現実と幻想
アギラと話を続けながらも俺たちは先に進んでいた。
ここまで順調すぎるくらい順調に来ているわけだが、ぶっちゃけ俺は何もしてないんだよなぁ。襲ってくる敵は全てアギラが瞬殺してしまうし。しかも俺と話をしながら・・・正確には吹き出しを出しながらだが。
要するにアギラはカンストレベルの敵相手でも余裕だということだ。・・・正直、俺たちと差がありすぎると思うが・・・なぜここまでの差があるのかはわからない。
その点も含めてアギラには聞きたいことがたくさんあるが・・・どうだろうな。今の所、アギラは俺が聞いたことに素直に答えている・・・ように見えるが、実際、彼女の言っていることが全て本当だという保証はない。
その証拠に・・・
「・・・で? その三人の名前や特徴は?」
『・・・それは私にもわかりません。何せ、その三人がゲームログイン中、私は肉体の方で眠っている状態だったので、詳しくは何もわからないのです。アギラという名前も私が勝手に名乗っているだけで、三人がゲーム内でなんと名乗っているかは不明です。まあ、顔を見ればわかるはずですよ。何せ同じ顔ですから』
「・・・なら、その三人の・・・失踪?の原因に心当たりは? 現実世界で何か嫌なことでもあったのか?」
『・・・それも不明です。少なくとも私やアニス、そしてアテナやアルマの記憶を検索した限りでは、原因となりうるような情報はありませんでした。・・・それを知るためというのも三人を探す理由の一つです』
・・・もしかしてあの時、アギラがアテナやアルマを担いでいたのはそれを調べるためか? コイツら、人の記憶までのぞき込めるのか? まあ、記憶の封印までできるコイツらには今更かもしれないが。
それにしても・・・うーん、それっぽく答えているが・・・何となく誤魔化されている気がする。まあ、言ってしまえばただの勘なんだが・・・アテナやアルマが俺の料理をつまみ食いして誤魔化した時と同じ雰囲気がアギラが発している・・・気がする。
少なくとも三人の情報が何もわからないというのは嘘だな。名前ならおそらくゲームのログイン記録を閲覧すればわかるはずだし、このゲームでは外見も変更可能。その三人が同じ顔だと断言はできないはずだ。
「・・・ならお前が【禁断の箱】を回収に来たのはその三人を探すことに関係しているのか?」
『いいえ、先ほども言いましたが【禁断の箱】を欲しがっているのは私たちのボスです。私がこの箱を回収に来たのはボスに頼まれたからです。・・・三人を探す見返りとして』
なるほどな・・・何となく見えてきた。
おそらくアギラはその三人の行方を掴むことを第一優先にしているが・・・できれば自分たちの方が先に見つけたいと考えているようだ。
そしてアギラは・・・俺と、そのボスとやらを天秤にかけている。
こいつらのボスはおそらく運営側の人間・・・現実的に考えれば行方不明の三人を見つけるのに最適な協力者だ。
しかし、現実にはまだ見つかっていない。アニスやアギラが、アテナやアルマがゲームを開始するより前から捜索しているとなると、数か月経ってもなお、手掛かりさえ見つかっていないということになる。
だから俺に目を付けた。・・・正確には俺の力に、か。
そう考えれば一応、筋が通る。
その三人を自分たちで見つけたいのは・・・さっき言っていた人間否定派に取り込みたいからか? おそらくアテナやアルマより先に見つけて自分たちの味方に取り込みたいといった所だろう。
とはいえ、なによりも優先すべきはその三人を見つけること。だからこそ俺に情報を流しているわけだ。
だが、すべての情報を俺に流してこない辺り、三人を見つけたいというのは本当のようだが、早急に・・・なりふり構わずにというわけでもないようだ。
どうもこの辺りに温度差を感じる。その温度差こそ、アギラたちがまだ何かを隠していると感じる根拠でもあるわけだ。
『・・・何を考えているのか、おおよそ見当がつきますが・・・そろそろ次の区画です』
アギラに言われて気が付いたが、俺たちはいつの間にか次の区画への扉の前まで来ていたようだ。俺とした事が扉を前にするまで気が付かなったとは・・・油断しすぎだな。いくらアギラが強くても俺が気を抜いて良い理由にはならないはずなのに・・・しっかりしろ、俺。
「・・・現実の世界に生きること・・・幻想の世界で存在すること・・・そこに違いはあるのでしょうかね」
「なに?」
アギラは次の区画への扉に手をかけながらそんなことをつぶやいた。
吹き出しではなく、彼女の口から、彼女の声で、そんなことが語られた。
「現実の世界に戻ってもほとんど眠ったまま・・・できるのは夢を見るくらいです。であるならば、仮初の、作り物の世界であったとしても・・・自分の意志で自由に活動できた方が・・・幸せだと思いませんか?」
アギラは無表情な顔で・・・感情の宿らない瞳で俺を見据えながら・・・そんな事を聞いてきた。
・・・ここまでの彼女たちの話を総合すると、彼女は七人の精神が一つの肉体に宿った状況であり、その内の一人が肉体を動かしている間、他の六人は眠っているような状態で、お互いの存在を認識すらしていなかったらしい。
もし、このゲームが存在しなかったらどうなっていただろうか?
彼女たち七人の内、一人だけしか起きていられないということは・・・一人一人の時間、何かを見て、何かを聞いて、何かの匂いを嗅ぎ、何かの味を楽しみ、何かに触れて過ごす時間が他人より7分の1しかないということになる。
それは・・・言い換えれば人より生きていられる時間が7分の1しかないということにならないだろうか?
そしてもし、七人が全員で起きていられる方法があったとしたら・・・それが現実のそれを全く変わりの無いものだとしたら・・・果たして現実の肉体に固執する必要があるだろうか?
現実での生と幻想の中の自由、どちらか幸せかと彼女は問いかけているのだ。
その問いに・・・俺は答えられない。答えが見つからない。
その問いに答えるには・・・俺はあまりにも無知だった。
しかし、アギラは気にした様子も無く話を続ける。
「・・・もっとも、この先にいる者たちはこの幻想の世界の中でなお夢を見続けているのですから、必ずしも、この幻想の世界が自由な世界とは言えないのかもしれませんが」
そう言ってアギラは扉を開け、中に入っていった。
俺も慌ててその後に続いていく。
部屋の中にあったのは・・・もう長らく稼働した形跡の無い大量のロボットたち。
そしてカプセルのような物に収容されているアンドロイドたちの姿だった。
(*・ω・)*_ _)ペコリ
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