職人魂
「むぅ・・・そんなことが・・・」
俺は武器がぶっ壊された経緯をガットに詳しく説明した。・・・説明させられたとも言う。だって怖いんですもの、この人。
俺の話を聞いたガットは難しい顔をして唸っている。・・・うーん、武器が壊されたのは俺のせいでもあるのだが、ぶっちゃけ相手が悪かったと思う。なんせ相手は神様だし。落ち込む気持ちは分からないでもないが、気にしすぎるのも良くない。・・・仕方ない、慰めの言葉をかけてやろう。
俺はガットの肩に手を置き・・・
「俺モお前モ人間、相手ハ神、OK?」
「なにがOKじゃ、それで慰めとるつもりか」
・・・あれ? 意外と落ち込んでない?
「確かにお主に作った武器はワシの自信作じゃったし、今まで作った武器の中では最高傑作じゃったが・・・かと言って、最強の武器だとは思って居らんぞ。当然、ワシもあれ以上の武器を作る気でおるしな。むしろより強い武器を作ろうと気合が入ったぞい!!」
おお、さすがの職人魂・・・より強い武器を目指そうという志はアッパレ! ・・・だからその悔しそうな顔はやめてください、怖いです。
「ガットは負けず嫌いだからねぇ」
そんなしみじみ言ってないでなんか言ってやってくださいよヴィオレさん。アンタ職人仲間でしょ。何で苦しんでる仲間を見ながら餃子をバクバク食ってんですか?
・・・ふむ、ここは一つ、ガットに元気が出る情報をくれてやるか。
「・・・アーニャ」
「はいなのです。ガットさん、これを見てくださいなのです」
「む? なんじゃ・・・こ、これは!?」
ガットに見せたのは【地竜帝ドラントの鱗 ☆13】である。武器素材としてはこれ以上ない物だろう。
「こ、これを使えば今まで以上の武器が作れるぞい!!」
おお、ガットの目の色が変わった。さすが職人、最高の素材を目の前にするとテンション高い。
・・・だが! ここで残念な情報が!!
「・・・残念ながらその鱗で作れるのは調理道具だけだ。武器は作れんぞ」
「なん・・・じゃと・・・」
おお、戸惑ってる戸惑ってる。・・・まあ、俺たちも最初聞いたときはそんな感じだった。
「その鱗はアーニャの調理器具を作るために特別に神様から貰った物らしいから、それ以外の用途で使ったら・・・ドラゴンの神様に食い殺されるらしいぞ?」
「な、なんじゃと!?」
おお、驚いてる驚いてる。・・・ちなみに本当い食い殺されるかどうかは知らん。
「アルクさんの嘘はさらっと受け流すのです。・・・それでガットさんはアーニャの調理器具を作れたりするのです?」
俺の嘘を華麗にスルーしたアーニャがガットに聞いている。・・・ちょっと寂しい。
「なんじゃい、嘘か。・・・そうさのう、包丁ぐらいなら作れると思うが、それ以外は作ったことがないからわからんのう・・・ヴィオレ、お主はどうじゃ?」
「アタイかい? 調理器具っていうと・・・後はまな板とか鍋とかフライパンとか? うーんアタイが作れるのはエプロンぐらいだからねぇ。さすがにエプロンは鱗から作れないだろうさ」
そりゃそうだ。そんな激堅なエプロンなんて見たことがない。・・・ないよな?
