気を付けよう
「戻ったぞい」
「ただいまっす!!」
話しこんでいる間にアシュラたちが戻ってきた。・・・しまった。話に夢中で試合の方を見てなかった。
「なんとか勝って来たよ・・・おや? ナナカ、君がアルクたちと話しこんでるなんて珍しいね」
そして肝心のラングが俺たちとナナカさんが話しているのを不思議そうに見ている。
「リーダー、それは・・・」
「なに、ラングがくノ一のコスプレが好きなんだなぁって話をしていた所だ」
・・・瞬間、空気が凍った。
ついでに一部の人間のラングへの視線も氷点下にまで落ち込んだ。
「・・・ナナカ? ロゼ? どういうことかな?」
「ええ!?」
「私達は知りませんよ!?」
身に覚えが無いと言わんばかりに首を振るナナカさんとロゼさんに、ラングはどういうことかと迫り始めた。
「ハッハッハ! 隠すな隠すな。お前、前にロゼさんにくノ一衣装着せた事があったし、ナナカさんにも着せてるんだろう?」
「僕が無理矢理着せてるような言い方しないでくれるかな!?」
・・・おおう。ラングが珍しくうろたえている・・・珍しい光景だ。・・・そんなにくノ一萌えがばれるのが嫌なのか?
「おいおい、そんなこと言うなよ。少なくともナナカさんはくノ一として立派に戦ったんだぜ?・・・お前の選んだくノ一衣装を着て、な」
「・・・ナナカ? ちょっと話があるんだけど? ロゼも、ね」
「ええ!?」
「私もですか!?」
ナナカさんとロゼさんはラングの奴に連れて行かれてしまった。
「・・・これが本当の情報操作、だな」
「・・・アンタねぇ」
「ナナカさんのくノ一衣装ってラングさんが選んだんですか?」
・・・さあ? そんなこと俺が知ってるわけ無いじゃないか。・・・デザインは前にロゼさんが着てたやつと一緒だったからそうじゃないかなぁ、と。
「? なにかあったんすか、アスター?」
「アハハハ、ちょっとくノ一さんがね・・・それよりお疲れ、アシュラ。・・・ほら、これ」
「おお! 焼きとうもろこしっすか! おいしそうっすね!!・・・ハグハグ・・・そういえばボクの試合にもいたっすよ? くノ一。中々手強かったっす!」
・・・え?
「そういえば私の試合の時も・・・」
「あ、私の時もです」
「ふむ、そう言われるとワシの時もいたのう」
・・・俺は周囲を見渡す。
すると【インフォガルド】の女性プレイヤーの何人かが顔を背けていた。
・・・俺はちょっとラングを・・・いや、【インフォガルド】を見縊っていたのかも知れん。
・・・気を付けよう。というかラングの奴、くノ一好きなんじゃないか?
にしてもこの分じゃあ、あの騎士や魔法使い・・・いや、今までの試合で倒してきた連中が所属しているクランにはある程度情報が行き渡ってる見て良いだろう。あの二人以外誰がどのクランに所属しているのかまるで分からないが。
「・・・アヴァン、2回戦の様子はどんな感じだ?」
「・・・一回戦に比べると乱戦が続いているのだ。ただし、中には余裕で勝ち残っている連中もいるのだ。トーナメントに勝ち残りそうなのは、だいたい予想できてきたのだ」
アヴァンが試合会場を指差すと、確かに乱戦・・・中々決着がつかない試合がいくつもあった・・・が、なかには一瞬で勝負がつく試合もあった。
ある一つの試合では絢爛豪華な鎧を身に纏い、手に持った剣を一閃させると相手プレイヤーたちがまとめて吹っ飛んでいった。
「あれは【双星騎士団】のラーサーだね」
「・・・何事も無かったかのように戻ってきたな、ラング」
見るとロゼさんもナナカさんも元の位置に戻ってきていた。・・・若干、恨めしい目で俺を見ている気がするが気のせいだろう。
「彼は強いね。それに何も隠す気は無いと言わんばかりに堂々と装備を見せびらかしている」
「うむ。ワシが作った装備じゃな」
・・・そうか、ラーサーの装備を作ったのはガットだって言ってたな。だが、ラーサーの装備についてガットに聞いても答えてくれないだろうな。義理堅い奴だし。そもそもマナー違反だから俺も聞く気はないが。
