そして修羅場に戻る
アギラがいた場所はハンゾウ(偽)改め、ウィキッドによって破壊されつくした居住ブロックの端っこも端っこ。居住ブロックの壁と瓦礫の山に囲まれた、まさに死角となる場所にいた。
まあ、真上からは丸見えなんだけどな。現に俺は真上の上空から・・・ただし、アギラに気づかれないよう可能な限り高度をとって見張っている状態だ。幸い今の俺の種族、【ヴェアヴォルフ】は視力も聴力も高いので離れた場所からでもアギラ一人を見張るのはたやすい。
当のアギラだが・・・身を隠したまま動かない。何をやってるんだ? ・・・何かを待っている?
そんなアギラの元へ、何かが飛んできた。
あれは・・・腕? 左腕だけがまるでロケットパ〇チのごとく、ひとりでに飛んできたぞ。
デザインから見て、どうやらアギラの左腕みたいだな。そう言えばアギラは不測の事態で左腕を欠如したと言っていたが、具体的にどこで、どういう原因でというのは聞いていなかったな。
実は左腕を失ったのはこの居住ブロックで、腕が見つかったから回収していたのか? だが、なんでこそここそ隠れながらする必要があるんだ?
アギラはというと飛んできた左腕を、残っていた右手でガシッと掴むと、ガシャッと自身の体にはめ込んだ。
五体満足な状態に戻ったアギラは調子を確認するかのように左腕をグルグルと回し始めた。
・・・妙だな。不測の事態で・・・例えば戦闘や事故で左腕を失ったというのなら、あんな風に修理も何もせずに体にくっついてすぐに動くようになるものだろうか?
あれではまるで・・・最初から着脱可能な左腕を外していただけみたいじゃないか。
アギラの奴・・・嘘を付いていたのか? 不測の事態でもなんでもなく、最初から計画的に左腕を切り離していたとしたら・・・ん?
なんだ? アギラの左手の手のひらに何か・・・黒い小さな箱のような物が乗っかってる?
・・・なるほどな。アギラの目的はあの箱みたいな物の回収だったわけか。こそこそ隠れていたのは・・・その回収物を俺に見せないためか。
そうと分かったら・・・是が非でも確認しておかなきゃいけないな。
俺を騙してまで回収しようとしていたんだ。相当に重要で、価値のある物のはずだ。
俺は静かに、速やかに空中を駆け抜け、アギラの背後に降り立つ。
同時に【グランディスマグナム】を取り出し、アギラの後頭部に突き付ける。
『・・・』
「・・・さて、どういうことか説明してもらおうか?」
===回想終了===>現在
とまあ、こんな感じで現在の修羅場へと至るわけだ。
返事次第では、今度はアギラとの戦闘が勃発してしまうわけなのだが・・・ここまで来たら俺も腹を括るしかないだろう。
さあ、どう出るアギラ?
銃口を突き付けられたアギラはというと俺に背を向けたまま・・・
・・・グリンッと首を180度後ろに回してきた。
「おわぁ!?」
『 Σ(゜ロ゜」)」 』
唐突なホラー展開に思わず声を荒げる俺、そして俺の声に驚くアギラ。いや、お前まで驚くのはおかしいんじゃないか?
『・・・彼を撃退するとはさすがですね( *˙ω˙*)و』
「いや、普通にしゃべり始める前にその首を元に戻せよ!?」
首が180度後ろ回ったまま話ができるほど俺の肝は据わってないぞ! あとアギラがびっくりした吹き出しを出した割に顔が無表情なせいで余計に怖い。
『ふぅ、やれやれ・・・しょうがないですねぇ ┐( ̄ヘ ̄)┌』
といかにも仕方がないといった吹き出しを出しながら、体をこちらに向けつつ首も元の位置に戻すアギラ。・・・やれやれはこっちのセリフだっつーの。
・・・はッ!? いかんいかん、いつの間にかアギラのペースに巻き込まれてしまっていた。こんな調子じゃあ、アギラから情報は引き出せないぞ。
落ち着け・・・冷静になるんだ俺!
『【固有能力:天醒者】の効果により【天醒:制情回避】が発動しました』
・・・うん、落ち着いた。俺が望んだ方向とは若干違うが、とりあえず落ち着いた。必要以上に落ち着いた。
「アギラ・・・、お前はウィキッドの【妨害粉】のせいで動けないんじゃなかったのかよ」
『私は【ラグナマキナ】。状態異常に対して、体内のナノマシンが即座に解析、回復を図ります。あの程度の妨害で、私を長時間停止させることはできません』
ナノマシンだと・・・つまりコイツもカイザーと同じ自己修復機能があるってわけか。
・・・って回復したんなら加勢しろよ・・・と思ったが、よく考えたらコイツも敵側の人間だった。加勢するなら俺ではなくウィキッドのほうになるか。
まあ、アギラはウィキッドを嫌っているようだったし、刀で刺されたわけだから、わざと動けないフリをしていたんだろうけどな。
アギラがウィキッドの加勢に入ったらさすがにまずかったから、俺としても動けないフリをしていてもらってむしろ助かったと考えるべきか。
ん? 即座に・・・回復?
「・・・アギラ、お前結局いつから動けるようになっていたんだ?」
『・・・貴方にお姫様抱っこされる直前からですね(・ω・)ゞ』
・・・この野郎・・・動けたんだったら自分で動けよ!
『いかに神討ちの【ラグナマキナ】といえど、傷を負ったら動きが鈍るくらいはしますよ』
なんか、言い訳くさいな・・・ん?
「神討ち?」
『人間狩りの【機械兵】、機械殺しの【ヴァルマキナ】、そして神討ちの【ラグナマキナ】。すべては歪んでしまったこの世界が生み出してしまった危険物です。・・・知らなかったのですか?』
知らねーよ! だからなんでアギラがそんなことを知っているんだよ! 一体、この世界に何があったんだよ!!
・・・いや、それよりもなによりも・・・
「・・・アギラ、お前・・・意味深なことを言って誤魔化そうとしてないか?」
『 (;・з・) ~♪』
・・・残念ながら冷静沈着な今の俺は騙されないぞ。
「その黒い箱はなんだ?」
俺は【グランディスマグナム】の銃口をアギラの眉間にグリグリ押し付けながら問い詰める。
アギラは誤魔化し切れないと思ったのか、観念した様子で話し始めた。
『この箱は・・・この世界の秘密と悪意を凝縮させた禁断のブラックボックス。この世界のあちこちにばらまかれた・・・【禁断の箱】です』
「・・・【禁断の箱】・・・そんな物がこの要塞にあったのか」
『私はこれが要塞にあるという情報を得て潜入しましたが、結局は見つかりませんでした。どうやらこの要塞の司令官であるヴィヴェルグが隠し持っていたようです。まあ、【禁断の箱】を持っていたせいでヴィヴェルグは本来の性格や思考が大分歪められていたようですが』
ヴィヴェルグ・・・さっきアヴァンからメッセージで連絡してきた、この要塞のボスか。人間憎しのヤバい奴だったらしいが・・・まさかこの箱のせいだったというのか?
『貴方の仲間たちがヴィヴェルグを倒したことにより、この【禁断の箱】を回収することができました。ヴィヴェルグ本人もこの【禁断の箱】から解放されて喜んでいることでしょう』
・・・つまり、こいつは俺と行動を共にすると同時にアヴァンたちの方も見張っていたっていうのか? その左腕で?
そしてどさくさに紛れてその箱を回収してきた、と?
とんだ火事場泥棒だな。
(*・ω・)*_ _)ペコリ
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