裏を感じる
===転送===>観客席
「ただいま」
ほぼUターンのごとく観客席まで戻ってきた俺である。
「お早いお帰りね」
「圧倒的でしたね」
「アルクさんなら当然なのです!」
「相手が弱すぎたのだ」
「さすがっすね、アニキ!」
「応援する暇もありませんでした」
・・・皆、一戦を終えた俺をもう少しは労ってくれ。・・・疲れるようなことは何も無かったが。
「フフフ、いや~目立ってたよ、アルク」
「まったくじゃわい。・・・皆少し引いとったぞい」
やかましい。・・・うーん、相手のレベルが分からないからイマイチ力加減が分からないな。
『さて、あっという間に終わってしまった第一試合でしたが、解説をよろしくお願いします、室長!!』
『解説もなにも見たままのような気がしますが・・・アルク選手が最後に使ったスキルは【格闘術】の中でも上位のスキルになります。・・・今回は相手が悪かったですね』
『ちなみにやられちゃったモヒカンさんたちはそのまま転送されて退場されました~♪ あっというまにやっつけちゃうなんてすごいですね~、アルク選手♪』
・・・試合の解説まであるのか・・・ミューズさんやこっちにウィンクするの止めてくれないかね。怖いお姉さんが二人、俺を睨んでるから。
ちなみに解説どおり、【ジェットブラスト・ラッシュパンチ】は【上級格闘術】のスキルで、いわゆる気を乗せたパンチを無数に飛ばす事ができるスキルだ。より正確に言うなら気を乗せた拳を飛ばす【ジェットパンチ】、スピードを抑えて威力を高めた【ブラストパンチ】、そして何発も拳を放つ【ラッシュパンチ】のあわせ技だ。上級スキルともなるとスキルの組み合わせでより多彩な技を繰り出す事ができるみたいだ。
さらにちなみに【ウィンドプレッシャー】と【ファイヤーボール】を【魔法付加】したのはスピードと威力のアップ、それに相手が物理防御に特化している場合も考慮して魔法攻撃を加えたかった、というのもある。
【魔法付加】についても色々試してみたが、どうも用途によって【魔法付加】に向く魔法と向かない魔法があるようだ。例えば拳に【魔法付加】するのなら【ファイヤボール】だが、剣に【魔法付加】するのなら【ファイヤカッター】という魔法のほうが威力が高い。魔法の性質に見合った【魔法付加】をすることでより高い威力を望めるようなのだ。
・・・まあ、そんな感じで威力を高めた結果、モヒカンたち相手には少々オーバーキルだったようだ。合掌。
『さて、試合の流れに関してはこれで大体分かったと思います! さあ、それでは第二試合以降も張り切って参りましょう!!』
司会者ポロンの声と共に観客席のプレイヤーに一斉に通知がされた。
「あ、私は第四試合だって」
「私は・・・第七試合だそうです」
「ボクは第十試合みたいっす!!」
「ワシは・・・第十八試合か」
「・・・僕は第二十三試合みたいだね」
アテナ、アルマ、アシュラ、それにガットにラングにも通知が来たらしい。一斉に来たな。どうやら俺たちの中には第一回戦から当たる奴はいないみたいだが・・・一度に二十三試合以上も同時にやるのか。・・・大変だな。運営も、見るほうも。
「んー・・・みんな同時に試合が始まるとなると全員の応援が出来ないな」
「残念なのです」
【特殊遠視】というスキルの効果で遠い舞台の試合でも見る分にはなにも問題は無いのだが、さすがに複数の試合を一遍に見ることは出来ない。
「一応、各メンバーの試合は録画しておくつもりなのだ。後から見直す事はできるようにしておくのだ。・・・それで我慢して欲しいのだ」
アヴァンの周囲には小型偵察メカ【ビートル君改】が何台も飛んでいる。この日のために遠くの映像も録画できるようにした【ビートル君】の改良版だ。なお、舞台上を飛びまわらせるのは問題があるのであくまで観客席からの撮影になるが・・・こらそこ、それなら普通にカメラで良いんじゃね?とか言わない。
「その気持ちだけで十分よ・・・あ、そろそろ時間みたい。それじゃあ、また後でね」
「頑張ります」
「行ってくるっす!!」
アテナ、アルマ、アシュラの三人は自信満々に転送されていった。・・・あの三人、俺のように丸腰で行ったけど大丈夫なのか?
