人の男性のようにごつい感じがするロボットだが、カプセルの中の【クランメカロイド】はどう見ても人間の女性を彷彿とさせるロボットだった。
「うむ、掲示板の方でもちょこちょこ報告が上がっているようなのだ。なんでも女性主体クランに女性型【クランメカロイド】が報酬として割り当てられているようなのだ。我々の知っている所だと・・・【アマゾネスプリンセス】が女性型【クランメカロイド】を得て話題になっているようなのだ」
確か【アマゾネスプリンセス】は女性だけのクランだったよな。なるほど、確かに女性オンリーのクランなら、【クランメカロイド】も女性型の方が親しみやすいだろう。
逆に男性だけのクランに女性型【クランメカロイド】が割り当てられていたら・・・悲惨だな。女性型ロボットのコクピットからむさいおっさんが降りてくるのを想像したら・・・なんか寒いしな。
そういえば俺たちの場合も【眷属】を除けば男性プレイヤーより、女性プレイヤーの方が人数的には多いんだよな。だから、2体目は女性型なのかもしれない。既にいるカイザーが男性型だからなのかもしれないが。
どちらにせよ俺たちにとっては好都合だな。【クランメカロイド】の搭乗人数は6人までだったから【アークガルド】メンバー全員がアークカイザーに乗り込むことができなかったわけだが、女性型【クランメカロイド】が増えたことで、男性陣がアークカイザー、女性陣がこの女性型【クランメカロイド】という風に割り当てることができる。
と、いうわけでさっそくこの女性型【クランメカロイド】を目覚めさせようとしているわけだが・・・ここで問題が発生したわけだ。
この女性型【クランメカロイド】の名前をどうするか、だ。
「名前・・・名前か。やっぱりここはアフ〇ダイAとかビュー〇スAとか?」
「アルク、確かに元祖女性型巨大ロボットと言えばそれらかもしれないのだ・・・が、丸パクリは良くないのだ」
「なら・・・レ〇アースとかヴィ〇キスとか天〇神とかノーベ〇ガンダ・・・」
「まず既存作品から離れるのだ」
さーせん。
まあ、同じ【クランメカロイド】のアークカイザーに倣って、アーククイーンとかアークエンプレスとかかな。ちょっと語呂が悪いけど。
なんて考えていたその時、女性陣から待ったの声がかかった。
「女性型のロボットの名前なら、やっぱり女性陣たちで名前を考えるべきじゃない?」
・・・ふむ、こういう時、大抵リーダーである俺が決めていたが・・・確かにアテナと言うことも一理ある。女性型【クランメカロイド】に搭乗するのは女性陣がほとんどになるだろうし、彼女たちに名前を決めてもらった方が今後の運用もスムーズにいくかも。
と思って彼女たちに命名を任せてみたら、アテナにアルマ、アーニャにアシュラ、さらにラグマリアまで加わってあーだこーだ名前の候補を出し始めた。結構、白熱しているが・・・そんなに名前決めたかったのか?
なお、その周囲でアーテルたちもギャーギャー騒いでいるが、名付けに参加したいのか、単なる野次馬なのかは不明である。
「・・・ナントイウカ、本機ノ時ヨリ真剣ソウ二見エマスネ」
と、アテナたちを見ながらカイザーが微妙な表情・・・鉄仮面なので実際の表情は分からないが・・・でそうつぶやいた。
たしかカイザーの時は皆から一任された俺の独断と偏見と即決で『アークカイザー』という名前に決めたんだよな。
確かにあの時は今みたいな議論はしなかったが・・・だからと言って適当に決めたわけじゃないぞ、カイザー。
「カイザー、人間のことわざの中にはな、『時は金なり』というものがあるんだ。議論するのは大切だが、時間をかけることが必ずしも良い結果を生むとは限らないんだぞ?」
いざという時に即決を求められる場合は多々ある。そんな時に呑気にあーだこーだ悩んでいると致命的な事態になりかねない。そういう事態に陥らないために事前に考えこんでおくことは非常に重要なわけだ。
実は『アークカイザー』という名前は、俺が次に【眷属】ができた時にどんな名前にしようかと事前に考えていた名前の一つだったりする。だからあの時、あの場でスムーズに命名することができたはわけだ。
決してその場で適当に思い浮かんだ名前ではないのだよ、うん。
そしてアテナたちの様子を見る限り、彼女たちも日頃から新しい仲間の名前の候補を考えていたようだ。ただ、【クランメカロイド】はクランメンバー全員の【眷属】という形になるから命名の権利はメンバー全員にある。
あの議論も彼女たちなりに新しい仲間を歓迎しようという心意気の現れなんだろう・・・と思う。単に我が強いだけかもしれんが。
「ナルホド・・・『男性ハ結果ヲ重視スル傾向ガアリ、女性ハ過程ヲ重視スル傾向ガアル』トイウヤツデスネ?」
「・・・なんでそんな言葉知ってるんだ?」
まーた誰かに偏った知識を教え込まれたのか?
