幻想世界の夢の中で
「ここは一体・・・?」
大量のロボットやアンドロイドたち・・・まず【機械兵】ではないことは明らかだ。
武装があるようには見えないし、特にロボットたちの形状が・・・ドラム缶のようなずんぐりむっくりしたロボットとか、足がタンクで腕が何本もあるようなおかしな形のロボットとか・・・人型ではなく、かといって戦闘型とも言い難いロボットが多数だった。
・・・あ、あのロボット、飲み物の絵が描かれた箱に手足がくっついてる。・・・自動販売機型ロボットか?
一方で、カプセルの中に眠っているアンドロイドの方はというと・・・こちらは人型ではあるものの、なぜかメイド服や執事服などのいわゆる制服を着ている者たちばかりだった。どうみても戦闘型ではない・・・まあ、世の中には戦うメイドや執事はいるかもしれないが。
アンドロイドは、その顔はほぼ人間のそれに近く、カプセルの中で眠っている状況は一見するとコールドスリープで眠りについている人間を彷彿とさせる光景だ。
『・・・ここはかつて、この要塞がコロニーだったころに人間に従事していたロボットやアンドロイドたちのメンテナンスルーム・・・今となっては墓場のようになっていますね。』
人間に従事していた・・・ね。要するにここに居るのは、かつてのここの住人たちの生活を支えるサポートロボット、サポートアンドロイドだってことか。
だが、人間が居ない現状、果たすべき役割を失った彼らが保管されているのがこの場所・・・確かにこのまま彼らを再起動する者が現れなかったら、ここは彼らにとっての墓場と言える場所だったのかもしれない。
そんな彼らをアギラは・・・切なそうに見ていた。
確かに気持ちはわからんでもない。かつて人々の生活を支えていたはずのロボットたちのなれの果て・・・それが要塞の片隅で保管されているというのは、どうにも物悲しさを感じてしまう。
『・・・解析完了。ロボットたちは表面上の経年劣化は激しいですが、パーツ交換すれば再起動可能なようです。アンドロイドたちも、生体部品を維持するために維持装置の中に入っていますが・・・問題なく再稼働できそうです』
・・・ごめん、俺の勘違いだったようだ。単にアギラは自身のセンサーでロボットたちを【解析】してただけだったみたいだ(汗)。
アギラの奴・・・感傷に浸っているのかと思ったが、思った以上に冷静だったようだ。それにしても・・・
「なんでまた吹き出しに戻ってんだよ、アギラ。さっきみたいに普通に喋れよ」
この部屋に入る前は意味深な言葉を口に出してただろうが。
『・・・はて、なんのことでしょう? <(・ε・;)>~♪』
・・・コイツ、誤魔化した・・・だと?
どうやらアギラがさっき声に出したつぶやきは思わず漏らしてしまった・・・本音? 独り言? だったようだ。
・・・てっきり好感度が急上昇したのかと思ったのに(笑)。
「やれやれ・・・とにかく、ここにいるロボットやアンドロイドたちは人間の味方で、再起動可能ってことだよな?」
見た感じ、【ガティアス】に取り憑かれている様子も無いし、人間の味方なら再起動させた方が良いか? まあ、戦闘用じゃないらしいから戦力にならないかもしれないが。
『今すぐは無理です。ロボットたちは先ほども言いましたように経年劣化でかなりガタが来ていて修理が必要ですし、アンドロイドたちも維持装置の解除後にメンテナンスを行う必要があります。・・・貴方に修理やメンテナンスができるのですか?』
・・・できませんね、はい。
くそう・・・こんな時こそ、この場にアヴァンが居たらな。
『・・・仮に彼らを再起動させたとして、それが彼らにとっての幸せかどうかはわかりませんけどね。仕えるべき人間は既になく、仮に人間が戻ってきたとしても、またいつか人間の都合で眠りにつかされるかもしれない。それよりはこうしてここで夢の中にいた方が彼らにとっても幸せかもしれません』
・・・ロボットやアンドロイドって夢を見るのか?
