暗い海の底で
ある程度慣れたところでいよいよ海底へと潜っていく事にした。まあ、実際には黙って沈んでいくと言う方が正しいかも知れないが。海面から離れるにつれどんどん光が無くなっていき、すぐ目の前でさえ見えなくなってくる。
アテナの【光魔法】で灯りを付けながらなおも潜っていく。途中、ピラニアやらサメやらの襲撃もあったが何とか撃退し、深海を目指す。
思いのほか時間がかかり、およそ一時間ほどで海底まで辿り着く。海底深度およそ千mといった所か。
しかし海底と言ってもあるのは砂と岩と海草ばかりだ。たまにサンゴっぽい物がちらほら。
「いきなり見つかるとは思っていませんでしたが、何もないのです。」
「本当ですね。よくよく考えればノーヒントで広大な海の中から遺跡を見つけるのって大変すぎませんか?」
まったくその通りだな。行けばなんとかなると思ってた俺たちはとんだお花畑だな(笑)。まあ冗談はともかくノーヒントってわけでもないと思う。
「多分あっちだと思うぞ。」
俺はある方向を指差しながら言った。
「何でそんな事わかるのよ?まさか適当じゃないでしょうね。」
失敬だな。
「気づかなかったか?今まで出てきたモンスター、みんなあっちの方向からやってきてたぞ。」
そう、今まで出てきていたピラニアやらサメやらは常に同じ方向からやってきていたのだ。
「・・・なるほど。モンスターが道しるべの可能性はありますね。理由は分かりませんが・・・行ってみる価値はありますね。」
と言うわけでその方向に進んでみる。やはりと言うべきか、道中に出現するモンスターは進行方向からしか現れることは無かった。さすがに常に同じ方向からとなれば偶然ではないだろう。
予想としては目的の海底遺跡からモンスターが排出されている、とかかな。・・・ああ、逆の考えも有りか。海底遺跡からモンスターが出てきているんじゃなく、海底遺跡にモンスターが向かっている場合も・・・。その場合、まったく逆方向に向かってることになるな。・・・前者である事を祈ろう。
幸いと言うべきか、しばらく進んでいると変化が現れた。前方にうっすらと光が見え始めたのだ。海底にうっすらと浮かび上がる、ともすれば人魂にも見える光。あからさまに怪しいそれに慎重に近づいていく俺たち。
程なくしてその正体が判明した。
「あれは・・・チョウチンアンコウ、ですか。」
「・・・見た目はそれっぽいな。でかすぎるけど。」
【ビッグデスアンコウ Lv.35】
生物を丸呑みにするほど巨大化したアンコウ。その光に惹かれて生きて帰った者はいない
ちょっと!?説明文が怖すぎるんですけど!?
「確かにあの巨大さじゃあ大の大人でさえひとのみでしょうね。ちなみに先っちょが光る提灯みたいなのが付いてるのはメスらしいわ。」
・・・なんで急にそんな豆知識を?
「そうですね、チョウチンアンコウのオスはメスに比べてかなり小さいらしいですし、メスで間違いないでしょうね。」
え?そんな豆知識、今要るのか?
「ちなみに漢字で書くと提灯鮟鱇になりますです。」
わざわざフリップ出してまで書かんでも。しかも良く書けたな、そんな達筆で。え?いつの間にか豆知識披露会に?俺も何か言わないといけないの?
「・・・チョウチンアンコウのオスは繁殖のためメスに噛り付くと、そのままメスに吸収され栄養となって消えて・・・」
「「「怖い事言わないで!!」」下さいです!!」
・・・なんだよ、せっかく豆知識を披露してやったのに・・・ホラーだよな、やっぱり。
「ま、まあとにかく、あのデッカイアンコウはあの場からピクリとも動かないし、ボスモンスターと考えて良いんじゃないか?多分、あの先に何かあるんだろう。」
多分、海底遺跡が。・・・そうだったらいいなぁ。そうであって欲しい。
「よし!行くぞ!!」
意を決してデカアンコウに近づいていく。デカアンコウもこっちに気づいた、と。
「うおわああ!?」
気づいたと思ったらデッカイ口を開けてトンデモスピードで向かってきやがった!!幸い距離があったために避けられたが、近づくのはまずい。パックリモグモグいかれそうだ。しかも・・・
「うお!?」
「おうふ!?」
「何で俺だけ狙うんだ!?」
何故かアテナたちは狙わず俺だけが狙われていた。
「やっぱりオスを狙って・・・」
違うよね!?チョウチンアンコウのメスがオスを捕食するなんて聞いた事ねぇよ!?・・・え?マジで違うよね?
