影の深淵
解散後、ウィキッドが訪れていたのは・・・【秘密結社DEATH】のクランホームだった。
そのホームの最奥・・・つまり、【秘密結社DEATH】のクランリーダーであり、ボスでもあるボレアスの部屋へ、ノックもせず我が物顔で足を踏み入れるウィキッド。
部屋の中央にはボスが座る玉座が用意されているのだが、その玉座の前に不気味な仮面を被り、黒ローブで全身を包んだ怪しげな人物・・・ボレアスが立ちすくんでいた。
そのボレアスだが・・・突如として入り込んできたウィキッドに何の反応も示さない。追いかけていた筈の敵が目の前に来てもなお、何するでもなく立ちすくんでいるのみだった。
「あひゃひゃひゃ! ご苦労さんだったねぇ、レ・ディ・ちゃ・ん!!」
そんなボレアスに対し、ウィキッドはそう言い放ちながらボレアスから仮面を黒ローブを奪い取った。
なすがまま、されるがままだったボレアスだが・・・仮面と黒ローブの下から現れたのは、かつてアルクとも戦った【秘密結社DEATH】の副リーダーにしてボレアスの右腕、レディという女性の姿だった。
ボレアスの衣装を奪われても、その姿をウィキッドに見られても、レディは虚ろな目をしたまま動かない。
何故、彼女がボレアスの姿をしていたのか? それは・・・
「あひゃひゃひゃ! 声質を自在に変化させる【宝具:如意奇面】に体型を自在に変化させる【宝具:如意外套】! これさえあれば誰でもボレアスには・や・が・わ・り!! あーひゃひゃひゃ!!」
姿形、そして声すらも変えることができる【宝具】と呼ばれる強力なアイテム。また、これらの【宝具】はステータスすらも偽造できる為、【看破】や【鑑定】などのスキルを使ってもその正体が見破られることは無い。
ウィキッドはこれらの【宝具】を使ってボレアスという虚構のリーダーを作り上げていたのだ。
「アルクっちもすっかりだ・ま・さ・れ・て・た・なぁ?」
アルクはボレアスの声を聴いて「ボレアスは男性プレイヤーだ」と判断していた。そして共にウィキッドと対立したことで、ボレアスは・・・引いては【秘密結社DEATH】は、ウィキッドに巻き込まれた一般プレイヤーたちだと、アルクは判断していた。
無論、それこそがウィキッドの狙いである。
元々、【秘密結社DEATH】はウィキッドが都合の良い手駒を集めるためのクランであった。
ウィキッドの力・・・【固有能力:模倣者】の力は強力ではあるものの、その効果は長時間持続はしない。【模倣擬植】によってプレイヤーを操ることはできても、いつまでも操り続けることはできないのだ。
だからこそウィキッドは表と裏、その両方で使えるプレイヤーを集めるためのクランを用意した。表向きにはボレアスとしてメンバーに命令し、裏の用件となればウィキッドの力で操り人形に変えてしまう。
【秘密結社DEATH】はそのためのクランだったのだ。
【秘密結社DEATH】のメンバーが問題児ばかりなのもその為であり、何かしら悪事が露呈してもそのプレイヤー自身が起こした問題であって、まさかウィキッドが裏で糸を引いているとは誰も思わないだろう。
実際、ウィキッドはこういった裏工作に余念がない。それは用心深いというのもあるが・・・それ以上にウィキッドは他人を騙し、良い様に弄ぶのが好きなのだ。
ウィキッドは【宝具:如意外套】をまとって全身を覆い隠し、【宝具:如意奇面】を被ることで今度は自身がボレアスとなった。
そして玉座に座ると、レディにかけれられた【模倣擬植】を解除する。
「・・・え? ここは・・・?」
突如として意識が戻ったレディが混乱気味に周囲をキョロキョロと見まわす。
「・・・どうしたレディ。疲れているのか?」
そんなレディに対し、ボレアスとなったウィキッドは何事もなかったかのようにボレアスの声で話しかける。
「ボス!・・・いえ、少しぼーっとしていました」
「・・・そうか。では今後の予定だが・・・」
アルクを騙し、レディを騙し、【秘密結社DEATH】のメンバーを騙して、ウィキッドは今日も活動を続けている。
それはとある目的のために・・・
さらにその頃、今回の緊急クエストに関わらなかったカオスとゼルクだが・・・
ドガッ!!!
「グッ!?」
「・・・」
対峙する二人の男。
しかし、一方は無傷でありながら、もう一方はかなり痛めつけられたのかボロボロである。
「・・・でぃぃあああああ!!」
ボロボロの男・・・ゼルクはそれでも異形と化した右腕でもう一方の男・・・カオスに殴り掛かるが・・・
「・・・フン」
一瞬、カオスの姿が消えたかと思うと、次の瞬間には彼の拳がゼルクの腹にめり込んでいた。
「ガハッ!?」
吹っ飛ばされるゼルク。
そして、そんな彼を冷静に冷徹に見るカオス。
その差はあまりにも歴然であり・・・まるで大人と子供のようである。
「・・・ここまで・・・手も足も出ないとはな・・・貴様、何者だ?」
ゼルクは圧倒的な力を持つカオスに対し、そう問いかけた。
ゼルクは、アルクから奪い取った【固有能力:天醒者】の力をフルに使っている。実際、その力を使ってアルクを追い込んだこともある。
にもかかわらず・・・カオス相手には手も足も出ないのだ。ゼルクには目の前の男がどれだけの力を秘めているのか・・・全く想像もできなかった。
「・・・誰でもない、何者でもない。何も定まっていないからこそ俺の強さが存在する」
「?」
カオスの答えを聞いても・・・ゼルクは理解できないという風に首をかしげるだけだった。
「・・・わからない・・・か。そこで思考を止めてしまうのがお前の限界だな。少なくともアルクならば相手が何だろうと、どんな力を持っていようと思考を止めることはなかったぞ」
カオスもまたアルクと戦った者の一人である。だからこそ彼はアルクの事をある程度理解していた。
彼は知っている。彼が繰り出した数々の技と策を、アルクは観察し、推測し、対応策を練って攻略していった事を。
それは事前準備を怠らず、戦闘時においても諦めず、思考停止に陥らず、常に勝ち筋を模索していたからに他ならない。
ただ持てる力をぶつけることだけが戦いではない。
戦いに勝利する思考を続けるのが大事だとカオスは言っているのだ。
「・・・でぃぃやああああ!!!」
そのことをゼルクは分かっているのかいないのか、再度カオスに挑み始めた。ただ少し、先ほどまでよりも獰猛さを前面に押し出しているのは・・・アルクの名前を出したからだろう。
「・・・やれやれ、だな」
そんなゼルクの相手をため息をつきながら続けるカオス。
しかし、その表情はどこか嬉しげにも見える。
おそらく彼は期待しているのだ。
アルクとゼルク。
そのどちらかが・・・自身の全力を引き出してくれることを。
(*・ω・)*_ _)ペコリ
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