しかし、隠す気が無いというか・・・むしろ自分を倒してみろと言わんばかりだな。だが、スキルも使わないで、あのスピードと剣捌き・・・手強いな。
「アルク、あっち」
アテナが指差した先にいたのは全身真っ白な男。
「カオスか」
ふざけた名前のクランだったが、たった一人で緊急クエスト一位になったプレイヤーだ。
そのカオスの奴は鞘に入った刀を、居合いのごとく構え・・・一閃。
一瞬で相手プレイヤーたちを全滅させた。
「・・・ラーサーといい、カオスといい、ワンパンがはやってるのか?」
「アルクさんが一回戦で同じ事したからじゃないですか?」
・・・え? もしかして対抗意識燃やされてんのか? ハハハ、まさかぁ。・・・ラーサーもカオスもチラッとこっちを見たような気がするが・・・気のせいだ。うん。
「アルクさん、アルクさん、あっちなのです!!」
今度はアーニャが指差した先にいたのは・・・アーニャより少し背が高いくらいの女の子だった。
ただし、目立っていたのだその女の子ではない。その子が乗ってる動物・・・いや、【眷属】だ。
「・・・あれって象?・・・いや、マンモスか?」
リアルで知られているマンモスよりも大分小さい・・・体長で言うと3メートルくらいか? ・・・だが、あのシルエットは確かにマンモスのようだ。
「【ジオマンモス】だね。いわゆるレアモンだよ。そしてその上に乗っかっている彼女が・・・」
「いっけー!! ジオちゃん!!」
「パオーン!!」
上に乗っかっている彼女の指示の元、相手プレイヤーたちに突進していくスモールマンモス。ああ、これは酷い。舞台上は広いようで案外狭いから逃げるに逃げられず・・・合掌。
「【モンスターイズライフ】のリーダー、ミーシャだよ」
あの子が例のモンスター牧場を持ってるクランのリーダーか。そういえば彼女はうちのアーニャに会いたがってると聞いたことがあったが・・・トーナメント前だから遠慮してたんだよな。
「ちなみにアヤツ、一回戦のときは【ブルゴリラ】というゴリラの【眷属】で戦っていたのだ」
あのマンモスだけじゃなくゴリラの【眷属】までいるのか。となると他にも【眷属】がいそうだな。本人ではなく【眷属】の方が強いプレイヤーみたいだが・・・あの子も要注意だな。
「アルクさん、あの子、こっちに手を振ってるみたいなのです!」
・・・アーニャにも見えたか。今回は俺の気のせいじゃなかったな。
「・・・無難に手を振り返してやれ」
アーニャが手を振り返してやると女の子は喜んだようにはしゃいでる。直接会ったことは無いはずなんだが・・・まあ、良いか。
ドドドドドドド!!
「・・・ん? なんだこの音?」
「あっちの試合ですね」
アスターが指差す先にいたのは・・・白衣の男? いかにも研究者っぽいいでたちだが・・・持ってる物が物騒すぎる。
「あれは・・・ガトリング砲か?」
「うむ、中々良く出来た【兵器】なのだ」
白衣の男は冷静にガトリング砲を乱射して相手プレイヤーたちをリタイアさせていく。
「・・・外から見るとこれも酷い画だな・・・あ、なんか投げた」
ドカンッ!!
「・・・手榴弾みたいなのだ」
今の爆発で相手プレイヤーたちは全滅したようだ。しかし、こっちも一方的な試合だな。
「・・・アルク。アヤツ、こっちを睨んでいるような気がするのだ」
「・・・気のせいだ。無視しておけ」
・・・さっきから気のせい気のせいが多い気がするが・・・スルーするのが上手な生き方ってやつだ。
「・・・まあ、アヤツと戦う事になるのはアルクたちなのだから、それで良いのならそれで良いのだ」
・・・おうふ、そうだった。・・・今からでも満面の笑みを・・・ってもういねぇし。
・・・色んな奴がいるな、このトーナメント。
「狸のイッサ!!」
「鷹のニショウ!!」
「鼠のサンチュ!!」
「犬のヨンク!!」
「狐のコクリ!!」
「熊のムツナ!!」
「猫のナナカ!!」
「「「「「「「我ら!【インフォガルド】くノ一部隊!!」」」」」」」
ラング「うんうん、皆息が揃ってきたね」
アルク「・・・何してんだ、アイツ?」
ロゼ「・・・聞かないで下さい」