まあ、それはともかく・・・今度こそ、アギラの彼らを見る目に感情が乗っている。それは寂しさでもあり、切なさでもあり・・・憤りでもあるようにも思える。
うーん・・・どうにもアギラはロールプレイにハマり過ぎているというか・・・ゲームの中での出来事をまるで本当にあった出来事のように考えているように思える。
ロールプレイとはそういうものだと言われればそれまでなのだが・・・アギラのそれはどうにも違う気がする。
彼らに自分たちの境遇を重ねているのかとも思ったが・・・うーん・・・それとも違う気がする。
アギラたちにとって、このゲームの中でしか自由に動けないのなら・・・このゲームの世界こそ、彼女たちにとっても現実なのかもしれない。
だからこそ、俺とは考えた方や・・・今目の前にある光景に対する見方が違うのかもしれない。
俺はゲームの中での出来事は全て虚構で意味のない物・・・だとは思っていない。
人は親や周囲の環境から多大な影響を受けるように、ゲーム、マンガ、アニメ、小説、テレビなどなどからも影響を受ける。テレビのヒーローの影響を受けて正義感の強い大人になることは悪い事でもなければ意味のない事でもないはずだ。
ただし、メリハリは必要だ。
現実はゲームやアニメのように上手くいかないことも多々あるわけで、悪者をやっつければ全てが上手くいくなんてことは無いわけだ。中には悪い影響を受けて現実をゲーム感覚で生きてる人間だっているかもしれないしな。
要は、どんな影響を受けても大事なものは見失っては駄目だということだ。
「幸か不幸かを決めるのは彼ら自身だ。他人が勝手に決めて良いもんじゃない。まあ、彼らが人間の都合で振り回されているのは間違いないだろうが・・・だからこそ夢を見るかどうかを決める権利は彼らにある。勝手に彼らの権利を奪うのは・・・それこそお前の嫌いな人間の傲慢だぞ?」
『!?』
アギラが何やら驚いた表情をしている。コイツ、普段はそれこそロボットみたいに無表情だが、突発的な事態には表情を取り戻すみたいだな。いや、普段から自分の感情を抑え込んでいるのか?
どちらにせよ・・・もっと自然にふるまえば良いのにな。
『・・・そうですね。では彼らの権利を守る為に先を急ぎましょうか。クエスト残り時間も25分を切った所ですしね』
「げっ・・・マジか!?」
クエストに全然関係ない話ばかりしていた気がするが、かといって俺たちは決してのんべんだらりと歩いてきたわけではなかったのだが・・・思った以上に時間が経過していたようだ。
『そう心配せずとも、このブロックを抜ければ・・・そう、そこの扉を抜ければ動力部です』
と、アギラが指さす先に扉が・・・いよいよ目的地にご到着らしい。
『さすがにここからは、いかに私でも一人では厳しいので貴方たちにも戦ってもらいますよ』
「望む所だ!」
このままアギラに任せっぱなしでクエストクリアしてしまったら、俺の方が寄生虫呼ばわりされかねないからな!
・・・ん? 貴方・・・たち?
『もう既に【眷属】を呼べるようになっているでしょう? 今の内に【召喚】しておいた方が良いかと思いますが』
「・・・なんだ、気づいていたのか」
実はウィキッドとの闘いが終わった辺りでアーテルたちからメッセージが届いていたんだよな。神々からの試練を終えてクランホームに戻ってるって。
本当はすぐにでも【召喚】したかったのだが、状況が状況なだけに下手に呼び出すことができず・・・万が一、アギラと戦いになった場合に切り札になるとも思って自重していたのだ。
しかし、ここまで来ては是非も無し。
このクエストをクリアすると決めた以上、出し惜しみは無しだ。
「【眷属召喚】! 来い、アーテル! アウル! カイザー!!」
「クルー!!」
「だうっ!!」
「オ呼ビデスカ?」
三日ぶりの【眷属】たちとの再会・・・思わず涙まで出てしまいそうだ。なんならぎゅーっと抱きしめたいまである。
『・・・貴方も十分すぎるくらい、このゲームの影響を受けていますね』
・・・ほっといてくれ。
(*・ω・)*_ _)ペコリ
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