終末を告げる天使
今度は四枚羽のイケメン金髪天使、ラグエルさんか。
ラグエルさんは【神仏界】を案内はしてくれたが、直接戦ったことは無いため実力のほどは未知数なんだよな。
それにしても・・・
「ヤマトタケルにハットリハンゾウ、そしてラグエルさん・・・俺が知ってるNPCをコピーしているのはわざとなのか?」
「フフ、当然ですよ。NPCとはいえ、見知った顔の人間が相手なら、いくら貴方でも多少のわだかまりが残るでしょうからね」
ラグエル(偽)はさわやかな笑顔でそう言い放った。・・・さわやかな笑顔のわりに言ってることは最悪だが。
「ヤマトタケルの圧倒的な実力を見せつければ、貴方は剣で戦うことを躊躇するでしょう? そうなれば貴方が最も得意としている【剣術】を封じることができる」
・・・確かに今の俺は、剣での勝負ではかなわないと思って【兵器】を使って戦っている。
「ハットリハンゾウの存在を知っている貴方だがその実力は知らない。そんな状態で正面から戦うのは危険だと貴方は判断し、相手の出方を見るために後手に回るでしょう?」
・・・確かに俺は時間稼ぎも含めて自ら攻勢に出ずに、ハンゾウ(偽)の戦い方を見極めようとしていた。
「私がまったく未知の存在をコピーした場合は、また違った結果になっていたでしょうね。貴方は自信家だが、無鉄砲ではない。撤退も視野に入れた行動を取っていたでしょう」
・・・確かに俺が一番懸念していたのはそこだ。俺がまったく知らない強力なNPCとなった奴の相手をするにはリスクが高すぎる。
ハンゾウ(偽)と戦ったのは彼が【忍者】であり、俺自身も【忍術】を使えることで手の内が予想できる・・・つまり、勝算があると考えたからだ。逆にハンゾウ(偽)と戦っていた時、影の無い空中へと避難しなかったのは、空中戦を得意とする未知のNPCが出てきたらその勝算も無くなると考えたからでもある。
しかし、すべて奴に見抜かれていたようだ。むしろ逆手に取られて追い詰められたとも言える。
そしてこの状況でラグエルさんになったということは・・・
「さあ、最後はこの私・・・【大天使ラグエル】の力をもってして貴方たちに終末をお届けしましょう」
そういってラグエル(偽)が取り出したのは・・・ラッパだった。
楽器のラッパである。どこにでも使われていそうな、とても武器には見えない普通のラッパ。
しかし・・・
『【固有能力:模倣者】の効果により【模倣擬物】が発動しました』
アナウンスと共にそのラッパが変化する。
一回り大きくなり、黄金に・・・神聖ささえ感じるほどに輝きだす。
「さあ、人の子たちよ・・・【神器ラグイル】の音色を聞き、果てることを光栄に思いなさい」
そういってラグエル(偽)はラッパの吹き込み口に唇を当て、その音色を響かせた。
ファーーーン♪
その瞬間、
「!?」
「うおっ!?」
俺とボレアスは吹っ飛ばされた。
これは・・・衝撃波か!
どうやらあのラッパは音色に乗せて衝撃波を放つことができる武器らしい。しかも今の衝撃・・・普通にぶん殴られたのかと思うくらいの衝撃とダメージがあった。
「ちぃ!」
ボレアスが反撃とばかりに黒ローブを伸ばし奴を攻撃・・・否、あのラッパを取り上げようとしたようだが・・・
ファファーン♪ ファン♪
衝撃波が壁になっているのか、ボレアスの攻撃がラグエル(偽)に届くことはなかった。
「【グランディスマグナム】バスターモード! シュート!!」
俺も負けじと攻撃するが・・・駄目だ。エナジー砲まで弾かれてしまう。
ボレアスの黒ローブと同様、あのラッパも攻防一体の武器らしい。ラッパという楽器である以上、奴が息を吹くのを止めさせれば奴の攻撃も防御も防げるはずだが、そもそも近寄れなければ意味がない。
ファファンファーン♪ ファファンファーン♪
ラグエル(偽)はご機嫌でラッパを吹きまくる。その度に俺とボレアスには全身を殴られたかのような衝撃が襲い掛かってきていた。
元々、【大天使ラグエル】は神の命令で終末のラッパを吹き鳴らし、地上の人間たちに天罰を与える天使だとされている。
あのラッパ・・・【神器ラグイル】とやらがその終末のラッパというわけか。
やばいな・・・このままでは文字通り手も足も出ずやられてしまう。
・・・と、思ったら急に音色が鳴り止んだ。
どうしたのかと思ったらラグエル(偽)はラッパから唇を少し離し、荒くなった息を整えていた。
・・・そうか、息継ぎ! ラッパという楽器の性質上、大量に息を吹く必要がある。【大天使】と言えど息継ぎは必要らしい。
しかし、それが弱点となるかと言えばそうでもないようだ。
「ヌンッ!!」
「シュート!!」
奴が息継ぎをするタイミングがこちらにとっての好機と見て、俺もボレアスもすかさず攻撃するのだが・・・
ファファーン♪
それよりも早くラグエル(偽)がラッパを吹き始め、こちらの攻撃が防がれてしまう。
駄目か・・・最初の奴の攻撃で距離を離されすぎた。奴に攻撃が届くまでわずかだが、時間がかかってしまう。その隙に奴はラッパを鳴らしてしまう。
こうなってくると奴はもう二度と俺たちを近づけさせはしないだろう。
この距離から奴が息継ぎをする一瞬の隙をついて攻撃する方法があるか?
