ヴェアヴォルフ
すべての【兵器】を仕舞い、【グランディスアーマー】も外す。
代わりに取り出す武器は・・・【霊刀ムラクモ】一本のみ。現状はこれだけで十分だ。
さらに【エナジーフェザーマント】も外してしまう。
ただ、空中にいる今の俺が【エナジーフェザーマント】を外してしまうと落下真っ逆さまだ。
そこで【空歩】スキルを使う。【空歩】は空中に見えない足場を作り、駆けることができるようになるスキルだ。
今の俺の種族・・・【ヴェアヴォルフ】の力を存分に発揮することができる。
【ヴェアヴォルフ】とはドイツ語で狼男を意味している。
しかし、このゲームの中で狼男というと【ワーウルフ】という種族になる。
なので【ヴェアヴォルフ】はいわゆる一般的な狼男・・・狼男が一般的かは不明だが・・・とは異なる容姿をしている。
【ワーウルフ】の方は頭部が狼そのもので、全身に狼の体毛が生え、手足もまた狼のそれと同じ・・・狼の特徴を持った人、というよりは、人型になった狼といった方が正しいような容姿となっている。
対して【ヴェアヴォルフ】だが、こちらの方が狼の特徴を持った人と言った方が良いだろう。基本的な姿は人のままなのだが、頭から狼の耳が生え、腰の辺りには狼の尻尾が生えている。見た目上の特徴はそれぐらいで一見すると【犬獣人】に似ているのだが、【ヴェアヴォルフ】は狼の力を受け継いだより戦闘に特化した種族となっている。
その最大の特徴が脚力だ。強靭なる脚の力は爆発的な走力を生み出す・・・要するに【ヴェアヴォルフ】は地を走り抜ける術に長けたスピード特化タイプの種族と言える。
現状、俺が【転身】することができる種族の中で【ヴェアヴォルフ】が一番スピードがある種族だ。
ただし、【ヴェアヴォルフ】は脚力によるスピード特化の半面、腕力・・・つまりパワーが落ちるのだが、俺にはそれを補強する術もあるので問題は無い。
「【羅刹天の豪力】!」
【天凱十二将】のスキルを使うことでパワーアップ。これで火力不足を解消できるはずだ。
さらに俺は【霊刀ムラクモ】を鞘に納めたまま、【居合い】の構えを取る。
刀と言えば斬る、突くなどの攻撃手段があるが、刀による最大の攻撃と言えばこれだろう。納刀状態から一気に解き放つ。ため込んだ力を瞬時に開放する【居合い】はラグエル(偽)の一瞬の隙を捉え、攻撃するのに最適と言えるだろう。
ラグエル(偽)のラッパの演奏が・・・止まった。
その瞬間、ボレアスが攻撃を仕掛ける。・・・が、やはり遠い。
俺やボレアスとラグエル(偽)は数百m近く距離ができてしまった。近づくことができない以上、この距離で攻撃するしかないのだが、やはり数秒の遅れができてしまう。
対してラグエル(偽)の息継ぎは1秒にも満たない。
これでは奴に攻撃が届く前に反撃にあってしまうわけだ。
しかし、今度のボレアスの攻撃はラグエル(偽)を直接狙ったものじゃない。
ボレアスは例の黒ローブを使って、ラグエル(偽)の視界から俺の姿をうまく遮ってくれている。ラグエル(偽)からは俺が何をしているのかは見えていないだろう。
それもまた、奴の油断を誘う隙となる。
さあ、準備は整った。あとは・・・駆け抜けるのみ!
「【韋駄天の俊走】!!」
俺は【天凱十二将】のスキルを使って、【空歩】で作った足場を一気に駆け抜ける。
さらに、ダメ押しに・・・
「【勇撃魔導ダッシュ】!!」
超加速中にさらに【勇者】の力を加えた加速スキルを使用する。
どちらともにMPを一気に消費する、一歩間違えば自爆にも等しいスキルの併用だ。
しかし、それをするだけの価値はあった。
スローモーションの世界を高速で駆け抜ける俺。
・・・周囲の光景が見えない。いや、周囲の光景に対する俺の認識が追いつかなくなっているんだ。それはつまり、頭で考えるよりも速く足が動き、駆け抜けているということに他ならない。
そんな思考すらも一瞬で中断に追い込まれる。
なぜなら、その一瞬で俺はラグエル(偽)のすぐ目の前にいたからだ。
ラグエル(偽)は【神器ラグイル】の吹き出し口に、口をつけようとしている・・・所で止まっているように見える。俺に気づいた様子も無い。認識すらできていない様子だ。
まさしく無防備になっているラグエル(偽)に俺は容赦なく攻撃をくわえる。
「刀術奥義・・・」
俺は鞘に収まった【霊刀ムラクモ】を構え・・・抜いた。
「【居合い・・・疾風迅雷】!」
抜き放った刃は・・・間違いなくラグエル(偽)の体を斬った。だが、俺の言葉は・・・きっと誰の耳にも届いていないだろう。
そして次の瞬間には、俺は刀を抜いたままラグエル(偽)の後ろにいた。MPが0になって加速が解けてしまったようだ。
ザンッッッッ!!!
解けたと同時に音が遅れてやってきた。それは・・・今の一撃が音速を超えていた事を意味している。
「・・・あ?」
「!?」
その頃になってようやく認識が追いついたのか、自分が斬られた事に気づいたラグエル(偽)と、それを見て驚くボレアスの、声にならない声が聞こえてきた。
奴にたたき込めたのはたった一撃・・・だが手ごたえは十分にあった。
並みの敵なら今の一撃で瞬殺できただろう。
しかし、今の奴は【大天使ラグエル】。ボスキャラ並みの強敵だということを考えると、いかに強力といえど一撃加えただけで倒せるとは思えない。。
・・・本来ならば、だが。
俺に斬られたラグエル(偽)はというと・・・
「・・・ククク、あひゃひゃひゃ! あーひゃっひゃっひゃ!!」
笑っていた。【大天使ラグエル】と同じ顔と声で・・・ジェスター(偽)のように笑っていた。
「あひゃひゃひゃ! なんだよい・ま・の・は!? あんなのデータに・な・かっ・た・ぜ!? 今の今まで隠していたなんて人が悪いぜ、ア・ル・ク・く・ん・よー?」
この喋り方・・・間違いなくジェスター(偽)のものだ。・・・やはり、そうなのか。
「やはり・・・お前の力、【模倣擬人】によるコピーは完全じゃなかったのか」
「あひゃひゃひゃ! なぁーんだ、ば・れ・ち・まっ・て・た・の・か?」
ラグエル(偽)がそう言った途端、奴の体を黒い影のようなものが覆いつくした。
あれは・・・【模倣擬人】を使った時に出ていたやつか。
しかし、今度は誰かの姿になるということはなく、黒い影に覆われたままだった。
その姿は・・・人の形をした黒い影、闇よりも深い、黒いナニカだった。
(*・ω・)*_ _)ペコリ
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