「それじゃあ、後は頼んだよロゼ」
「はい、お任せ下さい」
「行ってくるわいヴィオレ」
「気張りなよ、ガット!」
ラングとガットもそれぞれ転送されていった。あの二人はちゃんと武装して行ったな。・・・ロゼさんとヴィオレ、綿アメ食べてないでもうちょっと応援してあげて。
「・・・で、客席の方はどうだった? アヴァン、アスター」
俺は二人に観客側の様子を伺う。
「やはりどこのクランも戦いの様子を録画しているみたいなのだ。あちこちでカメラを携えている奴がいるのだ」
「お祭りのように騒いでいるプレイヤーがほとんどですが、一部は・・・黙って真剣に戦いの様子を見ている感じでしたね」
・・・やはりそうか。トーナメントに勝ち上がっていけば自然と強豪プレイヤーに当たる可能性は高くなる。その時に少しでも勝利の可能性を上げるために相手の情報を手に入れておきたいと思うのは当然だろう。優勝を目指す奴は、強豪プレイヤーのチェックを欠かさない、か。
つまり、勝利の鍵はどれだけ切り札を温存できるか、だな。アテナたちもその辺りは理解している・・・はず。
『『『『『試合開始!!』』』』』
ドッゴーン!!
パリーン!!
ドガガガガガ!!
・・・舞台のあっちこっちから派手な音が聞こえてくるが・・・初っ端から飛ばしてないだろうなアイツら。
「・・・アヴァン、録画は頼んだぞ。アテナたちだけじゃなく他の強そうな奴らもな」
「心得ているのだ」
こういうとき、アヴァンの作ったメカは便利だ。一つのカメラであっちこっち撮影しなくても、一度指示さえ出せば後は自動で目標を追ってくれるからな。小型でかさばらない上に数もある。まさに便利グッズだ。
「「「ただいま」」」
「・・・お前らだって早いじゃないか」
いつの間にか、アテナ、アルマ、アシュラの三人が戻ってきていた。・・・早くね?
「一発で終わっちゃったわ。あの黒タイツ集団」
「あのジャージの方たち、あんまり・・・」
「ちょっとボクとレベル差があったみたいっすね。あのスク水集団」
・・・どうやら俺の時と同じで相手とのレベル差が大きくあっという間に終わってしまったようだ。・・・ちょっと待て、スク水集団・・・だと・・・!?
「なんじゃい、張り合いが無かったのう」
「うーん・・・」
ガットとラングももう戻ってきた。これはやっぱり・・・
「やっぱりこれは、ある程度レベルの高いプレイヤーがばらける様に決められてるみたいだね。多分トーナメントを盛り上げる為の演出だろうけど・・・」
予選で強豪同士がぶつかるのは勿体無いってか? まあ、言いたい事は分かるんだけどな。あの室長は不正は無いとは言っていたが・・・裏を感じるな。
「必ずしもそうだとは限らないんじゃないですか? ほら・・・ほとんどの試合はまだ続いていますしね」
ロゼさんの言うとおり、一方的な試合ばかりではなく、バトルロイヤルっぽく接戦している試合もいくつかあった。ある試合では1対1を5組くらい行っていたり、即席コンビを組んで各個撃破していっているところもある。
必ずしも一試合に勝ち残りそうな強力なプレイヤーが一人、ということでもないらしい。となると本当に偶然ってことも・・・
・・・まあ、どっちでも良いか。トーナメントなんだからいずれにせよ全員倒していかなきゃ優勝できないわけだし、早いか遅いか違いだけだ。
・・・俺としては強い奴とできるだけ多く当たりたい所だけどな。
まあ、予選の様子を見ながら強そうな奴を探すとしますか。
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