影の力
===視点切替===>???
アギラは隠しエリアにある自分たちの居城へと帰還していた。
そこには既にボスである少年とアニス、そしてウィキッドが揃っていた。
「や、お疲れ! どうやら上手くいったみたいだね!!」
「・・・」
そう言ってきたボスの少年に対し、アギラは無言のまま回収してきた【禁断の箱】を渡した。
「そうそう、これこれ。これでまた世界の解析が一層はかどるよ!」
【禁断の箱】を受け取った少年は、その見た目の通り子供のように喜んでいる。少年にとってはそれほど重要な物のようだ。
「・・・約束」
そんな少年を見ながらアギラはぼそりと小声でそう言った。その声は少年にも届いていたようだ。
「うん? ああ、ちゃんと約束は守るよ。君たちの他、残り3人の捜索は今も最優先で行っているからね」
アギラとアニスが少年に協力している理由・・・それは彼女たち7人が揃うために行方不明の3人を探す手助けをしてもらうために他ならない。
少年が各世界の管理AIを掌握している以上、どこかの世界にいると思われる3人を探し当てる可能性が一番高いのはこの少年であるからだ。
ただし、可能性が高いというだけで絶対ではない。
「それはそうとこの三日間、僕たちに連絡がなかったのは何故だい?」
「・・・」
目的の物が手に入ったとはいえ、少年はそこが引っ掛かっていた。アギラが消息不明になったからこそ少年はウィキッドを緊急クエストに派遣し、そこでようやく彼女を見つけたわけなのだが・・・少年からすれば気が気ではなかったのであろう。
特に自分の知らない所でアルクと接触していたのであれば、「自分を裏切ったのではないか?」と少年が勘ぐってしまうのも無理のない話であった。
「・・・確実に作戦を遂行する為。今回の作戦は緊急クエストのトリガーにもなりうるデリケートなもの。運営が我々の通信を傍受する危険性を考慮し、連絡を絶っていた」
「・・・」
アギラの主張を聞いた少年は、「一応、理にかなってはいるな」と思いつつ、それが理由ではないことに勘付いていた。とはいえ理にかなった説明をされた以上、それが嘘だという証拠もなくこれ以上言及することができないことも少年は理解していた。
少年とアギラたちを結ぶものはあくまで利害関係。それを壊されて困るのは両者ともに同じだが、より困るのは少年の方なのだ。
故に・・・
「・・・まあ、仕事を果たしてくれたから不問にはするけど、そういうことは事前に教えておいてね?」
「・・・了解」
少年からは簡単な注意で終わらせるしかなかった。
この場を離れることができない少年からすれば、安易に手駒を減らす選択はできなかったのだ。
もっとも、アギラにしてもそれを理解した上で行動しているのだろうと思うと少年は心の中でため息をつくしかなかった。
「話を戻して、3人の捜索の方だけど・・・これだけ捜索しても見つからないとなると、やっぱり特殊な力を使って隠れている可能性が高いよねぇ」
特殊な力・・・つまり、【固有能力】の事である。彼らは以前からそのことを懸念していた。【固有能力】を使っているのならゲームシステムの監視を逃れられる可能性も高い。
現にアギラは機甲界総合管理AI【ロボキナ】の監視からも逃れ、彼ら自身もその力を使って運営から身を隠しているのだから。
つまり、管理AIの目から逃れる力を持つ相手に対しては・・・それに対抗できる力を持つ者が必要になる。
そこで彼らが目を付けたのが・・・アルクだった。
「ジェスター・・・いや、もうウィキッドって名乗ったんだっけ? ウィキッド君、アルク君のコピーはできたのかい?」
姿こそジェスターというプレイヤーの姿ではあるが、中身は異なる。その中身であるウィキッドが少年の問いに答える。
「あひゃひゃひゃ! ざーんねん! で・き・な・かっ・た・ぜ? なーんでかは俺っちにもわっかんねぇけどな! 俺っちの力、【模倣者】で奴をコピーしようとしてもは・じ・か・れ・ち・まっ・た・ぜ!!」
少年はウィキッドを派遣したのはアギラを発見するためだったが、それだけが目的ではなかったのだ。なにせ目的地にはアルクが居る可能性が高かったからだ。
そこで少年はウィキッドにもう一つ、仕事を頼んでいたのだ。
ウィキッドはただ悪戯にアルクにちょっかいをかけていたわけではなった。その真の目的は・・・アルクの力、【天醒者】の力をコピーすることにあったのだ。ただし、その目的が果たされることは無かったようだが。
「んんー・・・そうか。ゼルク君に力の大半を奪われた今ならコピーもできるかもって思ってたけど・・・ままならないものだね」
困った様子の少年に対し、これまで黙っていたアニスが問いかける。
「そこまで彼に固執する理由があるんですの?」
アルクの力が強力なのは理解できるが、今回のようにリスクを負ってまで追い求める必要があるのか。それがアニスの疑問だった。
「そうだねぇ・・・彼の力、【天醒者】は隠れている人を見つける力もあるみたいだし、なにより君の封印を打ち破ることもできた。そんな力があるのなら、残り3人がどんな力で隠れていようと、それを破って見つけ出すことができそうじゃない?」
そこまで言われてアニスもようやく納得した。確かに【天醒者】の力は今だ未知数だが、だからこそ期待できるという部分も大きい。それは彼女も認める事実である。
「ゼルク君も【天醒者】の力を持っているけど、彼の力は戦闘系に偏っているみたいだし・・・あんまり僕の言う事を聞いてくれないんだよねぇ」
ゼルクは今、カオスによって教育中である・・・が、あまり上手くは行っていないようだ。最初こそ本能のままに暴れるだけだったゼルクだが、アルクとの闘いを経てそこそこの知性を得た・・・かに思えたが、その体を構成する【ガティアス】の影響か、暴走する傾向があるのは収まっていないのだ。
「あひゃひゃひゃ! な・る・ほ・ど・ねぇ! まあ、コピーできねぇんなら今度こそ本気で叩き潰して良・い・ん・だ・よ・な?」
ウィキッドは嗜虐的な笑みを浮かべている。それはまさに獲物を狙う獣の顔であった。
「・・・確かに君の本気・・・【模倣擬神】を使えばアルク君だろうと瞬殺できるだろうけど・・・あれは使っちゃ駄目だって言っただろう? 被害が大きすぎて管理AIでもカバーできないんだから」
ウィキッドは力を抑えて戦っていた。それはアルクの力をコピーするためでもあったのだが、そもそも少年に本気の力を出すことを禁止されていたのだ。
しかし、少年は気づいていた・・・ウィキッドは「本気にならないとアルクを倒せない」と認めたということを。気づいていながらもあえて釘を刺したのだ。
今、アルクを倒されても困ると。
「あひゃひゃひゃ! ざ・ん・ね・ん・だ・ぜ!!」
ウィキッドもそれはわかっているのか、言葉とは裏腹に終始笑っていた。獰猛な獣の笑みを。
「さて、それじゃあ解散だ。僕は【禁断の箱】の解析で忙しくなるし、また次の作戦を考えなきゃいけないからね。君たちもいつも通りに過ごしてくれて構わないよ」
少年の言葉に彼らはその場から離れていった。
(*・ω・)*_ _)ペコリ
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