仮に攻撃できたとしても・・・奴に通用するか? 奴は【グランディスアーマー】のレーザー攻撃の直撃だって耐えたんだぞ? その上でラグエルさんや【神器ラグイル】をコピーするだけの余力を残していた。
想像以上の奴の力を前に・・・太刀打ちできるのか?
そんなことを考えていた俺の頭の中に、ふとアギラの言葉が浮かんできた。
『彼の言葉に騙されないでください』
・・・奴の言葉に騙されるな、か・・・つまり、奴は俺たちを騙そうとしていたことになる。一体なにを? あれだけの余力のある奴がなぜそんなことをする必要がある?
「・・・しぶといですねぇ。では、別の曲をお送りしましょう」
ファファファファーン♪
突然に奴が放つ音色が変わった。同時に・・・
「「!?」」
俺とボレアスは思わず耳をふさいだ。その音色を聞いた瞬間、視界がぐらつき、気分も悪くなってきたからだ。
・・・今度は超音波か!? まずい・・・今にも墜落しそうだ。
どうやら、この音色を聞くと状態異常が引き起こされるようだ。耳を塞ぎ、気持ちが悪くなってくるのを必死に我慢しながら考える。
・・・なぜ奴にはこれだけの余力が残っている? 最初に・・・奴がヤマトタケルの力を使った後、俺とアギラを追いかけて来なかったのはそれだけ力を消耗したからなんじゃないのか? 力の消耗を抑えるために奴はすぐに決着をつけようとしたんじゃないのか?
これだけの余力が残っていたのなら・・・消耗なんて気にする必要はなかったんじゃないのか?
嘘・・・奴がついた嘘っていうのは一体なんだ?
今度は奴の言っていた言葉が俺の頭の中に浮かんできた。
「これが僕の【固有能力:模倣者】の力の一つ、【模倣擬人】さ。その効果はある特定の人物の実力や性格、雰囲気なんかまでを完全にコピーしてしまう。つまり今の僕の実力はヤマトタケルの実力そのものってことになるわけだよ」
完全コピー・・・俺はこの時、そう思った。異常で恐るべき力だと。
だが・・・もしそれが嘘だったとしたら?
確かに俺が戦ったヤマト(偽)の実力は本物だった。ハンゾウ(偽)や今戦っているラグエル(偽)の実力もだ。
でも・・・それが完全ではなかったとしたら?
俺は一つの仮説を思いつく。
この仮説通りだとすれば、奴が余力を残すことができたことにも納得ができる。
そして・・・奴を倒すこともできるはずだ。
「・・・ボレアス・・・次の奴の息継ぎの時に・・・仕掛ける」
「・・・」
ボレアスは聞いているのかいないのか何も言い返しては来なかった。俺もそれ以上何も言わない。
協力しろといった所で細かく説明している暇はないし、そもそもボレアスは俺に協力なんてしないだろう。
しかし、ボレアスも状況は把握しているはずだ・・・このままでは手も足も出ずにやられてしまうことを。
だから俺が動く。ボレアスに言った言葉は提案でもあり忠告でもあり警告でもある。あとはどう動くかはボレアス次第だ。
勝負は一瞬。
一瞬で・・・これまで以上に素早く、的確に、そして確実に仕留める必要がある。
音色が弱まってきた・・・もうすぐだ。
そして完全に音色が止まる瞬間、ボレアスが動いた。
そして俺も・・・
「【転身】!!」
奴を確実に仕留めるためには・・・奴が知らない攻撃を食らわせるのが最も効果的だ。
「【ヴェアヴォルフ】!!」
そして俺は【転身】する。この局面に適した新たな種族へと。
(*・ω・)*_ _)ペコリ
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