禁断の箱
『一応言っておきますが、貴方がたの手柄を横取りしたつもりはありませんよ? この【禁断の箱】はクエスト報酬ではなく、ヴィヴェルグが指令室に隠し持っていた、ただのオブジェクトですので』
クエスト報酬じゃない? つまり司令官のヴィヴェルグを倒したからって手に入るアイテムではないということか。
『まあ、貴方の仲間たちがヴィヴェルグを破壊してくれたおかげで指令室の道が開けて、私の左腕が【禁断の箱】を回収することができたのですが、ね』
やっぱり火事場泥棒じゃねーか!?
『どちらにせよ、この箱はアイテムですらないオブジェクト・・・一般プレイヤーからすれば何の使い道の無い無用の長物ですよ』
・・・つまり仮に俺たちが回収しても何の役にも立たないと言いたいのか? しかし・・・
「ならなんでそんな物をお前は欲しがっている? わざわざ探しに来るっていうことはそれだけの価値がある物ってことなんじゃないのか?」
いくら何でもただのオブジェクトをこいつらが欲しがるはずがない。しかもアギラにわざわざ回収させにくるくらいだからな。
どうもアギラの言葉は、その箱から俺の興味を反らす言い訳のように聞こえてしまう。
『必要としているのは私ではなく私たちのボスですが、ね』
ボス・・・こいつらのボスか・・・そいつは一体何を考えているんだ? 運営側の人間かと思っていたが、そうでもないのか? 運営側の人間がわざわざゲーム内アイテムを回収するために動くのも妙な話だしな。
「・・・お前たちのボスっていうのは何者だ」
結局、そこが分からないんだよなぁ。そいつが何者で、なんでアニスやアギラ、カオスやウィキッドまで従っているのかが分からない。
『(*^×^)』
俺の問いかけに対し、アギラは腕でバツ印を作り、吹き出しでも口をとざす顔文字を・・・まあ、聞いて答えてくれるとは思ってなかったが、やはり何も言うつもりは無いようだ。
とはいえ、このまま黙ってアギラを見逃すことはできないし、なんとか情報を聞き出したい。
「ならお前らのボスはその箱をどう使うつもりだ? 結局、その箱はなんなんだ?」
それが俺たちにとってマイナスになる物なら、このままアギラに持っていかれるわけにはいかない。力ずくでも取り上げる必要が出てくる。・・・できるかどうかは別だが。
『・・・言ったでしょう? この箱は・・・悪意が詰まっていると。その悪意に引き寄せられる存在を貴方は知っているでしょう?』
「・・・【ガティアス】か」
つまり、その箱には【ガティアス】を引き寄せる性質があるっていうことか? とんだ危険物じゃないか。
『そう・・・悪意を集めることで【ガティアス】をおびき寄せる餌になるわけですね・・・代償として持ち主が悪意の影響を受けて性格や性質その他が歪んでいくようですが』
・・・ものすごーく危険な物じゃないか! 確かに【ガティアス】の被害を最小限に抑えるという意味では効率的で論理的な方法なのかもしれないが・・・なんというか持ち主を生贄にしているようで何とも嫌な物だな。
俺なら絶対に持ちたくない・・・いやいやいや、だからってアギラに持っていかれて良い物でもないだろう。
要するに、こいつらのボスは【ガティアス】を何らかの形で利用するつもりなのか・・・もしかしたらゼクスの強化に使用する可能性もあるな。
もしそうなら絶対に持っていかれるわけにはいかないな。
「・・・俺がその箱を寄こせと言ったらどうする?」
『こんな物を貰ってどうするつもりですか? 言っておきますが、この箱を壊すのは逆効果ですよ?』
ぐっ・・・先読みされた。そういえばこの箱は悪意が詰まっていると言っていたな。つまり、重要なのは中身であって箱自体ではないわけだ。
となると箱を壊しても中身の悪意が飛び出てくるだけ・・・被害をもたらすだけってわけか。
・・・なんて性質の悪いパンドラの箱なんだ。
『まあ、【禁断の箱】はこれ一個ではありませんので、この箱を貴方に渡したとしてもボスは他の箱を探すだけだと思いますよ』
なにっ!? こんな危険物が他にもあるだと!?
『ちなみに数は全部で108個です』
「そんなにっ!? 煩悩の数かよ!!」
なんでそんなにたくさんあるんだよ!?
いや、理由は分かるよ? 悪意を一か所に集めすぎるのは危険だからある程度分割しているってことだろ? でもなんで煩悩の数なんだよ・・・論理的な理由が思いつかねーよ。悪意と煩悩を結び付けた悪ふざけだろ。
「・・・一応聞くが、お前たちはその108個の【禁断の箱】を全部集めるつもりなのか?」
『そうですね・・・実はすべて集めるとどんな願いでも叶うという・・・』
「嘘を付くな!!」
ドラ〇ンボールかよ! コイツ、どさくさに紛れてトンデモねー嘘つきやがったぞ!
悪意を集めて叶える願いってなんだよ。それって結局【ガティアス】に願うってことなんじゃないのか? ってことは叶うのは世界の破滅とかそういった類だろうが。
・・・ああ、そうか。
「お前たちはそれを使って世界の破滅でも願うのか?」
どうも話を聞く限り、【禁断の箱】を集めて【機甲界】を破滅させようとしているようにしか思えん。
『・・・先ほども言いましたが、これを欲しがっているのは私たちのボスです。私は興味ありません。・・・私が探しているものは別にありますし、ね』
・・・お前らはそんなボスに従っていて良いのか? 一緒に破滅していく未来しか見えないんだが?
それにしてもアギラの探しもの・・・か。
「それは・・・お前ら四人以外の人格たちのことか?」
俺の言葉を聞いた瞬間・・・アギラが初めてその表情を崩した。
これまでの無表情とは打って変わって・・・そこにあったのは純粋な驚きの表情だった。
良いぞ・・・上手い具合に虚を突いて動揺を誘うことができた。今のアギラからなら色々情報を引き出せるかもしれない!
と俺が(口で)攻勢に出ようとしたその時。
『緊急警報! 緊急警報! 要塞動力部に【ガティアス】が取り憑きました!!【プラネットバスターキャノン】停止できません』
・・・要塞に響き渡るアナウンス。
「・・・」
『・・・これも【禁断の箱】を持ち出した影響かもしれませんね』
・・・よりにもよってこのタイミングでかよ・・・なんてこったい。
(*・ω・)*_ _)ペコリ
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