「マスター達ノオ役ニ立ツタメ、常日頃カラネット等デ人間ニツイテ学ンデイマス。『思考ガ止マレバ進化モ止マル、思考シ続ケル限リ進化ハ止マラナイ』デスヨネ?」
「お前、普段どんなサイト見てんの?」
言ってることは正しいし、立派なんだが・・・カイザーって名言サイトの常連だったりするのだろうか? っていうかコイツ、本当にゲームAIか? 下手な人間より人間について学習意欲があって博識な気がするんだが。
「戦いの女神の名前からとって、ミネルヴァとかアテナイとかベローナとかどう?」
「女王という意味のレジーナやバシリッサというのはどうでしょう?」
「あのピンク色がかわいいのです! ローズちゃんとかローゼちゃんとかどうなのです?」
「ボクも戦いの女神が良いと思うっす! カーリーとかパールヴァティはどうっすか!?」
「ナアマ、ジャヒー、パリカー・・・」
・・・アイツらも結構博識だな・・・他はともかくラグマリアの奴、なんで女悪魔の名前つけようとしてんの? というかアンドロイドのくせに何故悪魔の名前なんて知ってんだ?
ラグマリアの提案は無視するにしても・・・うーん、候補がたくさんあるのは良い事だがアイツら全然絞り込もうとする気配が無いんだけど?
この調子じゃ名前が決まる頃にはログアウト時間になってるかも・・・なんなら明日にまでもつれ込むまでありそう。
俺はちらっと当人・・・当ロボット? のカプセルの中の女性型【クランメカロイド】に目を向ける。
ロボットゆえに表情が動くことは無い。無いのだが・・・なんとなくその表情からは、
「・・・名前は後で良いから、さっさとここから出してくれって言ってるような気がする」
何故かはわからんがそう訴えかけているような気がするのだ。
「『目ハ口ホドニ物ヲ言ウ』トイウヤツデスカ?」
・・・それってロボットにも適用されるのか?
ただ、何となく女性型【クランメカロイド】が置いてけぼりになってる気がするし・・・仕方がない。ここは俺の方から助け船を出すとしよう。
俺はパンパンと手を叩くと、
「はいはい! このままグダグダ言い合っていても決まらないだろうから、お前ら一人ずつ案を出せ。それを彼女に聞いてもらって彼女自身に決めてもらおう」
と宣言する。
アテナたちは若干不満げではあったものの、自分たちでも収拾が付かないと思ったのだろう。俺の提案を了承してくれた。
そんなわけで、それぞれが名前案を絞り込んだ所で、ようやくカプセルから彼女を解放する。
カプセルの側面に配置された『OPEN』と書かれたボタンをポチッと押すと・・・
プシューッ!!
と煙を吐きながらゆっくりとカプセルの扉が開いていく。
そして起動した女性型【クランメカロイド】が自らの足でカプセルの中から外へと足を踏み出した。
「・・・マスターガタ、オ初ニオ目ニカカリマス。本機ハ対【ガティアス】用決戦兵器、【クランメカロイド】デス。名称ハ未定ナノデ、本機ニ名前ヲ付ケルヨウオ願イ申シ上ゲマス」
とやけに丁寧なロボット口調で彼女が挨拶をしてきたのだが・・・彼女が言い終わると共にアテナたちが彼女たちに向かっていった。
そして寄ってたかって自分たちが考えていた名前を彼女にアピールし始める。
「????」
おうふ・・・混乱しておりますぜ、いまだ名もなき女性型【クランメカロイド】ちゃん。
優秀なAIを持つ【クランメカロイド】もこの状況は意味不明だよな。まあ女性陣は皆、君に夢中だってことで許してやってくれ。
あ、なんか彼女がこっち見てる。表情こそないが、その目は『助ケテクダサイ』と言っているように見える。例のことわざ、ロボットにも通用するんだな。
しかし、ここで俺が割って入ると余計にこじれそうな気がしないでもない・・・そんなわけで俺は彼女に向かってピシッと人差し指を一本立てる。
それは数字の1を意味している・・・要するに一番最初の提案を聞き入れれば良いんじゃないか? という彼女に向けた無言のメッセージである。
彼女の方でもそれを理解したのか、コクリと頷くと・・・
「ソ、ソレデハ本機ノ名称ハ・・・『ミネルヴァ』デオ願イシマス」
「やったーーー♪」
というわけで女性型【クランメカロイド】の名前はスタートダッシュが早かったアテナが提案した名前、【ミネルヴァ】に決定した。【メカロイド】形態の時は【アークミネルヴァ】ということで。
・・・やれやれである。
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