「クルー!!」
【成体化】したアーテルが俺を乗っけて避難してくれる。さすがアーテル、頼りになるぜ!海底でも地上と変わらず動けるなんてな!
「【氷結晶】!!」
無数に現れた氷の結晶が雨のようにデカアンコウに降り注ぎ、矢のように突き刺さる。アルマの【凍結魔法】だ。あんな魔法もあるのか。
「【ホーリーレイ】!!」
「ノワールちゃん!【ダークブレス】なのです!!」「キュアア!!」
ここぞとばかりにアテナたちも畳み掛ける。
「よし!俺たちも行くぞ!!突っ込めアーテル!!」「クルルー!!」
俺は大剣を取り出しながら、動きを止めたデカアンコウに切っ先を向ける。
「【勇天の一撃】!!!」
アーテルのおかげでスピードも十分な俺は最強の一撃をデカアンコウに食らわせてやった。
・・・
「ふぅ、何とかなったな。」
ぶっちゃけアーテルがいなかったら、パックリざっくりいかれてただろう。くわばらくわばら。
大活躍のアーテルにはまた今度おいしいものでも食べさせてあげよう。おっとノワールにもな。
「しかし・・・アンコウは倒せましたが肝心の海底遺跡らしき姿が見られませんね。」
そう相変らず周りにあるのは砂と岩と海草ぐらいだった。まさかあの砂と岩が遺跡とは言うまい。
「うーむ、たしかあのデカアンコウがいた場所は・・・この当たりだったな。」
この場所で動かなかった以上、ここに何かあると思うんだが・・・少なくともここから見える位置に・・・?
「アテナ、光源を強くしてくれ。海底が良く見えるように。」
「わかったわ。」
俺のいったとおり【光魔法】を強くするアテナ。徐々にまわりが明るくなり、海底にあるソレが見えるようになった。
「・・・ビンゴだ。この場所の真下にある岩に穴が空いてるのが見えるだろ?多分、海底遺跡はあの中だろう。」
ただでさえ暗い海底で真っ黒の岩に穴なんて空いてたって誰も気づけねぇよ。アンコウも含めてモンスターたちは本当に道しるべだったんだな。
「うっし!行って見るか!!」
こうして俺たちは海底のさらに深い穴の中へと潜っていった。
・・・
「「「「うわぁ。」」」なのです。」
真っ暗の穴を抜けた先にあったのは正に遺跡であった。ほとんどのものは崩れているが明らかに人工物であり居住区・・・家のようなもののように見える。それも古代の・・・そう、古代ギリシャの建築物を彷彿とさせる遺跡だった。
「・・・海のトリ○ン?」
「急に何を言ってるんですか?アルクさん?」
おっと、何故か分からんが俺の魂の奥底から何かの言葉が出ていたようだ(笑)。
「ああ、いや、なんでもない。それよりこの遺跡、どう見ても居住区だよな。地上にあったのがこの場所に沈んだのか?それとも人魚でも住んでいたのか?」
少なくとも今は誰も住んでいない事は確実だけど。
「さあ?それを調べるための調査なんじゃないですか?もともとのクエストが【海底遺跡調査】でしたし。」
おっとそうだった。まあ、俺たちのクエストはあくまで海底遺跡の発見だし、それ以上は判らんな。考古学者でもないし。
「アルクさん!皆さん!あそこを見てくださいなのです!!」
アーニャが指差したのは遺跡の最奥、原型を留めていた大きな建築物だった。体育館を髣髴とさせる大きな建物に巨大な扉が付いている。そしてその前には今回のクエストの目的となる【転移装置】が置かれていた。
速やかに【転移装置】登録を行い、扉を調べてみるが・・・
「・・・開かないな。」
まるで鍵でも掛かっているかのように扉はビクともしなかった。多分次の【海底遺跡探索】で開くようになるのかな。
「・・・これ以上は何もなさそうだ。今日はここまでにしよう。」
【転移装置】が目の前にあるので【クランホーム】まで一瞬だ。ブランたちも待ちくたびれているだろうし、早く帰ろうか。
「ええ。」「はい。」「了解なのです!」「クルー!」「キュア!」
こうして俺たちは海底遺跡を後にしたのだった。
・・・あれ?船のおっちゃんは?
『ワールドクエスト【海底遺跡調査】をクリアしました。』
===ログアウト===>おつかれさまでした。




