目覚める方法
アテナ、アルマ、アニス、アギラ以外にあと三人・・・確かに予想はしていた。
だが・・・全員が揃わないと現実で目覚めないだと?
『既に貴方も聞き及んでいるでしょうが・・・私たちは元々、一人の人間。しかし、一つの肉体に七つの精神が宿っている、とても不安定な状態です。・・・七つの精神の内、誰か一つの精神が欠けてしまえば目覚めることができなくなるくらいに』
・・・七人の精神が肉体から別々に離れてしまっているために、肉体と精神のバランスが崩れてしまっているから肉体の方が目覚めることができないということか。
『現実の私は肉体が一つしかないためか、七人の精神の内、起きていられる精神は一人だけでした。残り六人は眠ったような状態であり、お互いの存在を認識することはありませんでした』
それはアテナやアルマから聞いた事があるな。最初はお互いの存在は認識していなかったが、周囲の人間や医者からの説明で別人格が存在することを知り・・・このゲームを始めることで初めてお互いに出会うことができた、と。
『そう・・・始まりは、このゲームのテスターとして初めてログインした時のことです、その時は七人の内、起きていた一人だけがプレイヤーとしてゲームの中に入りましたが・・・問題はその一人がログインしている間に、別人格が肉体の方で目覚めたことです』
このゲームは精神をフルダイブさせるVRゲーム。本来であれば精神がゲームにログインしている間に別人格が肉体の方で目覚めるなんて想定していなかっただろうな。
『当時のゲーム開発者はとても驚いたそうですよ。同時に多重人格者・・・つまり、精神が複数ある人間に対しての問題が発覚しました。・・・問題というよりは収穫と言った方が良いかもしれません』
「収穫だと?」
『ええ。多重人格者がゲームにログインすれば、それぞれの精神が独立して行動できる・・・さらにログインした精神をゲームに残したまま、別の精神が肉体の方で活動できる・・・この意味が分かりますか?』
・・・確か多重人格の治療の一環として、それぞれの人格とじっくり会話して、カウンセリングを行いながら人格の統合を行うという物があると聞いた事がある。それぞれののゲームの中で独立して行動ができるのなら、それぞれの人格から話を聞くのも容易になる。
このゲームにはそういったメリットもあるのだろうが、今の話だと・・・別人格をゲームの中に隔離することができるということになるな。
例えば多重人格の内、主人格のみを肉体に残し、副人格をゲーム内に隔離することができれば・・・ある意味で多重人格の治療ができたと言えるのではないだろうか?
・・・そのやり方が正しいかどうかは、ともかく。
『とはいえ、ゲームの中に取り残された人格も、現実の肉体以上に自由に動けることを考えると悪い話ではないのかもしれません。実際、ゲーム開発者も、そして私たちもそう考えていたのですが・・・』
「・・・肉体の方に異常がでた、と?」
アギラが神妙にうなずく。
肉体と精神の関係については、素人の俺がどうこう言えるほどの知識はないが、深い結びつきがあることは間違いないだおる。
そして、元々は一つの精神が分裂して多重人格になるのだとしたら・・・別人格を隔離するというのは、文字通り精神が欠けることを意味しているのではないだろうか。
『七人の精神の内、一人・・・また一人とこのゲームの中に留まるようになっていくのに比例して、私の肉体が眠りにつく時間が長くなっていき・・・三人目の精神が肉体から抜け出た時点で、とうとう肉体が目覚めることはなくなりました』
精神が肉体に影響を与えるというのは良く聞く話だが・・・そこまでの影響が。
『その三人の精神が肉体に戻れば問題はなかったのですが・・・その三人は行方をくらませました。それもゲームの開発者も管理AIも行方をたどれない方法で』
「・・・ゲームの開発者はともかく管理AIも? そんなことがあり得るのか?」
『本来ならありえません。・・・ですがありえない力を持っているのなら話は別です』
・・・つまり、その三人は【固有能力】を持っているってことか? その力を使ってこのゲームのどこかに隠れている、と?
だからアギラたちは未だに見つけられていないわけか・・・ん? 待てよ、それじゃあ・・・
「・・・もしかしてお前たちが俺にちょっかいかけてくるのは、俺の【固有能力】の力を使って、その三人を見つけるためなのか?」
『・・・ボスや他の人たちはともかく、私とアニスはそうですね』
なるほど・・・何故俺が狙われたのか、これでようやく合点がいった。
合点がいったが・・・納得はできない。
「それなら何故素直に協力を求めない? アテナとアルマは俺の仲間だ・・・同一人格であるお前やアニスが協力を申し出てくれば俺は喜んで協力したぞ」
わざわざ敵対するような方法を取る必要はなかったはずだ。最初から正直に事情を話してくれていれば・・・こんな面倒な状況にはならなかったのに。
『・・・貴方なら、そうでしょうね。今なら私もそう思いますが・・・しかし、それは結果論です。そもそも私とアニスはアテナやアルマとは考え方が異なりますので』
結果論と言われればそうかもしれないが・・・考え方が異なるだと?
『簡単に言えば・・・私とアニスが人間否定派、アテナとアルマが人間容認派と言った所ですか』
・・・派閥争い? こいつら同一人物なのにそれぞれの精神で対立しているってことなのか? しかもアギラとアニスが人間否定派って・・・一体、お前らに何があったんだよ。
『そんなわけで私たちとアテナ、アルマとは相容れないわけで、当然、二人の仲間である貴方も信じることはできなかったわけです。とはいえ、貴方の力が私たちの求めるものであったのなら・・・諸々を考えた末にあの強硬策に出たというわけです』
それが最初に俺を襲撃してきた事件につながるわけか。
・・・うーん・・・初対面の人間を信じられないというのは俺にも分かるが、だからと言っていきなり力ずくとは・・・なんでそう極端に走るかなぁ。
そして、今この場で俺にその話をするということは・・・
「それを俺に話すということは・・・俺にもその行方不明の三人を探せと言うことか?」
『・・・ (;・з・) ~♪』
それで誤魔化してるつもりか。まあ、俺も聞いてしまった以上は放っておくつもりは無いが・・・果たしてアギラは俺を利用するつもりなのか、それともある程度信頼して話してくれたのか・・・どっちなんだろうな。
ところで一つ気になってるんだが・・・
「その見つかっていない三人はどっち派なんだ?」
その三人も人間否定派なら・・・仮に見つけたとしても素直にこっちの言い分は聞いてくれないだろう。
『・・・三人は・・・』
アギラは・・・無表情ながらも苦々しい顔でそこまで言った後・・・フルフルと首を横に振り始めた。
え? なにそのリアクション?
その三人はアギラが明言を避けるくらい、なにか問題があんの?
(*・ω・)*_ _)ペコリ
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