眠り姫の真実
俺とアギラが話している間・・・まあ、アギラは吹き出しを出しているだけなのだが・・・その間も俺とアギラは移動を続け、襲ってくる敵に関してはアギラがちぎっては投げ、ちぎっては投げしている。
・・・本当に【機械兵】の手やら足やら首やらを引きちぎってるんだよなぁ・・・しかも無表情で。いくら相手が【機械兵】、つまり生物ではないとはいえ、少し同情する。
そんな状況でも普通に会話が成立しているんだから、アギラにとってはこんな状況でも余裕らしい。
『個人の能力を制限しないというのは・・・まあ、ある意味では当然の事です。例えばプレイヤーが持っている知識、リアルで培った武道経験、ゲームを有利に進めるテクニックなどなど・・・リアルでも持っている能力に関してはゲームにログインしたからと言って制限できるものではありません』
ふむ・・・まあ、それはそうだろうな。
ゲーム内で得たものならともかくゲーム外・・・他のゲームや日常生活で培った知識や経験は本人の努力によって獲得したもので、それらを駆使してゲーム内で有利に動けたとしても、不正に手に入れた物ではないわけだし文句を言うやつはいないだろう。
そもそもそういった個人的な知識や経験に制限なんてできないんじゃないか?
ゲーム側は全てのプレイヤーに対して平等に対応する必要があるが、プレイヤー側に差があるのはゲーム側の問題ではなくプレイヤー側の問題だ。
本当の意味でプレイヤーのスタート地点を合わせるとなると・・・優秀なプレイヤーにハンデを負わせる必要がある。
・・・クレームの嵐になりそうだな。それこそ不平等な措置とも取れるし、少なくとも現実的ではない。
ゲーム側でどうにもできない以上、知識や経験の有無によってプレイヤー間に差が出来てしまうのは仕方のない事だと考えるのが普通だろう。
そういった普通の事は確かにルールブックに記載されるまでもない前提ルールなのかもしれないが・・・
「つまり、そういう名目で【固有能力】の使用もこのゲームルールから逸脱した行為ではない・・・ということになってるわけか」
・・・【固有能力】はあくまで個人の能力でしかないと言いたいのか?
例えば、リアルに超能力を持っている人間がいたとしよう。そんな人間がこのゲームにログインした場合、ゲームの中でもその超能力を使うことができたとしても、ゲーム側としては「それは個人の能力だから」で問題はないと判断するわけだ。
要するに不正なチート行為はNGだが、プレイヤーの自力によるリアルチートはOKだという事か・・・果たして【固有能力】がリアルチートの範疇に入っているのかは疑問だが。
まあ、普通に考えて「プレイヤーの持つ特殊能力はゲーム内でも使用可」なんて規定がルールブックに載ってるはずはないわな。
そもそも「プレイヤーの持つ特殊能力」というもの自体、あり得ないものなんだし。
『ありえない事態に対して運営の人間では対応できないため、この世界を管理するAIが対応しているのです。だからこそ貴方たちが【固有能力】を使用しても問題にならないのですよ』
・・・うーむ・・・そう言われるとなぁ・・・納得はできないが、一理あると思ってしまう。
俺自身、【固有能力】に何度も助けられたわけだし。それに【固有能力】が違反だなんだと騒がれたら、俺まで処罰の対象になるかもしれないしな。
今の所、俺の所に何の沙汰も来ていないってことは、このゲームの管理AIは俺の【固有能力】は俺個人の能力で何も問題はないと判断しているわけだ。
・・・それで良いのかとツッコミたくなるが。
しかし、そうなると運営側も【固有能力】の力を把握していない可能性が高いな。このゲームの運用に対して運営と管理AIがどういう立ち位置で、どういう働きをしているのかは一プレイヤーでしかない俺にはわからないが・・・どうもそれぞれで複雑な動きがあるようだ。
俺の予想としてはアギラたちの黒幕に運営側の人間が居るから、こいつらが問題を起こしてももみ消されているのかと思っていたのだが・・・ことはそう単純ではなく、根本的な根はもっと深い所にあるようだ。
