ウィキッド
アギラからの情報によると奴の力・・・【固有能力:模倣者】の力は無尽蔵に使えるというものではなく、使えば使うだけ力を消耗するという話だった。この辺りは普通にBPやMPを消費するスキルや【魔法】と同じ感じのようだ。
しかし、それだと奴がハットリハンゾウや【神刀カゲウミ】、【大天使ラグエル】や【神器ラグイル】の力を連続して出してきたことへの理由が付かない。
奴が最初にヤマトタケルや【神剣トツカ】の力を使った後は回復のために俺たちを追いかけては来なかったはずなのに、だ。
ここで俺の予想だが、奴の【模倣擬人】にはコピーする対象を細かく設定できるのではないだろうか?
例えば姿はジェスターをコピーしているが、スキルがDEXなどのステータスはヤマトタケルをコピーしていた、とかだ。これができれば、ヤマトタケル並みの実力を持つジェスターになれるということになる。
おそらくだが、奴が最初にコピーしたヤマトタケルは姿やステータス、性格なども含めて本当に完全コピーしていたのだろう。そのため驚異的な力を発揮していたが、その分消耗も激しかった。
しかし、次にハットリハンゾウをコピーして俺たちの前に現れた時は・・・見た目とスキル、一部のステータスのみに限定してコピーしていたのではないだろうか? そうすることで力の消耗を抑えていたのではないだろうか?
俺はヤマトタケルの強烈な印象と奴自身が言った完全コピーという言葉を鵜呑みにして、ハットリハンゾウについても完全コピーして現れたのだと勘違いしていたのだ。
【大天使ラグエル】の場合もそうだ。先ほど奴はラグエルさんの姿をしたまま、ジェスターの口調に戻っていた。これはラグエルさんの性格まではコピーせず、演技をしていたということに他ならない。
つまり、奴はコピーと演技を併用して戦っていたのだ。
アギラが俺に伝えたかった、奴の嘘というのはこのことだろう。俺もすっかり騙されていた。
だが、奴がここまで小細工をしているということは、逆に言えば今の奴はそれだけ力を消耗し、強力なNPCの完全コピーができないということでもある。
そこに勝機があると俺は考えた。
奴がジェスターの姿でボレアスと戦っていた時、奴はおそらく姿はジェスターのままだが技量や防御力はほかのNPCのそれをコピーしていたのだと思われる。だからボレアスとも互角以上に渡り合えたし、俺のレーザー攻撃に耐えることもできた。
では【大天使ラグエル】の時はどうか。奴はラグエルさんの姿で決着をつけるつもりでいた。【神器ラグイル】を使い、俺やボレアスを近づかせずに倒すつもりだったのだろう。
それが奴の狙いだったとして、果たして奴はそんな状態で防御力を上げるようなコピーを行うだろうか? 力の余裕があったのならそうしたかもしれないが、今の奴は連続して力を使用した為に、そんな余力は残っていないはずだ。
つまり、奴は姿こそ【大天使ラグエル】だが防御力は一般並みに低く、一瞬の隙をついて強烈な一撃を食らわせることができれば、倒すことができるのではないかと、そう考えて俺は一撃に全てを懸けた。
結果は・・・どう判断すべきか。
これは成功したと見るべきなのか、しくじったと見るべきなのか。
「・・・てっきり、今度こそお前の本当の姿が拝めると思ったんだがな」
奴が【固有能力:模倣者】の力を使い切れば、後に残るのは奴の本来の姿・・・かと思ったのが、今の奴は人の形をした真っ黒い影そのものだ。
とてもじゃないが、これが奴の本来の姿だとは到底思えない。
・・・もしくは奴が最初から人間でも何でもない異質な何かだという可能性もあるが。
「あひゃひゃ・・・ザー・・・残念・・・だったな・・・ザー・・・あいにく・・・ザー・・・まだHPは・・・残ってるぜ・・・ザー・・・かろうじて・・・ザー・・・だがな」
・・・これは奴が発した声か? ノイズ交じりで、男なのか女なのか判断できない不気味な声なんだが・・・これが奴の本来の声だって言うのか?