「アーニャはおたまとフライ返しも欲しいのです! ピーラーや泡だて器も良いのです!!」
・・・それはドラゴンの鱗で作る必要があるのか? というか、今更だが調理器具をドラゴンの鱗で作るって意味不明だよな。
「・・・うむ、鱗を加工するとなると【錬金】か【鍛冶】じゃ。となると調理器具を作るのもワシの領分か。・・・よし、ワシが何とかして見せよう」
「本当なのです!?」
おお、ガットがやる気だ。・・・お前、武器や防具じゃなくても良いのか。
「ただ、少し時間が欲しいの。せっかくのこれほど貴重な素材じゃ。まずは適当な素材で練習してからにしたい。・・・それに今は依頼が立て込んでおるからのう」
「立て込んでる?・・・やっぱり、トーナメントに向けて武器や防具を発注する奴がたくさんいるってことか?」
「うむ。戦闘系のプレイヤーはトーナメントが本番じゃが、生産職はトーナメントまでが本番じゃからのう。皆、より強力な武器や防具を求めておるんじゃよ。うちだけじゃなく、他の生産クランも大忙しじゃ」
「・・・そんな忙しいのに、なんでうちに来たんだ?」
・・・目を逸らすな、こら。ヴィオレも。・・・さてはこいつら、依頼で忙しすぎて抜け出してきたな? ・・・他の【アイゼンガルド】のメンバーにお土産を持って帰ってもらおうか。
「しかし、そうか。なら俺たちからの武器や防具の作成依頼も受けることは出来なそうだな」
「む? お主も何か欲しい武器でもあるのか?」
「武器は欲しいが、素材はまだない。・・・一応聞くが、より強い武器を作るにはよりレアリティの高い素材が必要なんだよな?」
「基本的にはそうじゃな。あとは【鍛冶師】の腕次第じゃが・・・スキルレベルが足りんと出来上がった武器の性能やレアリティも下がる。より強い武器を作るには素材と【鍛冶師】の腕、両方必要なんじゃ」
・・・何気に自分の腕は一人前だって言いたいのだろうか。まあ、実際そうだから俺たちも頼んでるんだが・・・なんかむかつく。
「まあ、珍しい素材を持ってきたら受けてやっても良いぞ。・・・いざとなったら睡眠時間を削「ガット?」・・・いや、何でもないぞい」
・・・ヴィオレがおこだ。額に角が生えてるように見え・・・【鬼人】だから角あるんだった。
「・・・ま、まあ素材も何もないからな。何か良い素材があったときに相談しよう。・・・そういえば、ガットは【加護】を持ってるのか?」
「ん? おお、そうじゃな。ワシは【鍛冶神アマツマラ】の【加護】を持っておるぞい」
アマツマラ・・・確か日本神話に出てくる鍛冶の神様だったか。ガットにぴったりだが・・・
「・・・【ヘーパイストス】じゃないんだな?」
鍛冶の神と言えばギリシャ神話の鍛冶の神様も有名だ。
「【鍛冶神ヘーパイストス】の【加護】を貰ったプレイヤーは他にいるみたいだよ?」
というラングからの言葉。
「・・・【鍛冶神】って他にもいるのか?」
「そうらしいね。【ヤオヨロズ神社】で確認したから間違いないよ。・・・【加護】にどういう違いがあるかまではわからないけど」
【加護】は隠すのが普通みたいだからな。・・・ということはガットと同レベルの【鍛冶師】が他にもいるってことか。それはつまりトーナメントにも俺たちと同レベルの装備を持つプレイヤーが出ると思った方が良いんだろうな。
「・・・ちなみに他の奴らは?」
「アタイは【裁縫神ヌイドノ】の【加護】があるよ」
ヴィオレもか・・・ヌイドノっていう神様は聞いたことはないが、裁縫の神様か・・・なるほど。
確かガットもヴィオレは【精霊】も【眷属】にしていたし、生産職とは思えない実力者だな。・・・どういう試練を受けたのかは知らんが。
「僕は残念ながら、まだ【加護】は貰ってないね」
「私もです」
一方でラングもロゼさんも神様から【加護】を貰っていないらしい。
「・・・意外だな。お前らのことだから真っ先に【神仏界】に突撃したと思ったのに」
「うーん、行きはしたんだけどね。僕らは元々戦闘職でもないし・・・返り討ちだったよ」
だそうだ。
「・・・本当か?」
「本当さ」
・・・本当は【加護】の情報を隠すためにわざと・・・
いや、さすがにそれはないか。・・・ラングならやりかねないが。
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