その深く根を張っているのが運営ではなく管理AIで、その管理AIに対してアギラたちの黒幕が深く関わっているのだとしたら・・・言っちゃ悪いが運営の人間はあまり当てにならないのかもしれないな。
仮に俺がアギラたちやその黒幕について通報したとしても、管理AIが問題無しと判断したら運営もそう判断して、事態の解決には至らない可能性が高い。
要するに自分たちのことは自分たちの力で解決するしかないってわけだ。
奴らがそうであるように、俺もまた俺の力を使った所で咎められることは無いってことだからな。・・・とはいえ、俺の場合は俺の力をゼルクから取り返す必要があるわけだが。
・・・そういえば個人の能力が制限されないということは・・・
「お前たちのような多重人格者が普通にゲームプレイできているのもそういう理由か?」
『・・・そうなりますね』
個人の能力というと語弊があるが、多重人格者であるアギラたちがこのゲームの中でそれぞれ別プレイヤーとして行動しているのは十分にイレギュラーな事態のはずだ。
もし俺が運営側の人間だったら、イレギュラーな存在であるアギラたちに監視を付けるくらいしたはずだ。
しかし、アギラたちの動きに対して運営が何も言っていないことを考えると、そういった監視が付いて無いか、付いていたとても管理AIが問題無しと判断して、運営側もそれを鵜呑みにしている可能性がある。
だからこそ、アテナたちはもちろんのこと、アニスもアギラも問題なくこのゲームをプレイできているわけだ。
ただ、アギラたちの現実の肉体は今だ眠ったままの状態であり、彼女たちの両親が彼女たちの為に奔走していると聞いている。現実的な問題も抱えている彼女たちについて、運営と管理AIは一体、どうとらえているのか・・・それが問題だな。
『そういえば、貴方は私たち四人以外にも人格があるような発言をしていましたね。何故知っているのです? アテナやアルマが話したとは思えませんが・・・』
ああ・・・丁度、シークレットフェーズに突入したせいでうやむやになった話のことか。そっちから話を振ってくれるのは、こちらとしてもありがたいのだが・・・何故知っているのか、か。
根拠となったのは・・・以前、普通にログインしてきたはずなのにいつの間にか謎の空間に居たことがあったからだ。そこには七つの席が用意されていて、その内アテナ、アルマ、アニス、アギラの四人が座っていたのだが、残り三つの席は空白だった。
その時のイメージが強烈に残っており、残り三つの席・・・つまり、俺がまだ出会っていない人格が三人いるんじゃないかと思ったわけだ。
・・・アギラの反応を見る限り、あの不可思議現象はアギラたちが見せた幻覚とかそういうわけじゃなさそうだ。
となるとあれは、俺の【固有能力】が見せた予知か何かなのか、それとも・・・まったく別の第三者が見せたものなのか・・・
いずれにせよ、あの不可思議現象のことはアギラには黙っていた方がよさそうだ。アギラたちに対して、何らかのアドバンテージになる可能性もあるからな。
と言うわけで俺は適当言って誤魔化すことにした。
「・・・勘、だな。カマかけの意味もあったんだが・・・本当にお前たち四人以外にも他の人格があるのか?」
俺の言葉を聞いてアギラは何かを考えこんだ後・・・俺の予想通りの答えを口にした。
『・・・その通りです。私たち四人以外にあと三人・・・全部で七人の人格が存在しています』
やはり7人なのか・・・ならやっぱりあの不可思議現象にも何かの意味があるってことだな。警告か警鐘か・・・その三人が何かやったっていう可能性もあるな。
うーん・・・謎が一つ解けた割に元々の謎が余計に深まった気がするが・・・気になっていた事が一つわかったのは大きな収穫だな。
・・・だが・・・次にアギラが発した言葉は俺の予想を超えたものだった。
『実を言うと、私とアニスが探しているのは・・・残り3人の行方なのですよ。私たち7人、全員が揃わない限り現実で目覚めることができないので』
「・・・なん・・・だと?」
(*・ω・)*_ _)ペコリ
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