不気味ではあるが俺のやるべきことは変わらない。
「死にきれないって言うんなら、トドメを刺してやろうか?」
コイツの言葉は鵜呑みにすることはできない。HPがかろうじて残っているというのも演技の可能性がある。
ただ同時にこのまま攻撃を仕掛けても良いのかという不安もある。今の奴はどこからどう見ても異常だ。その異常な姿もまた、奴の罠という可能性もあるからだ。
・・・これだから、この手のタイプと戦うのは嫌なんだよなぁ。真正面から戦わず、だまし討ちばかりしてくるから、こちらの方が疑心暗鬼に陥ってしまう。
「あひゃ・・・ザー・・・いんや・・・ザー・・・ここまで・・・されたからには・・・ザー・・・素直に・・・負けを認めて・・・ザー・・・退散・・・させて・・・ザー・・・もらうぜ」
・・・嘘くせぇ。この手のタイプは降参した振りをして平気で後ろから人を刺すタイプだ。
ただ、退散しようというのは本当らしく、わすかに居住ブロックの出口へと向かおうとしているみたいだが・・・
「・・・逃がすか」
そこにボレアスが回り込む。まあ、大人しく逃がすわけないよな。
それに俺にはどうしてもコイツに聞きたいことがある。
「・・・結局、お前は本当は誰なんだ?」
コイツは今までいろんな人間に化けて、あるいはコピーしてきたようだが、いまだに俺はコイツの本当の姿も・・・名前すらも知らない。
「あひゃひゃ・・・俺は・・・ザー・・・誰でも・・・ない・・・ザー・・・本当なんて・・・必要・・・ない・・・ザー・・・のさ・・・少なくとも・・・ザー・・・このゲーム・・・の中・・・ザー・・・ではな」
・・・答える気はないってわけか。まあ、予想はしていたが。
「だが・・・ザー・・・名前が・・・無いと・・・ザー・・・不便・・・だな・・・ザー・・・ここまで俺を・・・追い込んだ・・・ザー・・・ご褒美に・・・教えて・・・ザー・・・やる」
「・・・ほう」
どういう風の吹き回しだ? ・・・まあ、本当のことを教える気があるのかは疑問だが・・・いかんな。本当にコイツ相手には疑心暗鬼になってきてる。
「俺の・・・名前は・・・ザー・・・ウィキッドだ」
『【固有能力:模倣者】の効果により【模倣擬物】が発動しました』
ドォォォォン!!
「「!?」」
奴が名乗った瞬間・・・奴が爆発した。
これは・・・最後の力を振り絞って爆弾か何かをコピーしたな?
まさか自爆・・・いや、違うな。
視界の端に、爆煙に紛れながら逃走する奴の姿が映った。
「・・・逃がさんと言ったはずだ!」
「あ、おい!」
それを追いかけていくボレアス。
俺が止める間もなく二人は居住ブロックから去ってしまった。
俺も追いかけるべきか悩んだが・・・止めておいた。その前に俺にはやるべきことがあるからな。
それにしてもウィキッド・・・ね。それが奴の名前なのか。確か意地が悪い、悪意があるっていう意味だったか。奴にピッタリすぎて何とも言えないな・・・まあ、本当に奴の名前なのかもわからないけどな。
さてと、俺も本題に目を向けるとするか。
俺が目を向けた先、そこには俺の【グランディスチェイサー】があった。ただし、乗っているべき人物が乗っていなかったが。
「・・・」
俺が無言で集中すると・・・
『【固有能力:天醒者】の効果により【天醒:隠匿突破】が発動しました』
アギラの居場所を見つけることができた。
(*・ω・)*_ _)ペコリ
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